取材レポート

近畿大学附属小学校

問題解決力×表現力=“生き抜く力”を育む「令和の近小型教育」

素直で好奇心旺盛な小学校時代にこそ、本物に触れる経験を大切にしてほしいと、実践や体験を大切にした教育を展開する近畿大学附属小学校。

今、目まぐるしく変化する時代を生き抜くための「令和の近小型教育」をテーマに掲げ、問題を解決し、自分を表現する力を育むための「子どもが主役の授業づくり」が行われています。

すでに文房具と同じようにiPadを使いこなしている児童の様子や、情熱的に授業づくりに励む先生方など、子どもが主役になる近小型教育の現在について、教務部長 竹下仁章先生と教育研究部長 外山宏行先生にお話を聞きました。

近畿大学附属小学校
教務部長 竹下仁章先生・教育研究部長 外山宏行先生のお話

教務部長 竹下仁章先生

教務部長 竹下仁章先生

教育研究部長 外山宏行先生

教育研究部長 外山宏行先生

教務部長 竹下仁章先生・教育研究部長 外山宏行先生のお話

令和の近小型教育について

竹下先生…本校では「令和の近小型教育の創造」とテーマを掲げ、近小の授業といえばこういうものというスタイルを確立するために、3カ年計画で取り組んでおり、ベテランも若手も積極的に授業改革・改善に取りくんでいます。授業が楽しいことは、子どもたちにとって学びや学校生活の原点。本校は自信をもってオープンできる授業が作られていると自負しています。

これから小学校に入学する子どもたちは、数値化できる学力はもちろん大切ですが、数値化できない部分の力が求められます。それをどのように身につけるかを近小型教育のひとつとして位置づけ、授業を展開しています。

次なるステージを目指すICT教育

外山先生…近小ではICT教育の導入段階は終わりました。本校は国内でも数少ないアップル社のADS(Apple Distinguished School)認定校ですが、すでにICT教育という表現は行っていません。

普通の教育とICT教育をわけて考えるのはもう古いのではないかと考えていますし、教育のなかにICTがあって当たり前の状態です。2018年からスタートして、子どもたちはiPadをほかの文房具と同じように使いこなしています。ICTがすでにある状態で授業が行われていることも近小型教育のひとつでしょう。

竹下先生…私は以前、5年生の社会を2年連続で担当したことがあります。同じ授業を2年続けて行ったわけですが、1年目は今までどおりで、2年目はICTを使いました。1年目は縄文土器、弥生土器のレプリカを持ってきて、その特徴を自分でノートにまとめました。2年目はiPadで自分で調べたことを使って、動画にして発表しました。

その後、それぞれに同じテストを実施していたのですが、2年目の方が平均点がぐっとあがりました。2年目の学年が特別に賢かったわけではありません。振り返って考えると、ノートにまとめて覚える「インプット」だけでなく、動画制作で知識や情報を「アウトプット」することをゴールにしたことで、自ずとインプットが深まったのではないかと。このことからもICTを活用することで、基礎的な学力が身につくことは証明できると思います。

外山先生…一方で基礎学力ももちろん大切です。基礎学力としての知識があるからこそ、自分の知識を活かした発表も可能になります。まずは基礎学力をしっかりつけ、それを活用し、コミュニケーションを活かして授業に取り組むようにしています。私たちがイメージしているのは「自分の考えたことを、いろんな方法で人に伝えたり発信したり、コミュニケーションできる子ども」です。知識を得て自己完結するのではなく、得た知識をICTを含め、動画やプレゼン、トークなど多様な方法で人に伝えて交流し、さらに深めたり広げたりできる子どもがイメージです。

現在、ICTは全教科、全学年で活用されています。初めて高学年で1人1台導入した時、「E-stage」というコンセプトのキャッチコピーを作り、「この舞台では誰もが主役」と宣言しました。それを具現化してきた結果、どの教員も自由なスタイルで活用しており、子ども主体の授業に変わりました。

竹下先生…表現の元になる知識や技能は、基礎的な学力です。基礎的な学力は自分の考えを発信する根拠になります。それらはテストで測れる学力です。その土台なしにいろいろ発信しても説得力がありません。私たちが目指すのは、確かな学力に根付いた発信力のある子どもです。

日本人はグローバルなステージにおいては、プレゼン能力や伝える力が弱いと言われています。優秀なのに、表現ができないのは小中高での経験不足です。今まで日本では、小学校からずっと「座って話をきちんと聞く」ことがよしとされてきましたが、これからはそうではない。自分で学んだことを使って人に伝える、また人の考えを理解することが社会に出ては重要視されます。それを小学校のうちから経験して、力として身につけられるように実践しています。

外山先生…授業のスタートで先生がテーマを提示すれば、子どもたちはそれぞれに考えて動くようなスタイルでの授業もあります。途中、「違う部屋に行ってまとめてきます」というような生徒もいれば、「動画を撮りたいから、廊下で撮ってきます」といったことも。学び方も、学ぶ場所も場面に合わせてアクティブに多様化しています。

児童がiPadで制作した動画を紹介

★児童が制作した写真①/もちもちの木(3年生国語)

物語を読んで感想を書こうという授業では、積極的に参加できない子もいます。「どうすれば物語をくわしく読もうと思うかな?」と子どもたちに声をかけたところ、「紹介動画を作りたい」との声があがりました。

そこでその声を採用し、実際に制作を始めますと、子どもたちは「ここは大事」などと言いながら、どんどん自分で物語を読み進めていくことができました。

実際の動画制作は、iPadに入っている豊富なテンプレートを活用するため、子どもたちの負担は大きくありません。文を書くという国語の力を存分に発揮できます。紹介した動画は文章が上手にできていた例です。短い文章を動画にあわせてテンポよく、ポジティブな言葉を入れたり、動画の尺にあわせたり、倒置法を使ったるするなど、表現の工夫が見られました。

こういった動画制作をすると、子どもは自分が持っている知識を総動員して試行錯誤します。友達と見せ合いっこして何度も推敲するなどして、最終的にただ読んで感想を書くだけよりも、ふみこんだ感想が書けました。

★児童が制作した写真②/ナトロン湖(6年生) 

6年生になると自分で読んだ知識を再構築した表現が可能です。アフリカ・タンザニアにあるナトロン湖に興味を持ち、自分で読んだ図鑑をもとに、アニメーションを作って、石化やフランミンゴの情報を紐づけてストーリーを作っています。

インプットしたことをもとに、自分の表現としてアウトプットできる力が身についています。

★児童が制作した写真③/シイタケ栽培レポート(3年生)

子どもたちはどんどん積極的にiPadを使いこなせるようになりました。授業だけでなく、自主的に動画でレポートを作って発表するケースも出てきています。

本校にはSNSのように自由に投稿できるクラスの掲示板をつくっている学年もあります。ある児童は家庭でのシイタケ栽培を動画でまとめ、投稿しました。これからの時代に求められるのは、指示されたことに対応するだけでなく、このように自分の頭で考えて、アクションを起こす力です。

実はこの児童はシイタケが嫌いで食べられません。給食でシイタケが食べられないことに、自分なりに問題意識があって、なんとかしたい。インターネットで調べたら、シイタケの栽培キットがあって、家庭で育てられると知りました。その様子を動画で伝えたいというモチベーションをもとに、自分の「シイタケが食べられない問題」を解決しようとしたという流れですが、これがまさに問題発見能力、問題解決能力の目覚めだと言えます。

こういった経験が、やがてクラスや学校、自分が暮らす地域や社会における問題解決へとつながっていくと考えています。またおもしろいことに、1カ月後、この動画を見て、ほかの子もシイタケ育成動画をアップしました。自然発生的にチャレンジが広がっていく、学びあいができています。

一般的にはICT教育といえば、インターネットで調べものをしたり、動画を見たり、ドリルをしたりと、受け身のイメージがありますが、本校はまったく逆の発想です。ICTは頭の中にあるものをアウトプットするもの。能動的に使うことをコンセプトとしている。それを一番にしたからこそ、子どもたちの表現力が豊かになってきていると感じています。

外山先生…先日、他校の先生が、本校の授業見学に来てくださいました。授業の様子をみていただこうと、児童の自然な姿をご覧いただいたのですが、“特別”な授業が行われていなかったのです。わざわざ来ていただいたのに、申し訳なかったとお伝えしたところ、「子どもたちの生活にICTが自然に存在していて、特別なことではないことに驚きました」と、感想をいただきました。私たちにとってはすでに当たり前になっていたのですが、その先生にとってはICTの活用において新鮮な部分が多かったとのこと。当たり前であることが誇らしく、成果が見られたうれしい感想でした。

近小型教育を創造する、チャレンジャーな教員

竹下先生…興味や関心を持ち、チャレンジしたいことを見つける力こそ、生きる力につながります。そこで本校が大切にしているのが「本物に触れる」体験です。実際に育てたとか、行ってみたことが大切ということです。自分が夢中になれるものや好きになれるものに気づくことで、早いうちに将来の自分につながる何かに出会ってほしいと考えています。

外山先生…私たち教員は、そのための仕掛けづくりを行います。子どもがそれぞれに伸びていくための仕掛けづくりが、これからの教員の仕事。

竹下先生…それは、自分が学生時代に経験したことのない学びを創造することです。私たちにとってもチャレンジですね。ありがたいことに、学校長は私たちのチャレンジを「やめろ」とは言わない人です。危険がない限りは「チャレンジしてみなさい」と応援してもらえるので、私たちも失敗を恐れずにチャレンジできます。本校の教員は子どもたちの学びのために、一生懸命になれる集団です。学校長からスタッフまで全員同じです。そういった教員の姿を、保護者の方たちも温かく見守ってくださる雰囲気があり、ありがたいですね。

外山先生…先生同士の仲がよく、風通しがよいのも、子どもたちがのびのびと生活ができる理由のひとつかと思います。子どもたちと同じように、教員ものびのびイキイキ。休み時間も子どもたちと一緒に遊び、ぜんぜん職員室に戻ってきません。先生が主体的に「先生」を楽しんでいるように思います。

竹下先生…本校にICTを導入した時も、世代に関係なく貪欲に積極的に取り組んでくれまして、ここでも本校のチャレンジ精神が感じられました。教育研究部が中心になって「放課後にICTの勉強会をします」と声をかけたら、何度も集まって、勉強して導入してくれました。何事にも積極的な教員集団だと自負しています。

これからは自分の得意や特技を活かして、自分の表現をすることが求められます。チームでの柔軟性や協調性、瞬発力を養うには感受性が豊かな小学校時代は大切な時期。思春期になると、恥ずかしさで一時的に積極性が失われることもあります。だからこそ小学校の間に経験を積んでおくことが大切です。近小は1人ひとりが主役になれる学校を目指しています。

取材を終えて

取材中、近小の授業づくりについて、また先生方の姿勢について、終始、楽しそうに話してくださったお二人。その姿に近小型教育にかける情熱を感じました。

近畿大学の教えは実学にあると言われます。実学教育は実際に役に立つことを学ぶこと。小学校はその土台になる大切な時期です。豊かな感性が育まれる時代だからこそ、本物に触れる経験をもっと積ませてあげたいと意欲を語ってくださいました。

進学先を検討する際、環境を重視される方は多いと思います。自然豊かな近小はハード面の環境が抜群であることは言うまでもありませんが、目を輝かせて子どもたちの学びを創造されている先生方の存在は、ソフト面における環境が豊かだと感じました。

2022年5月に行った学校説明会では、6年生がそれぞれに児童と保護者を案内しました。前日にはiPadで校内の写真を撮り、スライドにして自分の言葉で学校生活や魅力を伝えたそうです。初めて会った方とお話をしながら学校案内ができるプレゼン力に、来校した保護者は驚かれたそうですが、我が子が成長する姿としてリアリティを感じられたと大好評だったそうです。そんな頼もしい6年生の姿に近小型教育が集約されているように感じました。

取材協力

近畿大学附属小学校

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