取材レポート

追手門学院小学校

子ども達の安定を第一義に考えて展開する、伝統校のコロナ禍の教育

1888年創設と西日本で最も古い私立小学校である追手門学院小学校。教育理念に「社会有為の人材育成」を掲げ、未来の社会を担うリーダーの育成に尽力してきました。「子ども達が穏やかに学校で生活できるように」を大切に進められるコロナ禍での教育について、校長の井上恵二先生に話をお伺いしました。

追手門学院小学校 校長 井上恵二先生のお話
井上恵二 校長先生

井上恵二 校長先生

追手門学院小学校 校長 井上恵二先生のお話

子ども達が穏やかに学校生活を送れることを大切に、教育を進める

追手門学院小学校では、毎年新学年が始動するにあたり、全教員がスクールカウンセラーによる講習を受けます。2021年度の講習では、スクールカウンセラーから「今が普通の状態ではないことを、教員がしっかりと理解しておかないといけない」と話されたそうです。

「コロナ禍に入って1年以上が経ち、教員は変わってしまった学校のリズムに慣れてきて、それが普通と感じるようになってきました。しかし、子ども達にとってはそうではありません。リモートワークの普及でお父さん・お母さんが家にずっといるようになったり、本校は医療関係者のお子さんも多いので、リアルに対コロナで、命がけで戦っている親御さんもいらっしゃったりと家庭環境は大きく変わっています。それをきちんと教員が認識して、子ども達のケアを、今まで以上に大切にしてほしいとスクールカウンセラーの先生からお話がありました」(井上校長先生)

その話を踏まえて、学校として「学校生活のリズムを大切に、感染対策をしながら、子ども達が穏やかに学校で生活できるようにすること」を第一義に考えるようになったと井上校長先生は話します。

「子ども達は休み時間にしっかり遊ぶことで、色んな気持ちを発散します。子ども達が休み時間を目いっぱい使えるように、単純なことですが、授業をチャイムで終えることを大切にしています。また、理科の授業と兼ねて、大阪城に行くなど、時間に余裕がある時は教室内にこもりっきりにならないように工夫をしています」

また、2019年に竣工したメディアラボの屋上に設けられた理科園も、子ども達の癒やしに役立っていると言います。

「すごく景色の良い所で、休み時間も自由に入れるよう開放しています。今の時期は夏野菜がいっぱい育っているんですよ。これは、理科園担当の教員と児童会のメンバー、それに理科園が好きで良く来る子ども達が、苗を植え付け、世話をしてくれています」と井上校長先生は笑顔を見せます。

授業面でも、2021年度は水泳の授業を再開。音楽の授業では通常通り、歌唱も行います。

「水泳は人数を半分にして再開しました。更衣中の感染リスクが高いということで、十分な広さを確保できるよう従来の更衣室の設えを変えるほか、特設更衣室を用意するなど、万全の対策を施した上で行っています。音楽の授業は、ランチルームとして使っていたスカイホールを利用しています。スカイホールは、500席以上あるホールです。その広さに加え、フェイスシールドも併用し、子ども達は歌を歌います。やはり思いっきり、歌わせてあげたいですからね。制限のある中でも、できる限りいつも通りの学校生活を保つために、色々な対策を講じていきます」(井上校長先生)
休み時間

休み時間

大阪城散策

大阪城散策

理科園での苗植え

理科園での苗植え

水泳授業

水泳授業

子ども達に楽しい時間を贈りたい。その思いから生まれた文化ウィーク

追手門学院小学校では、2020年度は文化祭の代わりに「文化ウィーク」という新しい行事を開催しました。2週間に渡る文化ウィークでは、様々な文化のプロが学校を来訪。NHK Eテレ『ピタゴラスイッチ』でおなじみの『栗コーダーカルテット』によるコンサート、ピアノ演奏といった音楽系はもちろん、スタッキングやけん玉、縄跳び、バトンの世界チャンピオンの演技などの運動系、俳人の夏井いつき先生による俳句講座、天満繁昌亭での寄席の鑑賞、科学実験まで、幅広いジャンルの催しを行いました。

「鑑賞するだけでなく、子ども達が実際に体験する催しも用意しました。皆、プロの技にすごいと目を輝かせていましたね。『プロの技を目にすることや指導を受けることで文化を吸収しよう、そして自分も何か頑張れる目標を持とう』を掲げて開催しましたが、実の所、私たちの一番の目的は子ども達に楽しんでもらうことにありました。2020年度は、子ども達が楽しみにしている行事を行うのが難しい状況でしたので、楽しいことをさせてあげたいと。子ども達にも保護者にも非常に好評でした。2021年度も文化祭ができないようであれば、子ども達の発表を何か一つでも入れる形で、文化ウィークを開催できればと考えています」(井上校長先生)
文化ウィーク

文化ウィーク

文化ウィーク

文化ウィーク

教員体制をより充実させ、子ども達のケアを積極的に行う

追手門学院小学校では、子ども達に対しても、スクールカウンセラーによる心の授業を実施しています。

「本校では2018年度からスクールカウンセラーによる心の授業を実施してきました。当初は6年生を対象としていましたが、現在は4年生以上、学期に1回、学級ごとに授業として行っています。イライラした時にはこんな風な捉え方をしたらいいよといった心の持ちようであったり、具体的なお友達や親への関わり方など幅広いトピックを設け、気づきがたくさんもらえる授業となっています。特にコロナ禍にあって、自分の心をきちんとコントロールして安定した状態を維持するための技を学んでもらう機会になればと思っています」(井上校長先生)

同校では、2021年度から子どもサポート委員会を立ち上げ、子ども達の生活をサポートする教員も増やしました。

「ひと言もらえるだけで、よりその日の学びが充実する子どもがたくさんいるのではないかと常々思っていましたので、そのひと言係を子どもの状態をよく見抜けるベテラン教員に担当してもらうことにしました。移動の時間に間に合わない子のちょっとした手助けをしてもらったり、少し学習につまずいている子に理解につながる声がけをしてもらったりしています。多くのプロの目で色んな角度から子ども達をサポートしていく体制を整えていきます」(井上校長先生)
心の授業

心の授業

初等教育で学ぶべき基礎学習を今一度、大切に

追手門学院小学校では、2020年度の新型コロナウィルス対策による休校措置の際は、ICTを活用し、授業動画の配信や双方向のオンライン・ホームルームなどを実施。通常と比べても、そう変わることがない授業進度で教科学習を進めることが出来ました。その経験を通し、2021年度が始まる際に掲げたスローガンが「読み・書き・計算×ICT」です。

「ICTを活用する機会が増えるに従って、逆にICTだけに偏っては、初等教育は成り立たないと実感するようになりました。実際に手を動かして書いたり、消したり、計算したりという基礎学習は、面倒だし非合理的なものです。しかし、子ども達は手を動かすことで学びを自分のものにしていきます。だからこそ、初等教育の原点に戻って、朝の時間に『読み・書き・計算』を今一度きちんと学ばせる体制を整えました」(井上校長先生)

『書く』『計算』については、通常のテキストのほか、別紙プリントを作成し、反復練習を大切に進めます。また、ノートをきれいに取るという基本に立ち返っての指導も行っているとのこと。
『読む』ことは、週3回、全校に同じ新聞記事を配って、学年に応じて、読む・読んでまとめるなどを行うほか、5年生では読売新聞社から教材を提供してもらってNIE(Newspaper In Education)も実施。これは「コロナ禍で色々な情報があふれ、その中から何が正しいのかを見極める目が大切」という経験から、少しでも新聞に触れてほしいと始めたそうです。また、「本校では電子図書システムを導入し、個人所有のタブレットで読むことも可能ですが、ライブラリーで紙の本を借りて読むことも大切にしています」と井上校長先生は話します。

「アナログは手間はかかりますが、その手間や不便さから学べることがたくさんあります。そのことを初等教育の段階で、きちんと経験させておくことで、中学生以降の学びに繋がります。『読み・書き・計算』というしっかりとした土台にICTという最先端教育を融合させて、本校独自の未来型教育を生みだしていきます」(井上校長先生)
「読み・書き・計算×ICT」

「読み・書き・計算×ICT」

新聞を活用した学び

新聞を活用した学び

ライブラリーの様子

ライブラリーの様子

恵まれた教育環境が、対面式の参観を叶える

追手門学院小学校では、2020年度も対面式の参観を実施しました。感染対策のため、参観は中止、もしくはオンラインでという学校が多い中、同校で対面式の参観が実現できた理由は、その恵まれた教育環境にあります。

「スカイホールをはじめ、110記念ホール、メディアラボのアクティブスペースなど、本来なら何学級でも入れる場所を1学級のために開放し、それぞれ広い場所に分散して参観と懇談会を実施しました。参観を実施するにあたって、ホールに可動式のホワイトボードや電子黒板を複数台持ち込むことで授業環境を整えました。ICT環境が整っていることも、本校が対面式の参観を実施できた要因のひとつです」(井上校長先生)

同校では、秋には体育参観も実施しました。

「全学年一斉の体育大会はできませんでしたので、体育参観日を設けて、各学年3~4種目を運動場で披露しました。ムードを出すために、いつも通りテントを張って、観覧席も作りました。観覧者はその学年の保護者だけです。ゆったりと2時間ほど見ていただきましたが、競技に出ているのが、自分たちがよく知っている子ども達ばかりということもあって、とても温かい雰囲気でしたね」(井上校長先生)

これらの参観行事の実施にあたっては、保護者からたくさんの喜びの声が届いたそうです。

「参観を行った理由は、子どもの成長を見ていただきたいという思いが一番です。そのために、広い場所を使って、安全面に充分に配慮した上で授業参観をしました。そして、活動的な子ども達の様子も見てもらいたいと、体育参観を開きました。いつもの体育大会も良いけれど、今年の体育参観のような形も良いというお声をたくさん頂きましたね。保護者の方々に、子ども達の成長を感じていただけて、開催した意義は深かったと思います」(井上校長先生)
体育参観

体育参観

まとめ

追手門学院小学校では、いつもは掲示板に貼り出す形で行う4月のクラス発表を、2021年度は密を避けるために、前日にメールで通知する形で行いました。そのため、新学期スタート時には、まるでクラス替えなどなかったかのような雰囲気だったそうです。その光景を見た時の思いについて、井上校長先生はこう話します。

「今回は事前にお知らせしていたため、まるでクラス替えなどなかったかのように、皆、整然と新しいクラスに入っていきました。その姿を見て、何か欠けてしまったなという感覚を私は強く覚えました。本来なら、ドキドキしながら学校に来て、掲示板を見るわけです。そこで新しいクラスを知って、喜んだり、落胆したりする。そして、学校から帰ってきて、子ども達は親に『良かった』や『友だちと一緒になれなかった』などと報告します。子どもは親がいない所で新しいクラスを受け止めることで成長し、親も子の気持ちに同調したり、励ましたりすることで、親として成長していきます。その経験が失われてしまいました。他にも、給食のおかわりを入れるのを先生がするようになったり、体育で体を触れ合うことが出来なくなったりしています。このように生活を通しての学びの機会が少しずつ減っていることは、入学式や運動会がなくなることよりも、大きいことかもしれません。集団生活でしか学べない、日常的な学校教育で大事にしていたものの価値を今実感している所です」

その思いが、非常に多くの労力を掛けてでも、水泳や音楽などの授業を普段通りに近い形で行うことや、子ども達が休み時間にしっかりと気持ちを発散できる体制を整えること、『読み・書き・計算』という初等教育の基礎を再徹底することにつながったと井上校長先生は話します。

当たり前にしてきた活動の教育的価値は、見逃されやすいものです。しかし、同校がそれをしっかりと認識して、学校としてあるべき姿を大切にしているからこそ、多くの保護者が同校を選ぶのだと感じた取材でした。

このページのTOP

取材協力

追手門学院小学校

〒540-0008 大阪府大阪市中央区大手前1-3-20   地図

TEL:06-6942-2231

FAX:06-6946-6022

URL:https://www.otemon-e.ed.jp/

追手門学院小学校