取材レポート

奈良学園小学校

コロナ禍で生まれた新しい学びや多彩な体験を通して、21世紀の社会を生き抜く力を養う

奈良学園小学校が校訓に掲げる「尚志・仁智・力行」とは、それぞれ
 尚志:高い志を持って、物事に向かうこと
 仁智:仲間と共に支え合うこと
 力行:粘り強く最後までやり遂げること
を意味する言葉です。

同校ではこの校訓を教育の芯として、様々な教育活動を展開。子ども達は多彩な体験を学びにつなぐことを繰り返し、これからの人生に大きな力となる「自立した学習者」としての姿勢を培っていきます。

コロナ禍で生まれてきた新しい取り組みや探究力を育む教育などについて、校長の梅田真寿美先生にお話をうかがいました。

奈良学園小学校校長 梅田真寿美先生のお話

奈良学園小学校校長 梅田真寿美先生のお話

バーチャルでの体験と実体験を重ねることで生まれる新しい自立した学び

「コロナ禍だからこそできることをしっかりと創り上げていこう」を合い言葉に、この2年で様々な新しい取り組みを導入してきた奈良学園小学校。その姿勢が一番よく現れているのが、宿泊学習の在り方です。

同校では、例年5年生の修学旅行で広島を訪れ、平和について学びます。しかし、2021年度は新型コロナウィルス感染症の影響のため、同地を訪れることは叶いませんでした。そこで、Zoomを使い、現地のボランティアガイドに平和公園の各スポットを案内してもらう「バーチャル街歩き」を実施しました。

「当日は5年生・6年生が参加し、クイズ形式で平和について学びました。毎年の修学旅行でも、同じ話をガイドさんから聞くのですが、オンラインでも現地に行っているかのように子ども達はしっかり受け止めることができました」(梅田先生)

この後、オンラインでの灯籠流しに参加したほか、被爆ピアノコンサートを学校内で開催。爆心地から1.8km地点で被爆したピアノの音色や調律師の方の話を通して、子ども達は広島への思い、そして平和についての思いを深めたといいます。

このICTを駆使した平和学習を経て、梅田先生は「バーチャルでの体験をした後に、実際に現地に足を運んで自分たちの目で見ることが出来れば、非常に深い学びになります。自立した学びにつながる新しい学習の仕方が生まれてきました。2022年度は11月に広島に行きますが、この『バーチャル街歩き』は事前の学習に組み込もうと計画しています」と語ります。

この「バーチャル街歩き」以外でも、ハワイの姉妹校・メリノール校の子ども達に向けて、オンライン学校ツアーを開催したり、日本の文化について紹介するスライドショーを作って送ったりするなど、コロナ禍だからこそ生まれた新しい形の交流により子ども達は互いのつながりを深めているといいます。

オンラインを使ってでも宿泊学習の開催にこだわった理由について、梅田先生に尋ねた所、以下のように返ってきました。

「子ども達は普段の学びの中で育んできた力を総動員して、宿泊学習にのぞみ、様々な経験を得ます。事前学習を含め、宿泊学習を通して学んだことを、どのように自分ごととして受け取り、考えていくのか。すべての学年で宿泊学習が位置付けられている事の意図は、そこにあると学校として考えています。また、本校では宿泊学習から帰ってきたら、振り返ってまとめるという自分の考えを表現する場を必ず設けています。そのことは子ども達の探究に向かっていく大きな力を育むことにもつながります。それらがオンラインだけでも体験ができるようにしようと考えた理由です」
広島「バーチャル街歩き」

広島「バーチャル街歩き」

原爆ピアノ

原爆ピアノ

オンライン学校ツアー

オンライン学校ツアー

自分で自分が過ごす場所の衛生環境を整えるという意識を養う

コロナ禍を機に、同校では掃除方法を大きく変更。子ども達が床をホウキで掃き、ホコリが一番舞っている中を雑巾掛けするという状況を無くすため、ダスキンとコラボしてモップと電動ちりとりを導入しました。モップで床を拭くことで「ホウキで掃く」「床の雑巾掛け」の2つの役割をカバー。この使用済みのモップは電動ちりとりを使えば、ホコリが舞うことなく、また使える状態に戻ります。雑巾は現役ですが、拭くのは床ではなく、自分たちのロッカーや机・いすなど自分達がよく使う場所です。

「雑巾を使うのはフキフキ隊の子ども達。中性洗剤を少し付けた雑巾で、自分たちが一番よく使う場所であるロッカーを拭いてもらいます」(梅田先生)

この取り組みの狙いについて、梅田先生はこう話します。

「今までの教室の見た目をきれいにするという『美的環境を整える掃除』から、『教室の衛生環境を整える』ことを目的とした掃除に変更しました。これは教室の衛生環境を整えることに自分達も参加するという意識を、子ども達の中に育てていく取り組みでもあります。全学年で始めましたので、時間を経るに従って、『自分達で自分達の使う場所の衛生環境を整える』という意識は高まっていくと思います」

今回、掃除方法を変更するにあたって、教員もダスキンによる掃除方法の研修を受けたそうです。

「今までは個々の教員が、自分が小さい時に学校で習ったやり方で指導していたので、今回の研修を経て全学年で統一した掃除方法を実践できるようになりました。雑巾の絞り方も、子ども達にもう一度指導し直しました。正しい雑巾の絞り方をお家に帰って、お母さんに教えてあげた子もいたようです」と梅田先生は笑顔を見せます。
モップと電動ちりとりによる掃除

モップと電動ちりとりによる掃除

異学年交流を通して情報モラルを身につける

同校では1人1台端末制を導入しており、1.2年生は学校からの貸与、3年生以上は購入という形で1人1台の端末を所持しています。2021年度は購入学年に当たる3年生に向けて、6年生が情報モラル講習を実施したそうです。

この講習では6年生自身がドコモによる『スマホ・ケータイ教室』で学んだことをもとにPowerPointなどを作成し、当日は「情報は勝手に持ち出したらいけないんだよ」「文字だけのやりとりだと勘違いされやすいんだ」などと、3年生に一生懸命伝えてくれたと梅田先生。「もちろん教員も情報モラルについて指導していますが、教員の言葉よりも6年生から聞く方が3年生はしっかり頭の中に入れてくれているようでした」と目を細めます。

この講座は異学年同士の絆を深めるだけでなく、6年生にとって伝える相手を考えて、資料を作成する良い経験にもなったと続けます。

「本校ではPowerPointの作成などに取り組む情報の授業を、1年生から週一回設定しています。そこで少しずつスキルを身につけてきましたので、PowerPointを作ることは6年生では当たり前のように出来ます。しかし、今回3年生に分かるようにまとめて、分かるような示し方をいけないという経験を積んだことで、相手を考えた資料を作成する視点の育みにもつながりました。加えて、どうしたら相手に分かりやすく伝えられるかを考えることで教えてもらった情報モラルを、より自分たちの中に落とし込むことが出来たと考えています」
情報モラル講習

情報モラル講習

オンラインを活用し、まるで学校にいるかのような時間を提供

2020年度の全国一斉休校措置の際は、「学びを止めない」を合い言葉に早い段階からICTを活用し、いつも通りの学びを提供した同校。その姿勢は今も変わらず、学級閉鎖の時はもちろん、個人が欠席した際にもGoogle Meetを利用し、学校の学習を続けられる体制を整えています。

梅田先生は「授業には端末を通して家庭から参加し、前で発表する番になったら友達が端末を前に持って行き、端末越しに発表するという場面も当たり前になりました。教室移動の際も友達が、家とつながったままの端末を持って行ってくれるので、私も廊下で出会いましたら『がんばって』などと話しかけたりしていますね」と楽しそうに話します。

同校では参観もオンライン形式で開催しました。オンライン参観を実施している私立学校も多いですが、同校では1つの授業に2台のカメラを設置。撮影する教員のほか、画像や音の調整を担当する教員も配置し、充実した撮影体制のもと実施したといいます。

「最近は保護者もよくICTを活用されています。その中で、やはり配信内容の質を求められる方も増えてきました。そのニーズに応えるために、1人が主役の場面とみんなとのやりとりしている場面の両面を見ていただけるよう授業内容も考え、カメラも1台は前から子ども達全体を映す、もう1台は発表者を映せるよう設置し、撮影を行いました」(梅田先生)

仕事中の保護者や祖父母が見られるよう、このオンライン参観動画は一定期間公開。子ども達が家に帰ってから、家族揃って一緒に見るという姿も見られたようです。

これらの取り組み以外でも、ICTを活用することで、日々の学びも大きく変わりました。例えば、1年生の宿題の音読でも、音読している姿を保護者に端末で撮影してもらい、それをロイロノートで提出するというスタイルになりました。この音読動画を使い、子ども達の絆を重視する同校ならではの取り組みも展開しています。

「2021年度の1年生は4月から学校に来ることが出来ましたが、ずっとマスクをしており、お互いの顔がマスクを通してしか見られないという学校生活でした。そこで、音読で提出してもらった動画を日替わりで何人かを選んで、次の日の国語の時間に流し、マスクなしで子どもたちが音読をしている様子をみんなで見合う場面を設けたりしました」(梅田先生)

また、リコーダーの練習も動画で提出してもらうことで一人ひとりの習熟度を教員が把握できるようになり、「もう少しこういう風に吹いたら上手になるよ」「ここの所をもうちょっと練習しようね」などと、提出された動画にメッセージを吹き込んで戻すというやり取りも行っていると言います。子ども達一人ひとりをフォローできる、新しいスタイルの宿題が同校では根付き始めているようです。
オンライン参観

オンライン参観

探究心を育む、実体験を大切にした教育

同校では、何かを体験したり学習したりした後は必ず表現の場を用意して、自分がそのことをどう捉えて、どう考えたのか。宿泊学習であれば、事前に調べたことが実際に行って体験してみるとどうだったのか。それをどう思ったのかをまとめる活動を行います。低学年での一例が、生活科でのザリガニ遊びです。この授業では学校にたくさんの生きたザリガニを用意して、その中から自分の相棒を選び、一緒に遊んだ後、観察日記を書いてもらったそうです。

「最初は怖くてザリガニを素手で掴めない子もいましたが、軍手を使うなど、段階を踏んでザリガニとの距離を縮めていき、最終的には皆が楽しく夢中になって遊ぶことができました。自分のザリガニが来て一緒に遊ぶという経験をした後に観察日記を書いたほか、図工でもザリガニの絵を描いてもらいました。非常にイキイキとしたザリガニがたくさん描かれていましたね」と梅田先生は目を輝かせます。

表現の方法も絵を描くだけでなく、朝顔の観察であれば花が枯れた後のツルを使ってクリスマスリースを作ったり、2年生の街探検では学校近辺の車のディーラーや郵便局などをグループごとに訪問して、聞いた話を街探検新聞にまとめる活動を行ったりしました。

このような様々な表現の場を経て、子ども達は表現の技を身につけていきます。梅田先生は「実際に体験したことを新聞であったり、作文であったり、色々なものを作ってまとめるという学び方を学ぶことが子ども達の力を伸ばす上で非常に大きい」と指摘します。

「『子どもの伸び率日本一の学校を目指して』が本学園の中・高の合い言葉ですが、小学校時代にいわゆる教科の学習だけでなく、自由度がある自主的な学習活動を積み重ねていくことは、子ども達の卒業以降の伸び率を非常に大きくしてくれます。最近では本校卒業生で中高に内部進学した生徒が、授業外の様々な探究活動で優秀な成績を収めていることも、そのことの現れだと捉えています」

また、このような自主的な学習活動を積み重ねていく上で、一番大切にしているのは子ども達の『やってみたい!』という気持ちだと梅田先生は続けます。

「探究には、『やってみたいな』『やりたいことをするって面白いなぁ』という気持ちを持って、自分で動き始める力を育てていくことが必要です。この力がなければ、高校生になっていきなり『探究の時間だから、自分たちで何かに向かって追究していきなさい』と言っても、何かを与えられなければなかなか動くことは出来ません。本校では、子ども達のやってみたいという気持ちをしっかり積み重ねていくことを大切に、これからも教育を進めていきます」
ザリガニ遊び

ザリガニ遊び

しっかりとした体幹が基礎学力の育みにつながる

基礎学力を育むための同校ならではの取り組みが、毎朝のストレッチ体操です。学力を育むためにストレッチ体操を行うと聞くと一瞬疑問を覚えますが、これにも、もちろんきちんとした理由があります。

「今の生活環境で育っている子ども達は、昔に比べて体幹が弱いと感じます。低学年から体幹を鍛えることは、机に正しい姿勢で長い時間座っていられること、しっかり話を聞ける姿勢を保てることにつながります」(梅田先生)

大きく伸びをしたり、身体を左右に倒したり、立って行う運動もあれば、座って行う運動もあります。他にも手を動かしその指先を目で追うという目の運動・ビジョントレーニングも取り入れています。非常に短い時間ですが、毎朝続けることで、ここ数年で随分力がついてきたと梅田先生も感じているそうで、実際基礎体力チェックでの結果も良くなってきているとのこと。

これらのストレッチ体操を正しく指導できる体制が整えられているのは、同学園の大学にリハビリテーション学科があるからこそだと梅田先生。

「リハビリテーション学科と連携して、子ども達の身体の状況を、健康診断と一緒に調べるということを2021年度に行いました。以降、経年的に実施し、子ども達の身体の増強をしっかり見ていこうと計画をしています。身体のどういう力が弱いのかを検証し、弱い部分についてはどういう動きを取り入れれば身に付いてくるのかを教えていただける専門の先生ともつながっています。子どもの体幹を鍛える上で無駄のないストレッチ体操を毎日少しの時間に入れて行くことで、学力のベースを作っていくというこの取り組みを大切にしていきます」
ストレッチ

ストレッチ

系統立ったプログラミング教育で技術と論理的思考力を培う

私立小学校ならではの教育と聞いて、プログラミング教育を思い浮かべる保護者も多いのではないでしょうか? 同校で実践されているプログラミング教育の特長について、梅田先生は「系統的に経験を積み重ねることで、プログラミングのスキルと論理的な思考力のふたつを身につけられること」と話します。

まず低学年で導入されているのがプログラミングロボット「アリロ」です。子ども達は「右に曲がる」や「左に曲がる」といった様々な指示が書かれたカードを組み合わせて、「アリロ」が無事ゴールにたどり着けるコース作りに励みます。

この「アリロ」について、「指令のカードを置き間違えてしまうと、アリロはゴールにたどり着けません。うまくいかなかった時に、どこが間違っていたのかに気づいて、それを訂正することが大切なのだという論理的な思考のベースを体験から感じ取れる教材」と梅田先生は説明します。

次に中学年では、子ども達は教育版マインクラフトを通して、自分のイメージを再現するためにスクラッチという仕組みの中で命令をどのように出したらいいかに取り組みます。

それらの経験を経て、高学年で展開される大阪工業大学とのコラボ授業ではロボットを組み立てて、プログラムを組んでロボットを動かします。このコラボ授業では休み時間にも休まず、一生懸命取り組む子ども達の姿が見られたと梅田先生。

「午前中の4時間を充てて取り組みました。開始前には4時間続けてやると、子ども達もしんどいだろうから途中に休み時間をしっかり入れて行おうと大学の先生とも話していたのですが、子ども達は必死になって取り組んでいて休まないんですね。うまくいかなかったら、大学生のサポーターの方にどこが間違っているのか、どうしたらうまくいくのかを相談し、ペアの友達とも話し合いながら、繰り返しチャレンジしていました。このような試行錯誤する経験は、子ども達にとっても大きな経験だったと思います」

プログラミング教育を通して、様々な力を育んでいる子ども達の姿が目に浮かぶようです。
プログラミング教育

プログラミング教育

プログラミング教育

プログラミング教育

初期対応の早さとトラブルの未然防止で高い評価を得る

色々な取り組みを通し、子ども達の生きる力を育む同校。なかでも、学校生活のベースとなる「安全・安心」の部分には力を注いでいます。以前の記事でも紹介した登下校時の安全面での配慮が現在も万全な体制のもとに続けられていることはもちろん、学校内での友達関係にまつわる様々な出来事にも細心の注意を払って対応しているとのこと。

「友達関係の色々なことを経験して解決する力を付けていくことは小学校時代には必要なことですが、それがいじめにつながる状況になると話は違います。そのような状況にならないよう、教員はしっかりと見守りますし、毎日放課後になると教員同士で気になったことを共有しています。もし心配な状況があれば、すぐに子ども自身に聞き、ご家庭にも連絡をします。また、ご家庭からのご相談にもすぐに対応する体制を整えています。初期対応の早さやトラブルの未然防止について保護者アンケートでも高い評価をいただいているのも、そういう取り組みの積み重ねだと受け止めています」(梅田先生)

まとめ

毎年取材に伺わせていただき今年で3回目となりますが、いつも驚かされるのが、前年度導入した新しい取り組みがブラッシュアップされていること。新しい取り組みを導入することはもちろん、導入した結果を振り返り、それをより良い取り組みに変えていくことは成すべきことが多い学校教育において、実は非常に難しいことです。それが無理なく行えているのは、梅田先生を始めとする先生方で目標の共有としっかりとした体制作りが行われているからでしょう。
このような教育環境の中で6年間過ごせることは、教育面でも心身の発達の上でも、子ども達にとても良い影響を与えてくれます。同校を卒業し、内部進学をした子ども達が探究コンテストで受賞したり、有名国立医大に現役で進学しているという事実は、その裏付けではないでしょうか。

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