取材レポート

立命館小学校

附属校ならではの12年一貫教育で、自分の強みを生かして社会に貢献できる人材を育てる

2006年に立命館学園初の小学校として創立された立命館小学校。「培根達支(ばいこんたっし)」※の理念のもと、子ども達の根っこを培う教育を展開。学びの基礎・基本を身につけ、社会の様々な分野で活躍できる人の育成を目指します。立命館大学国際教育推進機構教授であり、立命館小学校の校長を務める堀江未来先生に、同校の教育の特長やコロナ禍での教育についてお伺いしました。

※「培根達支(ばいこんたっし)」
人生を豊かにし、学問を大成させるには生き方の根本、学びの基礎・基本を若いうちにしっかり養い育てることが重要であるという意味を持つ

立命館小学校 校長 堀江未来先生のお話

堀江未来校長先生

堀江未来校長先生

立命館小学校 校長 堀江未来先生のお話

学園全体で子どもを支える

立命館小学校の大きな特徴のひとつが、12年一貫教育であることです。堀江先生は、12年一貫教育について、「子ども達は受験で遮られない分、探究的な学びや国際交流など自分の興味がある分野に注力して、学びを深めていけます。教員にとっても長い目で子ども達を見守ってあげられる、とても良い環境です」と話します。

「子どもの成長にはアップダウンがあります。特に思春期の頃は、心と体の成長が急速にすすみ、不安定な時期がありますが、あるところで統合されて落ち着いていきます。私もこれまで色々な子どもの成長を見てきましたが、高校で活発に活動している子が小学校時代はおとなしくて目立たない子だったということもよくあります。それは小学校時代から大事に育ててきたものの芽が、高校生になってから出たんだと感じています。子ども達を小学校6年間で完成させる必要はなく、12年間のどこかでその子らしさが芽生えて、ぐっと成長する時がきたらいいという姿勢で見守ることができるのは、本校の大きな特徴です」

同校では学校をまたいだ教員異動もあり、立命館小学校で教えていた教員が立命館中学校・高等学校で教えて、また戻ってきてということを毎年繰り返しているそうです。その結果、小学校と中学校という異なる発達段階にある子どもの姿を理解している教員が増えてきたことも、日々の指導に良い影響を与えています。

また、月に2回、小・中高双方の校長・副校長・教頭・事務長によるミーティングも行い、それぞれのキャンパスの情報交換をしたり、一緒に行事を企画したりしているといいます。堀江先生は、このような取り組みにより、どちらの学校にも「中高の生徒・小学校の児童ではなく、皆うちの生徒であり、児童であるという意識が生まれた」と話します。

「本校では卒業生の多くが立命館大学に進学します。最近では、学園の会議でも附属校で育った子ども達のことを話すことが多く、小中高の12年だけではなく、大学も含めて皆で小学生から大学生・大学院生まで見て行きましょうという雰囲気は少しずつ出来てきたかなと感じています」

リーダーになりたいと思え、それを素直に言える環境

昨年度までは小中高の代表校長として小学校と中高を行き来していた堀江先生は、中高での小学校出身者の様子について次のように話します。

「中学校の教員からは、本校出身者に対して、まずプレゼンテーション力がとても高いという評価を受けています。そして英語力。英語に対する抵抗感が少なく、国際交流に慣れており異文化の人と自然に接する姿勢が身についていますねと。また、チームで話し合って何かすることが得意で、リーダーを募集する場面で手を挙げる子も多いようです。学級委員決めの時に、手を挙げた生徒の多くが本校出身者だったという話も聞きました」

このような場面は、小学校時代も至る所で見られるそうです。先日、あるクラスで学級委員を決めるのに15人も立候補者がいたと堀江先生は笑顔を見せます。

「これも日々、失敗を恐れずに何でもやってみようと伝えている結果と捉えています。立候補した15人の内、13人は学級委員にはなれませんが、その後もほとんどの子はまたチャレンジしようと、立候補をし続けてくれます。これも頑張っている人を応援しようという周りの目が暖かいからこそ。中には失敗したら恥ずかしいと思っている子もいるでしょう。その子達のサポートも丁寧に行い、リーダーになりたいと思った子が素直に手を挙げられる環境を学校として大事にしています」

グローバルな場で求められる、真の国際人の育成を目指す

立命館小学校では、「確かな学力を育てる」「真の国際人を育てる」「豊かな感性を育む」「高い倫理観と自立心を養う」という4つの柱を根本に据えた教育を展開します。この中のひとつ・真の国際人を育てる教育について、堀江先生は次のように説明します。

「真の国際人というと色んな解釈があると思いますが、まず学校で掲げているのは自分が所属している世界をより良い場所に変えていくために、学んで得た知識や能力を使ってどんなことが出来るかを常に考えられる人であること。次に、多様性を尊重できる人のこと。子ども達にもダイバーシティ&インクルージョンを当たり前のこととして、行動できるようにしましょうと言っています」

このような考えのもと、同校では真の国際人の育成を目指し、様々な教育を展開。コミュニケーションのツールとしての英語力を磨くべく、英語教育も1年次から実践しています。

「本校の英語教育で目指すのは、グローバルな場で一番求められるコミュニケーション行動を取れる人になること。それには適切に英語を話すだけでなく、必要とあれば他の言語に切り替えたり、人の通訳もしたりしながら、コミュニケーションを組み立てる力が求められます。このような人を本校では『ファンクショナル・バイリンガル』と呼んでいます」

その力の育みに大きな影響を与えている取り組みが、毎年9月に行われている『ワールドウィーク』です。これは、大分県にある立命館アジア太平洋大学(APU)や立命館大学で学ぶ国際学生約40人が同校を訪れ、1週間、子ども達と共に学校生活を送るというもの。全クラスに、担当学生が1~2人付きます。子ども達はゲストの学生と共に、色々な教育活動を英語で楽しみます。この活動は、子ども達が世界の多様性を学ぶ入り口となっていると堀江先生は述べます。

「毎年行っているので、全児童が小学校生活の中で6回体験でき、毎年様々な国の学生と出会えます。国際学生達の出身国は、インドやスリランカ、ネパールなど様々。ほとんどが英語ネイティブではなく、第2・第3言語として英語をとても高いレベルで使う、グローバルなコミュニケーション力の高い人物です。国際学生から聞く出身国の小学校での経験や多様な英語など、その姿から学べることは多岐にわたります。この経験から、APUへの進学を決めた子もいるほど、子ども達にとって大きなインパクトを与える活動です」

この『ワールドウィーク』以外にも、北京大学附属小学校やタイの王宮内にあるチラダスクールなど、特徴をもった世界中の協定校と連携して行う短期留学プログラムや、10週にわたるオーストラリアのトゥーンバアングリカンスクールでのターム留学など、多彩な国際交流プログラムが同校には用意されています。

これらの海外研修プログラムはこの2年間はコロナ禍のため出来ていませんが、代替として2021年度は全学年でオンライン交流を実施。各学年で異なる海外校と交流授業を行った時は、クラス全体での交流のほか、2対2で自己紹介アクティビティを行ったり、ビブリオバトルをしたりしたそうです。

このICTを活用した国際交流を振り返って、「以前は、渡航を伴うものは限られた人数しか参加できませんでした。しかし、オンラインを導入したことで全員が参加でき、国際交流のハードルが下がったと感じています」と堀江先生は話します。

子どもの居場所を増やすハウス活動

立命館小学校の学校生活を語る上で外せない取り組みのひとつが、ハウス活動です。これは各学年1人ずつの6名で構成するBS(ブラザー&シスター)を最小単位とした縦割り活動で、BSが5つ集まったファミリー、4つのファミリーが集まったハウスという3段階の構成となっています。下駄箱がハウス別に設置されているほか、運動会は6つあるハウス対抗で競い合う、清掃活動もBS単位で行うなど、ハウス活動は同校の学校生活に根差しています。

「先日も新1年生をハウスに迎えるハウス歓迎会があり、BS単位で1年生を囲んでゲームなどをしました。そこで大事にしてもらった体験が、ハウス活動の原点となります。子ども達は様々な活動での先輩たちの姿を見て、2.3年生になった時に1年生にどのように接するか、高学年になった時に何をしてあげるかを学んでいきます。そして、6年間の中で、絶対自分がリーダーになる時が来ます。リーダーになれば、低学年に掃除の仕方を教えたり、色々な場を仕切ったりする必要が出てきます。このハウス活動を通じて、子ども達はリーダーシップとチーム力を培っていきます」

このハウス活動のグループは最小単位であるBSを含め、6年間変わることはありません。「ずっと固定メンバーだったら人間関係で問題があった時にどうするのかと良く聞かれるのですが、これまでメンバーを変えなければならなかったことは一度もありません」と堀江先生。

「同級生だと張り合ってしまうことでも異年齢だと納得しやすいのか、関係がこじれすぎることもあまりありません。揉めるようなことがあれば、それを解決することも大事な教育的経験です。我々も丁寧に対応していきます」

またハウスの担当教員も固定であることも、この活動の良い点だと堀江先生は指摘します。

「子どもを軸に考えると、クラス・学年という横のつながりとハウスの縦のつながりの両方があることで居場所も多く、役割の種類も多くなります。またハウス担当の先生は基本的には6年間変わらず、ハウスの子ども達の成長を見守っていきます。相談したいことがあった時に担任にも、学年の先生にも、ハウスの先生にも相談できます。一人の子どもに、縦横斜めに色んな大人が関わっているということのメリットは大きいと思います」

挑戦し、失敗から学ぶ姿勢を大切に

2020年の全国一斉休校の際は、4月からオンラインでの学びを提供した立命館小学校。この2年間止まることなく、子ども達に教育を届けられたその陰には立命館学園のバックアップがあったといいます。

「教育活動の目安となる綿密なガイドラインを早い段階で定めることが出来たことが一番大きいです。また、本校が恵まれていたのは、学園に危機管理対策を専門に担う部署があったことです。その部署が危険レベル判断を随時してくれました。これは小学校単独で行うのはとても難しく、できない学校も多いと思います。しかし、知見に基づいたレベル判断があり、本校にはそれを受けた具体的なガイドラインがあったので、安全・安心を第一に、出来るギリギリの範囲まで教育を行えました」(堀江先生)

加えて、「こんな状況だからと止めることは簡単です。でも、止めようという声もほとんど出ず、こんな時だからやっていきましょうという声が先生方から上がりました。新しいことを面白がってやってくれる先生が多いというのも本校の大きな強みです」と堀江先生は力強く話します。

今、学園全体で2030年に向けての目標として、『挑戦を、もっと自由に』という言葉を掲げているそうです。

「変化が激しい時代で、子ども達に身につけてほしいことのひとつに、正解のない問いに立ち向かっていく姿勢があります。それには新しいことに挑戦をして、うまくいかないことがあったら、それをどう解消するかという失敗の中から学び続けていく力が大事です。それを子ども達に身につけてもらうには、私たち大人もそういう姿を見せないといけません。本校では先生方がチャレンジする姿をたくさん見せてくれるからこそ、子ども達も積極的に行動するという良い循環が生まれています」

まとめ

最後に堀江先生は、子ども達に「小学校がすごく楽しかった、色々なことを学べた。周りの子たちもサポートしてくれて、先生もサポートしてくれた。そう感じたなら、新しい環境に行ったら今度は自分がそういう場を作る役割」と思ってほしいと話されました。

「それは自分がすごく成長できる場を経験した人の責任です。もし、自分が新しく出会う環境がそういう場でなかったら、それを作っていくリーダーになろう。自分の強みで人を助け、自分ができないことや助けが必要な時は助けてもらえるような関係を作ろうねと伝えています。それは人生の中でも大事なことです」

この堀江先生の言葉から、子ども達の未来を大切に日々の指導をしている気持ちが伝わってきます。このような指導も、受験がなく、12年という長い視点で子どもを見守ることができる附属校ならではの環境の賜物です。この環境の中、自分の根っこをしっかりと育てることのできた子ども達の将来が楽しみでなりません。

このページのTOP

取材協力

立命館小学校

〒603-8141 京都府京都市北区小山西上総町22番地   地図

TEL:075-496-7777

FAX:075-496-7770

URL:http://www.ritsumei.ac.jp/primary/

立命館小学校