取材レポート

小林聖心女子学院小学校

1年生から一人に1台、iPadを導入。授業や学校生活に定着したICT教育をレポート

2020年度より導入された新しい学習指導要領では、外国語教育やプログラミング教育など、社会の変化を見据えた教育が展開されるようになりました。

キリスト教の教えを基盤とする小林聖心女子学院小学校では、従来より「自ら積極的に行動し、社会に貢献できる賢明な女性の育成」を教育目標に掲げられていますが、学院が大切にしてきた教えが、時代に求められる「生きる力」に重なるとして、改めて注目されています。

外国語教育や国際理解教育などの多彩な学びが特徴の小林聖心ですが、AI時代に必要とされる創造性の育成、新しい可能性を見出すことを目的としたICT教育もそのひとつです。

小林聖心では2013年より、新学習指導要領に先駆けてICT教育をスタートし、学校生活や授業において、児童が主体的に取り組むためのツールとしての活用法を研究してきました。2021年4月には、小学1年生より1人1台のiPadが導入され、筆箱やノートといった文房具と同じ感覚で本格的に運用されています。

今回は1年生、4年生、6年生のICT教育を活用した授業や学校生活をレポートします。

【目次】

ICT教育担当 大川尚輝先生のお話

小林聖心では2013年よりICT教育の研究、導入準備をスタートしました。2021年度4月から、全学年で児童一人に1台iPadを導入しました。授業や学校生活での運用が軌道に乗ってきた今、より効率よく、より深く学べるようになり、小林聖心で歴史的に継続してきた「思考力を育成する」教育に、ICT教育が非常にマッチしていると、改めて感じています。

授業では「ロイロノート」というアプリをとくに使用しています。学びあうこと、多様な考えを認め合うことを目的としているのですが、このアプリは子供たちの意見を集約しやすく、また表現力のあるプレゼンテーションができ、学びが深まっています。

iPadが1台ずつ使えるようになったことで、子供たちは自分の考えを継続的に蓄積することが可能になりました。ロイロノートで思考の元になるカードをたくさん作り、そこから発表に向けて情報を取捨選択して整理ができます。どうやったらわかりやすくなるか、もっとわかりやすく伝えるにはどうすればよいか、自然に考えられるようになっています。

また全教室にプロジェクターを設置しました。教材掲示装置を使って教材を大きく見せるだけでなく、プレゼンテーションに活用したり、友達の意見をピックアップして共有したり、黒板だけだった時と比べて、格段に授業の質が向上しました。

教師の方では、子供たちが1台ずつタブレットを使うようになったことで、授業中に子供たちの様子がよくわかるようになり、学びが深まる瞬間を逃さなくなりました。どのように活用するか、工夫や試行錯誤を重ねた結果、教師が主導するのではなく、児童が主体の授業に進化を遂げることができました。

iPadには、子供たちが日常的な課題として活用する学習支援教材も入っています。AIドリルソフトQubena(キュビナ)、英検ジュニアを使って、それぞれの学習進度に最適化された学習が可能です。Qubenaでは一人ひとりにあった問題が提示されるようになっていますが、つまづいた問題に対してはAIが判断し、学年をさかのぼり、振り返りながら問題を出題して定着させることが可能です。

個別最適化したAIドリルソフトQubena、英検ジュニアを使って、個々の学びを定着化させ、思考力を深める学習ツールのロイロノートによって深い学びが得られる授業を展開する。この2本の柱でバランスのよい学びを進めています。

学びの個別最適化と、多様な考えを認め合いながら学び合うことは、これからの教育の二本の柱になると考えています。ICT教育はこの2つの要素に欠かせないツールです。デジタル化が進むことで、子供たちの学習の様子が可視化できるようになりました。対面授業ができずに学校で学べない時でも、自宅で学習を継続できますし、学校に登校できるようになれば、ロイロノートを使って、自宅で積み重ねた学習を共有して、さらに学びを深めることが可能です。
ICT教育担当 大川尚輝先生

ICT教育担当 大川尚輝先生

1年生国語「ともだちのことをしらせよう」

〈授業の様子〉
友達をインタビューして、メモを作成し、その情報をもとに作文を行う授業でした。事前の授業でインタビューとメモの作成まで終わっており、今回はメモを「はじめ・なか・おわり」の構成に貼り付けて考察し、文章を書きました。ロイロノートを使うことで、子供たちがお互いに考察の過程を共有したり、構成を学びあったりする姿が見られました。作文の構成と考察はロイロノートで行い、清書はノートに手書きで仕上げることになっており、アナログで書くことが大切にされていました。1年生ですが、アプリの使い方にも慣れており、積極的に意見を発表する様子が印象に残りました。

●西山順子先生のお話
1年生ですので、タッチペンでも文字入力でも、自分たちのやりやすい方法でタブレットを使っています。本日は考えをよりわかりやすく視覚化するために、表を用いたシンキングツールを使いながら、授業を展開しました。途中、メモを表に整理したところで共有化しましたが、完全な状態でなくても、友達の構成を参考にすることで、自分の思考を進められるよう配慮しています。また学習の過程でメモが十分でなかった、情報が足りないと、子供たちが気づくシーンがありましたが、自分で次の課題を見つけることも大切にしています。わからないことやできないことをそのままにせず、友達と共有しながら、一緒に考えるように進行しています。

普段、私が担当している教科では、ほぼiPadを使用しています。授業だけでなく係活動などでも使っており、ICTの取り組みで特におもしろくなったことのひとつです。たとえばおりがみ係は折る手順を撮影し、それを動かして動画にしていました。また間違い探しクイズをタブレットを使って作成するなどして使いこなしており、子供たちの柔軟性や発想力に、教師の私たちが学ばせてもらっているところもあります。

コロナ禍で他学年との交流がしづらい時期には、ICTを活用して交流しましたし、登校ができない子とは朝の会にオンラインで教室とつなげてコミュニケーションをしました。ICTは「つながる」という点においてもメリットが非常に大きいと感じています。
西山順子先生

西山順子先生

4年生国語「2021年の漢字を使って詩を作ろう」

〈授業の様子〉
事前に選んだ自分の2021年を表す漢字について発表し、その漢字をもとにイメージをふくらませて詩を作る授業でした。今回は、すでに作成した詩をグループで共有し、さらに詩の技法などの工夫をアドバイスしあって、ブラッシュアップさせる取り組みでした。自分が選んだ漢字を紹介する時には、漢字だけでなくイラストなどをつけてイメージを膨らませている児童もおり、プレゼンテーションスキルの高さがうかがえます。また操作がうまくできない児童には、先に進んている児童が自然にフォローしており、日常的に児童同士で協力し合っているほほえましい姿が見られました。

授業の後には、Qubenaで算数の課題に取り組む様子も見られました。計算の下書きをタブレットでしながら回答を進める様子も慣れており、それぞれのペースで集中して取り組む姿が印象に残りました。

●西村理恵子先生のお話
4-4-4制(12年一貫教育を4年ごとに3つのステージにわける小林聖心のステージ)を導入している小林聖心において、4年生はステージⅠの最高学年になります。学習面では基礎基本の確立と、ステージⅡへ向かって、自主自立を意識させています。たとえば1~4年生の漢字学習は教師主導で授業で行いますが、ステージⅡでは自主学習になります。期日までに決められた漢字を習得してノートを提出します。4年生はその前段階として、児童それぞれに新出漢字の担当を決め、担当の漢字を自分で調べ、授業で発表しています。今回の詩の授業でも、自分が選んだ漢字を事前に調べ、みんなに発表してから詩づくりを行いました。タブレット導入前は、黒板に漢字を書いて発表していましたが、タブレットを使うことでを事前に自宅で準備ができ、効率よく発表が進められましたし、字をイラストで飾るなどの工夫が見られました。

Qubenaは計算ドリルの代わりにほぼ毎日使っています。1日5分程度を目安に問題を選び、子供たちが学校から自宅に帰るくらいの時間で配信しています。課題に取り組めていない子もわかりますし、正答率もわかるため、子供たちの理解度が教師の方でもよくわかります。正答率が低かった問題は、次の日に授業で振り返りをすることもでき、教師の方も学習の見え方が変わってきました。

ICTの導入によって、子供たちの自主性が育ってきたと感じています。今までなら消極的で、自分の意見を伝えづらい児童でも、ロイロノートを活用することで、児童の考えが瞬時にわかるため、教師の方でも子供の意見をピックアップしやすいですし、児童が意見を見つけてくれる場合も多いです。みんなに認められたという経験が、子供の積極性につながっています。

ICTのスキルについても、子供たちは習得が早く、誰かが新しいスキルができるようになるとみんなで共有します。よいところを学びあいたいという気持ちも育まれているように感じます。競争でなく協調といった学び合いの姿勢につながっています。
西村理恵子先生

西村理恵子先生

6年生社会「戦国時代を代表する武将を政策で比べよう」

〈授業の様子〉
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3人の武将の特性と政策をまとめ、国を発展させるためにどのように影響したかを学びました。まずそれぞれにGoogleで調べながら「自由・安定・国を守る・強さ・秩序・支配・栄える」といったキーワードに政策を分類して意見をまとめ、班に分かれて比較を行いました。3人の武将の施策を通して傾向を求めるとともに、意見の違いから1つの施策の多面性を理解する様子が見られました。根拠をもとに自分の意見を表明できる児童が多く感じました。6年生ともなると、タブレットの存在は授業の自然な風景の一部になっており、特別ではなく、当たり前のツールになっています。

●田村めぐみ先生のお話
本日の授業では、ロイロノートを使って情報をまとめたカードを色別に分け、操作しながら自分の考えをレイアウトで表現しました。それぞれの武将が行ってきた政策を特色ごとに色で分けたことで、自分と友達の考えの比較が目に見える形できることが、この授業の狙いです。この方法を使うことで、歴史が好きでよくわかっている児童と、あまり歴史が好きでない児童が、同じ土俵で話ができるメリットがあり、活発に話あいができました

ICT教育が導入され、社会科ではとくに資料を提示しやすくなったと感じています。児童の方でも、自分でどんどん資料を集めたり、項目ごとにわけて示したりすることができるようになってきました。回を重ねるごとに、自分の考えを工夫してまとめられるようになっています。
また、大人が使うパワーポイントのような感覚で、意見を自分の言葉で話すスキルも高まっていると感じます。

図工科でもタブレットを活用しています。自分の作品の制作過程を写真で記録することで身についた力が目に見えてわかるようになりましたし、スケッチでは、撮った写真を白黒することで明暗がしっかりわかり非常に役に立ちました。
田村めぐみ先生

田村めぐみ先生

まとめ

今回の取材は12月に行われました。4月の導入から約8カ月、授業中に児童の方から「共有してください」「提出箱に送りました!」など、ロイロノートに関する共通の言葉が自然に発せられており、それぞれの学年において学びのツールとして定着している姿が見られました。どのクラスでもプロジェクターで共有された友達の意見を、子供たちは熱心に見つめ、気になる意見を子供たち自身がピックアップして話題にしており、ライブ感のある興味深い授業でした。

授業参観の後、ステージ1の最高学年である4年生で児童会役員を務める児童にも話を聞きました。「ロイロノートのアンケート機能を使うことで、友達の意見が聞きやすくなった」「児童会選挙はタブレットを使って行った」など、積極的に活用されている様子です。また授業以外でもeライブラリーでたくさん本を読んだり、わからない言葉を調べたりするなど、日常的に使われている様子がうかがえました。

スムーズかつ有効にICT教育が実践され、時代が一気に進んでいる様子が印象的な取材でしたが、2013年より研究を重ねられてきた先生方の情熱と、自立して社会貢献できる女性を育てるという、従来より大切にされてきた学院の教育基盤があってこそと感じます。

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