取材レポート

小林聖心女子学院小学校

1年生で算数が大好きに。算数専科と担任で作る、ライブ感のあるマルチ編成授業。

小林聖心女子学院は、小学校から高校までの12年一貫教育が特徴です。女子の成長にあわせ、12年を4年ごとに3つのStageで構成。キリスト教の教えの下、自分らしさを活かして積極的に社会貢献できる力を丁寧に育んでいます。

毎年、取材に伺う度に印象的なのは、教育プログラムを紹介してくださる先生方の情熱です。今回は小学校1年生の算数の授業を参観し、現在、積極的に取り組んでいる「マルチ編成クラス」について、お話を聞きました。勉強が本格的に始まる小学校1年生で、算数が大好きになってほしい、学ぶことの楽しさを知ってほしいという先生方の思いが詰まったライブ感のある授業でした。

【目次】

1年あやめ組の算数授業レポート

一般的に小学校低学年は、クラス単位でほとんどの教科を担任が指導しますが、小林聖心女子学院では、英語、算数、体育などで、多様で柔軟な構成が可能になるマルチ編成クラスが導入されています。1クラスを専科と担任のふたりで担当する算数の授業を拝見しました。

この日はくり上がりのある足し算がテーマ。「3+9」をテーマに、「3」に、「9」のうちくり上げるための「7」を足す方法と、「9」に、「3」のうちくり上げるための「1」を加える2つの方法を学びます。普段から宿題などで、10の数字の組み合わせを数え歌で覚える取り組みも実施されているとのこと。授業だけでなく、数の概念をくり返して身につける習慣もできているそうです。

算数専科の松居先生がメインですが、担任の永山先生も加わり、テンポよく授業を進めています。専科の先生は子供たちの自由な発言をピックアップし、授業へ自然に組み込み、授業の流れを作っていきます。一方、担任の先生は、子供たちが書くノートなどチェックしながら理解度や進度をすかさずチェック、ミニテストの採点や直しの指導などを授業中に入れ、授業が止まらないように気を付けながらも、全員が学力を高めていくための学びの環境づくりを担当しておられました。

算数専科の先生が、子供たちの集中力を切らさないように終始コミュニケーションを取りながら授業を進め、同時に担任の先生が細やかにフォローしていることもあって、1年生とは思えないほど、みんな授業に積極的に参加します。途中、ペアになって足し算の方法をブロックを使いながら口頭で練習する時も、子供たち同士でヒントを出したり、励ましたりしながら学んでおり、終了まで集中が途切れることがありません。子供は気づきや意見を積極的に発表し、先生が自然に取り入れて授業を進めていく様子は一体感のあるすばらしい授業でした。

1年生算数でのマルチ編成クラスのメリット(算数専科・松居恵子教諭、1年生学年主任・永山啓子教諭のお話)

算数専科1年生学年担任 松居恵子教諭
1年生あやめ組担任・学年主任 永山啓子教諭

松居先生…私はこれまで小学校教員としてさまざまな教科の指導に当たる中で、特に算数教育を中心に研究を進めてきました。今年度は、算数専科として勤務させていただいています。私立小学校の集まりでは役員をしたり、全国で研究発表をさせてただいたり、算数の授業研究を続けています。以前は大阪教育大学附属小学校において、「新しい算数研究」として授業をさせていただき、国公立の先生方からも意見をいただくなど、研鑽を積んできました。

今年は1年生のみを集中して担当させていただいています。1年生は算数を学び始める大切な時期。この時期の児童と算数専科としてかかわることで、一人ひとりが算数を大好きになってほしい、学びへの喜びを育んでほしいと考えています。そのためにはやはり授業がもっとも大切という思いがあり、どうやったら子供たちが楽しみながら、算数を好きになる授業ができるか試行錯誤しています。

1年生はすべての学びの第一歩ですから、算数でもノートの書き方や発表の仕方を大切にします。足し算も簡単なところですが、どうしてこの数になるのかを丁寧に指導し、基礎基本の習得を大切にしています。算数でのマルチ編成クラスは、私にとっては初めての取り組みです。算数の授業をどうしていくかを深く考えることができるため、今年はとくに熱が入った授業になっていますね。本校の子供たちはみんな素直です。教師の思いにも応えてくれ、毎回、積極的に授業に参加してくれる様子に、ますます授業を大切にしようという気持ちが募っています。

算数はおうちでの宿題も大切にしていますが、保護者の方も丁寧に子供たちの学びを支援してくださるのでありがたいです。ノートへのコメントから、保護者の方の思いも大変強く伝わってきます。子供たちのやる気、保護者の方の熱意が、私の授業づくりの源泉ですね。

授業の工夫はもちろんですが、私は本校で採用している教科書以外にも、他社の教科書にはすべて目を通し、よいところをピックアップして授業に組み込んでいます。先日、子供が授業の終わりに寄って来てくれて、「大きくなったら松居先生みたいになりたい」と言ってくれました。教師冥利につきますね。

これからも先生と、そして子供たち同士との対話を大切にしながら、算数が大好きになる授業づくりに励みます。ぜひマルチ編成クラスの授業をご覧いただき、本校の学びを選んでいただければと思います。


永山啓子先生…算数の授業は、従来一人で教えていましたが、それを2人で担当することで、専科の先生は授業としてやりたいことを授業を止めずに深められます。学級担任は子供たちの個性やその日の様子をよく理解していますから、きめ細やかなサポートができます。

1年生は学びのスタートの大切な時期です。教師がひとりの場合、児童の誰か一人の対応のために手を止めてしまうと、授業全体が止まってしまうこともあります。マルチ編成クラスの場合ですと、教師が複数名いますので全体の流れを止めないように進められるのも大きい。従来よりもマルチ編成クラスは授業を効率的に進められますし、授業内容の質が向上したと感じます。

算数ではノートに書き、友達と練習し、先生と確認し、おうちで保護者の方と復習するという、状況を変えて何度も同じことをくり返す「変化のあるくり返し」を大切にしています。とくに低学年は基礎基本の定着が大切ですから、細かいところまで教師がチェックするようにしています。数の組み合わせを数え歌で覚えていくこともそのひとつです。歌で楽しみながら、数の概念を体感して覚えるように取り組んでいます。

私たちとしては、1時間の授業で、できるだけ全員が発表できるように心がけています。マルチ編成クラスは、声に出して表現することのサポートがしやすい。数え歌もそうですが、1年生はとくに教師が見てあげることが大切な時期。教師が2名いることで、正確にしっかりと聞いてあげられますし、児童の方は、教師にきちんと聞いてもらえることで達成感を持てます。また確認の時間も2人で見ることで児童の待ち時間が少なくなりますので、これも授業の質を上げる工夫ですね。授業中に理解を完結し、すっきりわかって疑問点を残さないように心がけています。

このマルチ編成クラスですと、担任の方は授業についていけていない子供をしっかりとフォローできますので、全体の底上げになっている実感がありますね。StageⅠ(小1~小4)は基礎基本を大切にすることで、たしかな学力を育む時期です。秋の授業参観では、保護者の方にもマルチ編成クラスでの算数の授業を見ていただきました。2人で同時に授業を進行し、計算を丁寧に定着させている様子に安心していただくことができました。
算数専科1年生学年担任 松居恵子教諭

算数専科1年生学年担任 松居恵子教諭

1年生あやめ組担任・学年主任 永山啓子教諭

1年生あやめ組担任・学年主任 永山啓子教諭

マルチ編成クラスで個別最適化を柔軟に(河本周介副校長のお話)

マルチ編成クラスは、StageⅡにあたる小学5・6年生に、中学校の先生方が授業をするという連携授業がベースとなって立ち上がりました。このクラス編成にはいくつかのパターンがあります。

・1クラス-1部屋-教師2名 ※1年生算数のタイプ
・1クラス-2部屋-教師2名 ※英語の少人数制授業など
・2クラス-X部屋-教師3名 ※学年全体を習熟度別や種目別にわける体育など

多様な構成でクラスを編成することで、子供の特性に応じた学びを提供できるシステムです。

このシステムのメリットは、複数の教師が授業を進行することで、子供たちを待たせる隙間時間が発生しにくくなることです。たとえば教師がひとりの場合、板書している間、どうしても子どもの発言は止まってしまいます。まずは子供たちに授業中の思考の空白を与えたくないと考え、メインの教員が授業を進め、サブの教員が板書を行ったり、子供たちの様子を見て回って足並みをそろえたりすることで、全体の思考モードを止めないことを目指しました。

また専科の教員が授業に入ることで、複数のクラスが同質の授業を受けられることもメリットのひとつです。本校でも複数の教員が一緒に教材研究をすることが増え、全体としてプログラムの質が高まっていると感じています。

加えて授業中に個別の作業をする場合も、複数の教員が確認をするため、それぞれのグループやペアの意見、内容が深まりやすい利点もあります。従来のT.T.(Team Teaching)よりも、さらに多様な編成が組めますので、臨機応変な対応が可能になりました。

現在は英語や算数、体育においてマルチ編成クラスを導入しています。英語など少人数指導に関しては、マルチ編成クラスで1クラスを2つに分け、多すぎず少なすぎない人数で運用しています。体育では2クラスを合同にして、専科+担任2名の3名で指導します。そのため、模範指導・個別指導・授業準備と教員の役割をわけることができ、効率のよい指導が可能になりました。また子どもたちをチームにわけて複数の種目の指導もできます。一方、安全面でもマルチ編成クラスは有効です。体育は十分に気を付けていても、ケガをする場合があります。以前ですと、ケガをした子供の救護に指導者がかかりきりになるため、授業は一時停止にならざるを得なかったのですが、指導者が複数いることで、救護と授業で役割をわけることが可能です。

フレキシブルなクラス編成が、子供の学びを丁寧に拾い上げ、個別最適化につながる仕組みです。また授業のロスや時間のたるみを排除することで、児童の集中力がとぎれないようになり授業の質が向上しました。マルチ編成クラスは児童の特性にあわせた学びのシステム。今後はさらにブラッシュアップさせながら、自分の学びを自分で選択できる本校ならではのシステムとして発展させていきたいと考えています。
河本周介副校長

河本周介副校長

まとめ

授業を参観した1年生の算数は、子供たちと2名の先生とのコミュニケーションが活発で、非常にライブ感があると感じました。時間の無駄がなく、集中しやすい環境が作れるマルチ編成クラスのスタイルがあってこそだと、副校長先生のお話を聞いてわかりました。またこういったシステムでプログラムを提供できるのも、小林聖心女子学院の先生方の教育への情熱や、先生同士がお互いをリスペクトし、日常的なチームワークがあるからこそだと思います。

マルチ編成クラスで、しっかりと学ぶ楽しさを体感した子供たちは、他教科においても積極的に学びにかかわれるようになるのではないかと感じます。小林聖心女子学院は伝統的に英語教育が盛んですが、大学進学の時には4人に1人が理系へ進学する学校です。小学1年生の算数の授業からは、将来の理系女子のイメージも抱きやすく、ぜひ多くの保護者の方にご覧いただいて、学校選びの参考にしていただきたいと感じました。

取材協力

小林聖心女子学院小学校

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TEL:0797-71-7321

FAX:0797-72-5716

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