取材レポート

帝塚山小学校

自分の興味や疑問を起点とする教育を通し、学びの原動力を育む

創立以来、日々の生活の中で子ども達が得た発見や疑問について調べたことを皆の前で発表する『おしらせ』に力を入れてきた帝塚山小学校。教科の垣根を超えた学びを通して、子ども達は問題を発見する力や調べる力、プレゼン力などを磨いてきました。

それらの力をより磨けるようにと、同校では学校オリジナルの自学自習用ノート『帝塚山ノート』を制作。2021年度から全学年で導入しました。この『帝塚山ノート』をはじめ、子ども達の主体性を大切にする同校の教育活動と2022年度から変わる夏の臨海学舎について、野村至弘校長先生にお話をお伺いしました。

帝塚山小学校校長 野村至弘先生のお話

野村至弘校長先生

野村至弘校長先生

帝塚山小学校校長 野村至弘先生のお話

『帝塚山ノート』が学びの好循環をもたらす

学校オリジナルの自学自習用ノート『帝塚山ノート』を制作し、2021年度から導入した帝塚山小学校。野村校長先生は、この『帝塚山ノート』を使った1年間を以下のように振り返ります。

「『帝塚山ノート』は、“子ども達が進んで書きたくなるノート”を目指して、教員がアイディアを出し合い、1年の歳月を掛けて作りました。この1年間で個性豊かな自主勉強がたくさん集まってきました。例えば、社会の授業で取り上げられた県をご当地キャラクターのかわいいイラストを使って紹介したものや春の七草のレポートなどの授業を深掘りした発表から、なぜUSJは大阪湾に建てられたのかをテーマに色々調べ、仮説を披露してくれた子もいます。全学年で、ほとんどの子が1学期に1冊を使い切るペースで、興味を持ったことや疑問に思ったことをしっかりとノートにまとめてくれました」。

提出されたノートは、出来る限り廊下に掲示するようにしているそうです。廊下に掲示されたノートは、他学年の子も見ることができます。そのことが自学自習への意欲をより引き出したと野村校長先生は分析します。

「廊下に掲示された他の子のノートに影響を受けて、自らのノート作りに取り入れる姿もよく見られました。全校をあげて取り組んだことで、書く量はもちろん、テーマやノートの使い方も広がりを見せ、自学自習への取り組みは例年以上に活性化したと感じています」。

より活性化した自学自習の取り組みですが、「一番大切にしていることは子ども達の自主性だ」と野村先生は言及した上で、こう続けます。

「このノートに限らず、学びには、やはり子ども自身が興味を持ったり、疑問を感じたりして取り組むということが非常に大きい。自分の興味や疑問を起点として調べていくことで理解や新たな発見ができると、もっと知りたいという気持ちになります。『帝塚山ノート』を導入したことで、子ども達に『興味を深める・次の課題が見つかる・またそれを調べる』という自分を主体とする学びの好循環が見られていると感じています」。


時代に合わせて変わる臨海学習

自然について系統立てて学ぶことを目的として、泊まりがけで行われてきた夏季自然体験活動は、帝塚山小学校が特に力を入れている行事のひとつです。その自然体験活動の4・5年生の活動内容が、2022年度から大きく変わる予定です。

「4年生では行き先を志摩市から大阪湾に変更し、2021年度に5年生で実施して好評だった大阪湾での活動を体験してもらおうと考えています。2021年度は、地引き網体験や栽培漁業センターで魚を育てる取り組みを見学したり、自分たちでいかだを作って、海の上に出たりもしました。地引き網体験ではたくさんの魚が捕れ、子ども達は本当に大阪湾でも魚が捕れるのだと実感したようです。身近な海だけど知らなかったことがたくさんある、と子ども達にとって大きな気づきが得られた活動になりました。この活動後、『帝塚山ノート』でも大阪湾をテーマにした取り組みが数多く見られました。2021年度は日帰りでしたが、2022年度は泊まりがけで、時間をかけてじっくりと取り組めればと思っています」。

5年生では、今までと同じ志摩市に行き、『海を多角的に見る』をテーマに、3つのテーマを設けて活動する予定だそうです。

「まず1つ目は『泳ぐ』。コロナ禍のため、3年近く水泳の授業が出来ていません。そんな中、遠泳をするのは危険が伴うと考え、2022年度からは長い距離を泳ぐのではなく、海での泳ぎを体験するという形に変えたいと考えています。そして、『マリンスポーツ』。具体的にはシーカヤックを予定しています。3年生でも琵琶湖でシーカヤックに乗るのですが、その時のようにスポーツとして楽しむのではなく、移動の手段として使います。最後は『環境問題』。普段見慣れた護岸された浜とは違う自然の磯にシーカヤックで向かい、じっくり観察してもらいたいと思っています。手つかずの磯でも、プラスチックゴミなどが流れ着いています。そういう現実にも触れて、環境問題について考えるきっかけとなればと思っています」。


講座が充実し、より使い勝手のよい“オールインワン”スタイルに

保護者のニーズに応えて、2017年度からスタートしたアフタースクール。様々な講座も開講し、朝、学校に送り出せば、授業の後、アフタースクールで学校の宿題を終えて習い事に参加し、18時30分になるといつものルートで電車に乗って帰ってくるという“オールインワン”スタイルが特徴です。

「アフタースクールが児童の『第2の家』になるようにと運営を委託している教育サービス会社とも話し、リラックスできる雰囲気を大切に運営してもらっています。最近は、お預かりの時間帯を利用した講座がより一層充実し、2021年度にはサッカー・ダンス・体操が増えました。これらは本校の体育館や運動場で行っていますので、参加する子は授業後、そのまま体育館や運動場に向かうことができます」。

宿題以外の勉強についても見てほしいというニーズに応えて、学習系の講座も充実しています。

「パズル道場や学習講座も開講しています。学習講座には個別指導と集団授業の2パターンがあり、学校の補習的な指導から塾教材についての質問にも対応しています。ロボット科学教室も人気ですね。このように定期的に開講される講座以外にも、夏休みなどの長期休暇にはJAXAコズミックカレッジやバスケットボールなど、スポット講座も開かれています」。

保護者にアフタースクールを利用した感想を聞くと、「使い勝手が良い」「帝塚山小学校の児童限定だから安心して預けることができる」「勉強の面倒も見てくれるので非常に助かっている」という声が寄せられるそうです。

「現在、アフタースクールには、低学年を中心に、どの曜日も30人ほどが通っています。講座だけ参加する子どももたくさんいます。またお預かりについても、登録を事前にしておいてもらえれば、前日までの申し込みで、スポットで利用することも可能です。2022年度で6年目になりますが、これからもニーズに応じて講座を増やしていくことも検討しています」。


『朝顔の種リレー』に命をつなぐことの大切さを知る

2021年7月、奈良新聞社の「コロナ禍でも途切れない学びの精神と奮闘先生」という特集に帝塚山小学校が取り上げられました。その時に掲載された一枚の写真には、朝顔の鉢植えに真剣に水やりをする女の子が写っていました。

「なぜこの子がこんなに真剣な表情をしているのか。不思議に思って理由を考えてみた所、彼女たちが育てている朝顔の種は2年生から引き継いだものだからということに行き着きました。例年、本校では2年生が1年生の時に育てていた朝顔から採った種を1年生にお手紙付きで渡しています。そのお手紙には『大事に育ててくださいね』などと書かれています。それを見た1年生は『枯らしてはいけない』と思うのでしょうね。その思いが、この真剣な表情につながったのでしょう」。

この『朝顔の種リレー』は、30年以上続いてきた伝統行事で、先日行われた卒業式でも、5年生が卒業していく6年生に向けて、2年生の時に種をもらったことを今でも覚えていると伝えたそうです。それを聞いて、種が培ったつながりというのは非常に大きいのだと改めて感じたと野村校長先生は語ります。

「大人にとってはただの種のリレーですが、子ども達は命をつなげていくということを意識してくれているのだと気づきました。命のリレーだからこそ、お世話も真剣にし、観察も毎日のようにしてくれるでしょう。今の1年生も、新入生に引き継ぐために大事に育てて、種を貯めてくれています。下につながないといけないという責任感も、このリレーを通して育まれているようです」。


取材を終えて

取材時に見せていただいた『帝塚山ノート』からは「自分の興味を持ったこと・疑問に思ったことを皆に伝えたい」という子ども達の気持ちが伝わってきました。その気持ちこそ、学びの原動力となるもの。
今回お話を伺った『おしらせ』『帝塚山ノート』『朝顔の種リレー』をはじめ、帝塚山小学校で過ごす毎日には、この学びの原動力を養う活動がちりばめられています。だからこそ、子ども達は無理なく考える力の根っこを太くし、好奇心の枝葉を存分に広げていけるのでしょう。この環境で6年間を過ごすことで得られる力は、小学校卒業以降、長く続く人生を歩んでいくための強固な礎となってくれるはずです。

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