取材レポート

はつしば学園小学校

育てたい児童像とその方法を明確に提示。江川新校長のもとで、より高まる「はつ小」の教育力。

はつしば学園小学校は、英語を第二言語として学ぶ子どもたちのために作られたプログラム「GrapeSEED」を関西私立小学校で初めて導入するなど、先進的な教育で知られる学校です。2023年度から新校長に就任された江川順一先生に、これからの同校の教育について語っていただきました。

はつしば学園小学校 校長 江川順一先生のお話
個々の興味を大切に育てる環境を整備
「夢と高い志、挑戦、貢献、未来創造」
子ども主体の授業実践「グループ・ペア学習」
私立小の中でも先進的な「英語教育・国際教育」
英語にひたる修学旅行
まとめ
校長 江川順一先生

校長 江川順一先生

はつしば学園小学校 校長 江川順一先生のお話

個々の興味を大切に育てる環境を整備

2023年度からはつしば学園小学校の校長に就任された江川先生。江川先生は40年にわたり北海道で教育に携わってこられ、はつしば学園小学校に赴任する前は札幌市にある立命館慶祥中学校・高等学校(以下、立命館慶祥)で校長をされていました。

立命館慶祥は立命館大学の附属校ながら他大学に進学する生徒も多く、2023年大学入試ではハーバード大学1名・東京大学12名・京都大学3名の現役合格者を輩出。ここ数年で難関大学への合格実績を大きく伸ばしている学校として知られています。

江川先生は、「立命館慶祥では大きな成果を残すことができ、中学・高校の教育でできることはやりきったと感じました。新たな教育の場として、注目したのが小学校です。小学校は義務教育課程の最初であり、6年と長い。この6年で子どもたちが大きく成長すれば、中学以降も素晴らしい成果を出してくれるに違いない。そう考え、志願してはつしば学園小学校に赴任してきました」と話します。

江川先生が教育を展開する上で大切にしていることは、自分の興味を突き詰めていく力を育てることだと力強く語ります。

「今は学力でなく、探究力が求められる時代です。自分がこれと思ったものをトコトン追求できることが重要です。立命館慶祥には自分の好きな化石の探究活動に励み、それを活かして東京大学の学校推薦型選抜に合格した生徒もいました。これも小さい頃からの興味を保護者が大切にして育ててきたからこそ。その興味を踏みにじることのない環境を学校で担保することが大切です。それが世界に太刀打ちできる人材を生むということを、今までの教員人生で実感してきました」。

続けて、同校の環境を整えることで、自分の好きな分野を持っている児童が集まる学校にしたいと話します。

「お互いの『好き』で刺激し合うことで、皆が様々なことにどんどん興味を持ち出します。学校としても子どもたちに刺激を与える機会を多く設定していきます。そうやって6年間過ごせば、きっとスーパー小学生になります。本校からハーバード大学に進む児童が出るとうれしいですね」と江川先生は顔を輝かせます。

「夢と高い志、挑戦、貢献、未来創造」

江川先生は「夢と高い志、挑戦、貢献、未来創造」の5つを6年間で育てたいといいます。それらの力を養うための指導について、次のように説明します。

「夢を見るには『夢見る力』が必要で、その力の育成には好奇心が欠かせません。本校では教員が子ども一人ひとりの興味をしっかり把握し、子どもたちが少しでも気になることは納得いくまで調べて、楽しそうであればそれをさらに探究するなど、興味に寄り添っていく指導を行うことで好奇心旺盛な児童を育てます。また、夢を実現するためには好奇心があるだけではだめで、そこに高い志が必要です。強い信念を持って、自分が定めた夢に一歩ずつ近づいていくことが重要です。そのためには、子どもたちの姿を教員がきちんと見てこれからの道筋を描いてあげることが大切になってくると思います」。

挑戦についてはこう言及します。

「挑戦に必要なのは、自己肯定感。自己肯定感が高くないと、出来ないかも知れないけどやってみようとは思えません。自己肯定感を育むため、例え授業で間違ったことを答えても『その発想いいね!』『おもしろい!』など、受け止めることを大切にしていきます。また、能力ではなく、努力や姿勢を褒めることを心がけます」。

続けて、貢献力は縦割り活動の中で育んでいくといいます。同校は普段の学校生活ではもちろん、行事でも縦割りで取り組む活動を多く設定しています。

「先日の運動会でも6年生と1年生がペアで演技を行いました。6年生がペアの子の面倒を本当に良く見てくれて素晴らしかったです。運動会の様子について6年主任の中田先生は『練習を重ねるにつれどんどんお兄さん、お姉さんらしくなっていきました。(中略)この成長は、学年だけの演技では決して生まれなかったと思います。環境が人を成長させるという事実を目の当たりにした』という言葉を『はつ小だより』に寄せてくれました。異学年での活動が、貢献する気持ちを高めることにつながります。今後も上級生が下級生と共に活動する機会を増やし、貢献力を磨いていきたいと思います」。

未来を創造する力について、「創造力を育成するには、子どもたちの柔らかな頭にたくさんの刺激を与えることが必要です。刺激をシャワーのように浴びせるため、各界の有名人を招いて講演を聞く機会を設けるなどしていきます」と江川先生は語ります。

以上のように書くと、同校の教育を大きく変えるのかと不安になる保護者もいらっしゃるかもしれません。しかし、「私が校長になって、今までの教育を一新するわけではありません。今までも本当に良い活動を行ってきていると感じています。私が行おうとしているのは、今までの活動を整理して、それぞれの活動で育みたい力を皆が分かるようきっちりと位置付けすること。それが出来れば、教育力は何倍にもなります。はつ小のポテンシャルを最大限に引き出す教育を実践していきます」と江川先生は熱く語ります。
運動会_1年生と6年生が心ひとつに

運動会_1年生と6年生が心ひとつに

運動会_縦割り活動で貢献する力を育成

運動会_縦割り活動で貢献する力を育成

子ども主体の授業実践「グループ・ペア学習」

具体的な教育について「グループ・ペア学習」「英語教育・国際教育」「テクノロジー教育」「はつしばサイエンス」を4つの柱として進めるといいます。今回の取材では「グループ・ペア学習」「英語教育・国際教育」について、伺いました。まず、「グループ・ペア学習」について、次のように江川先生は話します。

「新学習指導要領にも主体的・対話的で深い学びの実現が謳われていますが、本校ではその学びを『グループ・ペア学習』という形で以前より実践しています。4人1組・2人1組でのグループワークやディスカッションを授業で多く設定し、そこで得られる他者との対話的な学びを通して、子どもたちのコミュニケーション能力・思考力・自己肯定感を磨いていきます」。

「グループ・ペア学習」での対話的な学びを効果的なものにするために、教員は非常に頭を悩ませて席順を決めているそうです。

「子ども一人ひとりの特性を全部見極めた上で、この児童とこの児童を組み合わせたらこういう効果が出るに違いないと予測して、教員は席順を組んでいます。学習の様子を見ていると、本当にうまくペア学習が成立しており、教員の子どもたちを見る力は素晴らしいと感じます。この指導は10年以上前から実践しており、充実した指導のために立命館大学から先生を呼んで研修を受けていると聞きました。その研鑽の賜物です」。
グループペア学習_4年生のテクノロジー授業

グループペア学習_4年生のテクノロジー授業

グループペア学習_2年生の算数

グループペア学習_2年生の算数

私立小の中でも先進的な「英語教育・国際教育」

英語教育に力を入れていることで知られる同校では、英語の授業を1・2年生4単位、3・4年生3.5単位、5・6年生3単位設け、ネイティブ教員5名で担当しています。

全児童数が500人に対しネイティブ教員が5名という充実した人的環境のもと、英語プログラム「GrapeSEED」を展開します。「GrapeSEED」は、英語を第二言語として学ぶ子どもたちのために作られた教材で、文法的なアプローチではなく、保護者が家庭で子どもに行うような自然な方法で英語を学ぶことができると高い評価を得ています。

今までは「GrapeSEED」を全学年で展開していましたが、2023年度から5・6年生では「English Code」「Weblio Conversation」へと変更しました。

「英語は習熟度の差が出やすい教科でもあるため、個別最適化を図ろうと新しい2つのプログラムを導入しました。『English Code』は手を動かす作業や調べ物、実験などをしながら英語学習を進める指導法です。一種のSTEAM教育で、クリエイティブな活動を英語で行うことで、英語への親しみを高める狙いがあります。『Weblio Conversation』はオンライン英会話。高学歴のフィリピン人講師との1対1で会話します。自分の目指す英検の級に合ったレベルに設定できるので、非常に効果的な時間を過ごすことができます。年間20時間を予定しています」。

また、3年生以上でもオンライン学習アプリ「Weblio Study」を導入しました。

「英語力は定期的に測定していかないと、伸びたかどうか分かりません。本校では英検を測定基準として採用しています。英検に向けた対策を行うため、オンラインアプリ『Weblio Study』を導入しました。同アプリでは、子どもたちはゲーム感覚で自分の習熟度に合わせて、英語4技能を身につけることができます。授業を見学に行ったら、とても面白がって積極的に取り組む姿が多く見られました。家庭学習でも使用可能です」

英語にひたる修学旅行

非常に充実した英語学習の集大成として設けられているのが、6年生の長崎修学旅行での「グローバルビレッジ」です。「グローバルビレッジ」では、世界各国から集まった留学生をリーダーとして、様々な活動をオールイングリッシュで行います。 「1日目の夜に留学生たちの出身国当てクイズを行いました。留学生の国籍はインド・ミャンマー・ベトナムなど12カ国に及び、非常に多彩です。子どもたちは身を乗り出して留学生の話を聞き、次々と質問を浴びせていました。途中で英語の文法的な間違いはありましたが、このプログラムでは少々の間違いは問題にしません。相手に伝えることを大事にしているからです」と江川先生。 2日目には、グループごとに留学生と長崎の街を探索します。グラバー園や大浦天主堂など各グループが設定した目的地へ徒歩や電車で移動する中で、例えばネコを見かけたら、留学生はすかさず「What is that ?」と子どもたちに声を掛け、子どもたちは「Cat !」と答えます。 「このプログラムでは、何でも見るもの聞くものすべてを英語で問い、英語で答えることを繰り返します。面白いと思ったのは、英語が苦手な子ほど楽しんでやっていること。苦手でも自分が今見ているもの、聞いているものを何とか伝えたいと思うんでしょうね。体験に即したプログラムならではの素晴らしさです」と江川先生は話します。 2日目夜の留学生とのお別れ会の際には、泣き出す子もたくさんいるそうです。 「最後にリーダーたちに色紙を書いて渡すのですが、涙、涙でしたね。留学生からは『皆さんはグローバル社会で、グローバルな人間になる人たちです。皆さんは必ず英語を話せる人になります。チャンスを活かしてください』とスピーチがありました。子ども向けの優しい英語で話してくれているわけではありませんが、子どもたちには通じているようです。こういった経験を繰り返し積んでいくことで、本校の卒業生は英語ができるようになっていくのだと感じました」。 実際、同校の英検取得率を見ると、6年生83名の内、中学レベルの5~3級取得者が67名、高校レベルの準2~2級取得者が6名と、9割以上が中学レベル以上の資格を取得しています。 江川先生は「例年は準1級を取得する児童もいます。ただ上位級を取得する児童はインター出身などが多い。しかし、本校では入学してから初めて英語を学んだ児童でも中学レベルの英検を取得しています。このように英語初心者の力をどれくらい伸ばしてあげられるかに、本当の学校の力が試されると考えています」と話し、今後の同校の「英語教育・国際教育」が進む方向について、こう言及します。

「英語力を伸ばすためには、やはり本物の英語に触れることが一番ですので、修学旅行でオーストラリアに行こうと考えています。今の5年生で、2024年2月に自由参加という形で一度やってみようと話しているところです。また海外の学校と姉妹校提携を結べないか模索中です。今の子どもたちが大人になる頃には、海外で学んだり働いたり、あるいは外資系企業に就職することが普通になっていると思います。そうであれば、普段から外国の人たちと密接に話し合いができるような環境を整える必要があるでしょう。本校の誇る『英語教育・国際教育』を磨きに磨いて、他校が追随できない学校を目指します」。
修学旅行_グループアクティビティで留学生ともすっかり打ち解ける

修学旅行_グループアクティビティで留学生ともすっかり打ち解ける

修学旅行_留学生へ心をこめて書いた色紙

修学旅行_留学生へ心をこめて書いた色紙

まとめ

江川先生の教育上のモットーは、子どもたちの応援団であること。高校時代は応援団に所属しており、教師になったのも、子どもたち・生徒たちの応援団になりたかったからだといいます。

「教師になって40年、彼らが本当に自分らしい自分になれるよう常に横に寄り添ってフレーフレーと応援してきました。先日の運動会では、校長挨拶の最後にエールを切りました。子どもたちはとても喜んでくれました。保護者はとてもビックリされたご様子でしたね」と江川先生は笑顔を見せます。
江川先生は、はつ小の子どもたちの応援団として学校の様子を知ってほしいと「はつ小だより」の発行も始めました。

「はつ小だより」には、普段の学校生活や行事での子どもたちの様子や詳細が記されており、読むと今のはつ小、そしてこれからどういうはつ小を目指すかがしっかりと伝わってきます。ホームページにも掲載されていますので、はつ小がどんな学校が知りたい方はもちろん、私立小学校ではどのような教育が行われているかに興味がある方も一度読まれてはいかがでしょうか。

取材協力

はつしば学園小学校

〒599-8125 大阪府堺市東区西野194-1   地図

TEL:072-235-6300

FAX:072-235-6302

URL:http://www.hatsushiba.ed.jp/primary/

はつしば学園小学校