取材レポート

近畿大学附属小学校

近小イズムあふれるプログラムと教員の情熱。最先端と伝統が共存する学び舎。

近畿大学附属小学校では、西日本最大規模を誇る近畿大学の附属校として、挑戦への積極性や時代への先進性といった近大らしさを汲んだ魅力あるプログラムを展開しています。校舎がある奈良市あやめ池キャンパスは、四季折々の自然が美しく、知的好奇心を育むには抜群の環境です。

近小では、小学校時代を「人間の核(コア)を育む時期」として捉え、将来を生き抜くためのたくましさ、やさしさといった人間力を高める教育を実施。その鍵となるのは、問題解決型の深い学習と、宿泊研修や大学との連携による豊富な体験学習です。

今回のレポートでは、森田 哲校長先生による近小の心の育み方と、教務部長の竹下仁章先生による子供への愛情あふれ、アイデアいっぱいのプログラムを中心にレポートします。

近畿大学附属小学校 校長 森田哲先生のお話

近畿大学附属小学校 教務部長 竹下仁章先生のお話

校長 森田哲先生

校長 森田哲先生

教務部長 竹下仁章先生

教務部長 竹下仁章先生

近畿大学附属小学校 校長 森田哲先生のお話

小学校時代に本当に大切なこと

研究熱心な森田校長先生は、教育や子供の成長に関して様々なところで学びを深められているご様子です。近小のお話の前に、子供の成長過程として小学校がどのような時期にあたるかから、お話くださいました。

「人間は10歳前後で人間としての核(コア)が定まってくると言われています。人間の核とは『この世界が素晴らしいと感じられるか、不条理としか感じられないか』という世界観だと言われます。また損得だけでなく、倫理観に基づいた善悪の判断基準が定着します。この世界観や倫理観に基づいて、子供達はその後の人生を創造していくようになるため、小学校時代は人生において本当に大切な時期。その時期のお子様を預かるという責任感と使命感を胸に、私たちは日々過ごしています」と話されました。

また学校説明会では保護者の方に「最近、明日のことが楽しみで眠れなかったことはありますか?」とお聞きするそうです。ほとんどの大人は手を挙げられないそうですが、近小ではちょっとした学校行事でも、ワクワクして眠れないくらい楽しみにしている子が多いと言います。森田校長先生はこのワクワク感こそが、世界のすばらしさや人生の期待感につながると考えられており、そのための行事や仕掛けがたくさん用意されていると近小の大きな枠組みを話してくださいました。

レジリエンス(折れない心)について

近小の子供たちは運動会などの行事でも、いつも本気で取り組み、うれしくても泣き、悔しくても泣くそうです。その姿に担任や学年団の先生が涙し、保護者も涙するといったシーンもよく見られるとのこと。心から安心できる環境の中、成功して共に喜び、失敗しても抱きしめてもらえる経験は、これからの複雑な世の中に求められる「折れない心(レジリエンス)」につながると説明されます。

最近、よく耳にするレジリエンスという言葉は、現代社会のような複雑な環境の中で起きる困難にもしなやかに対応できる力として注目されています。レジリエンスを高めるには「自己肯定感・社会性・ソーシャルサポート(おかげさまと思える心)」の要素があると言われますが、社会性やソーシャルサポートは大人になってからでも高めることはできますが、自己肯定感を大人になってから高めることはとても難しいそう。小学校時代までに自己肯定感をしっかり高めることが、これからはなおさら大切になると森田校長先生は重ねてお話されました。
運動会

運動会

近小の校訓と誓願

近畿大学には「人に愛される人 信頼される人 尊敬される人を育成することにある」という教育の目的があります。附属の園や学校でも校訓として大切にしているそうです。加えて小学校では、近小の教育の根幹として、初代校長である楢崎浅太郎先生による『誓願』を紹介してくださいました。

『誓願』
我らの真性は
理想実現性なり
神性なり
仏性なり
相共に励み覚醒して
その真性を完うし
個性を震張して
現世に理想社会を創造せん

小学生には難解に感じられる『誓願』ですが、小学校1年生から全校生徒が毎朝唱えるとのこと。最初は意味がわからなくても、毎日繰り返し唱えることで、精神の幹の一部となり、いずれ子供達がそれぞれに何かをなそうとする時に支えとなってくれる言葉だと説明してくださいました。

また誓願だけでなく、竹取物語や平家物語などを「音読集」としてまとめ、語彙力を豊かにする取り組みを20年以上続けています。難しくて意味がわからなくても、日本語ならではのリズムは心地よく、それらは形のない財産になると森田校長先生は話されます。日本人としてのアイデンティティや心の豊かさ、思考力の育成や親子のコミュニケーションにつながる教材として大切にしているとのことでした。
朝礼

朝礼

近畿大学附属小学校 教務部長 竹下仁章先生のお話

続いて教務部長の竹下仁章先生から、近大附属小学校の特徴として、オリジナティのある教育プログラムに
ついてお話をいただきました。

学校を飛び出して本物の体験をする近小プログラム ①近畿大学との連携

「本校は近畿大学の附属校であるメリットを活かして、大学の施設・設備の利用や、大学の先生と連携した授業を実践してきました。これは『小学校時代から大学で学ぶ』というコンセプトで行っています。

たとえば5年生は近畿大学法学部の法廷教室へ赴いて、模擬裁判の授業を行います。実際に児童が裁判官や被告人、検察、弁護士などの役を担って劇を行い、終わったら『この被告人は有罪か無罪か。有罪になるなら、量刑はどのくらいか』とディスカッションします。また子供達の意見には、法学部の教授がアドバイスをしてくださり、さらに理解を深めるといった授業を行っています。実際に法学部の学生と同じようなことを小学生で経験しています。

また薬学部の教授に本校へお越しいただき『お薬教室』を開催しています。『どうして薬がカプセルに入っているのか』『薬はなぜ水で飲まないといけないのか』といったお話をしてもらいます。医学部があることから、生駒市の『近畿大学奈良病院』へも見学に行きます。聴診器で友達の心音を聞いたり、エコーで心臓が動いている様子を見たりします。また院長先生のお話や、未熟児の赤ちゃんを専門にケアしている看護師さんからお話を聞き、命の尊さや重みを学ぶ授業です。小学生で大きな病院を見学できるのは珍しいかと思いますが、これも総合大学の附属校の強みです。

このような経験は、将来、進路を考える時に選択肢が広がりますし、また経験を通して自分が思ってもいなかったことに興味が広がることもあるでしょう。教師の狙いとは異なることを感じ取って、新たな自分を発見してくれるきっかけにもなると思います。教室だけでの勉強では味わえない学びとして、これからもできるだけ体験をさせてあげたいと考えています」
模擬裁判

模擬裁判

お薬教室

お薬教室

学校を飛び出して本物の体験をする近小プログラム ②1年生から実施する宿泊行事

「近小では『世界が広がる、宿泊行事』として1年生から宿泊研修へ行きます。

1年生(1泊2日)信貴山学舎
2年生(2泊3日)吉野学舎
3年生(2泊3日)比叡山学舎
4年生(3泊4日)中京学習旅行
5年生(3泊4日)東京学習旅行
6年生(3泊4日)白浜臨海学舎
   (4泊5日)北海道修学旅行

3年生までの宿泊行事は高学年からの本格的なプログラムに向けて、『自分のことは自分でする』習慣を養う生活の勉強としています。自分の荷物を準備するところから始まり、現地でも自分の持ち物の管理、食事の準備や片付けなどを通して、自立することや、普段、家庭で保護者の方がしてくださっていることへの感謝の気持ちを養います。

4年生からは一般のホテルへ宿泊しますが、3年生までの経験のおかげで、行程表を確認しながら、行動できるまでに成長しています。5年生の東京学習旅行は、政治の勉強がテーマです。国会議事堂や最高裁などを見学し、裁判や政治の厳粛さを学びます。6年生の北海道修学旅行は一番長く4泊5日。のびのびと雄大な自然を楽しみます。

そして6年生は、夏に白浜臨海学舎へ最後の宿泊行事へ行きますが、ここでは90分間の遠泳にチャレンジします。1年生から積み上げてきた水泳学習の集大成として、隊列を組んでコースロープの周りを泳ぎ続けます。泳ぎが得意な子も苦手な子もいますが、自分一人ではできないこともみんなでチャレンジすればできるという自信を育み、2学期からの本格的な進学に向けて、教員、保護者が一丸となって子供達の背中を押すプログラムです。

どの宿泊行事も長く継続してきた本校の伝統的なプログラムです。教員にとっても先輩教員から引き継ぎ、毎年ブラッシュアップしながら取り組んできた思い入れのあるもの。本校教員の誰もが、子供の成長する姿を間近に目にして、アツく語ることができる経験を持っている自慢のプログラムです」
1年生 信貴山学舎

1年生 信貴山学舎

5年生 東京学習旅行

5年生 東京学習旅行

6年生 白浜臨海学舎

6年生 白浜臨海学舎

6年生 北海道修学旅行

6年生 北海道修学旅行

問題解決型学習

続いて竹下先生は、日常的な学習について「問題解決型学習」を紹介してくださいました。こちらでも近小らしさが感じられる、先生方の取り組みが見られます。小学校時代はドリル形式を中心とした詰め込み型の学習ではなく、勉強の面白さや学ぶこと・考えることの楽しさを身につけることを基本としているとのこと。自分の力で新しい知識を得たり、新しい考えに気づいたりすることを重視しています。

たとえば5年生算数で扱う台形の面積の公式。こちらも平行四辺形や三角形の面積の公式を使いながら自分なりの考え方をまとめ、ICTを活用して友達とコミュニケーションを図り、さらに新しい考えを深めます。自分の考えを友達と比較し、先生の話を聞きながら、さらに深めることで、学びへの興味や関心を高めるそうです。

すでにICTが日常的に使われ、文房具として定着している様子が見られる一方、低学年では紙と鉛筆できちんと書くことを重視した指導を行います。丁寧に文字を書くことは、丁寧に考えることにつながるとして、宿題のやり直しなども含め、保護者にも協力を仰いで徹底したノート指導を実施していると話されました。
ICT授業

ICT授業

アイデアあふれるオリジナル教材

続いて竹下先生は各教科の取り組みについて説明してくだいましたが、中でも目を引いたのは近小独自の教材です。代表的なものをピックアップします。

●学校ビオトープ
自然あふれるあやめ池キャンパスのシンボルが「学校ビオトープ」。山ビオトープと池ビオトープとあり、1年を通して豊かな季節の移り変わりを肌で感じることができます。自然の遊びの場が学びの場になる豊かな環境です。

●近小都道府県カルタ
50音で都道府県の特徴を読み上げ、都道府県のシルエットカードを取り合う形式のカルタは、社会科の竹下先生が考案したオリジナル教材。夏休み明けに開催される「都道府県カルタ大会」では、全校生徒が優勝を目指してチャレンジします。

●近小アクアリウム
タガメなど貴重な水生生物と淡水魚を飼育・展示し、小さな命とのふれあいから、自然を大切にする思いを育んでいます。

●心のノート「洗心」
近畿大学初代総長・世耕弘一先生の言葉をタイトルにした道徳教材。伝統的に受け継がれてきた内容に、現在は「今、教員が伝えたいこと」を追加しバージョンアップを続けています。

●音読集
校長先生のお話に登場した国語科の音読教材。古典や詩などの音読を通して、豊かな語彙力、日本人としてのアイデンティティを育みます。

●アナザーステージ
ピアノなど楽器や歌など、音楽が得意な児童による休み時間コンサート。オーディションを開催し、保護者を招待してミニコンサートを実施しています。

ほかにも年に一度、オリックス劇場の大ホールで実施する音楽会や、2月に実施する耐寒訓練・耐寒生駒登山など、オリジナリティのあるプログラムや教材が、次から次へと登場し、驚くほどでした。
ビオトープ

ビオトープ

都道府県カルタ

都道府県カルタ

進学は半数が近畿大学附属中学校へ

およそ半数が近大附属中学校へ進学するという同校。小学校では特別な受験指導は行っていませんが、その分、普段から私学らしい深みのある授業で、受験に対応できる学力を育んでいます。5年生からは算数の演習授業、6年生からは受験スタイルでの授業も行います。また6年生では年2回、校内実力テストを実施。これは外部模試ではなく、先生方がオリジナルでテストを作成しており、6年生の担任団も内容は明かされないルールです。その結果をもって、進路指導の先生がアドバイスを行うようにしているそうです。また外部受験をしない6年生には、近小ゼミプラスという特別授業を実施し、中学校に向けて勉強を積み重ねていきます。

内部進学において評価されるのは、普段の授業や勉強への姿勢です。テストの点数が伸び悩んでいたとしても、コツコツ勉強に取り組むことができる児童は、高い評価で内部進学が可能です。小学校の間は基礎学力の定着と学習に向かう姿勢を重視し、中学校や高校で大きく伸びてほしいと考えているとのことでした。

まとめ

近畿大学との連携やICT活用など先進性の高い取り組みはもちろんですが、ことさら光っていたのは、先生方の情熱が生み出しているオリジナリティあふれるプログラムや、伝統や心の教育を大切にする姿勢でした。とくに自慢という研修旅行プログラムは、60年以上の歴史を経て先生方で積み上げられてきた手作りのものです。話の尽きないインタビューとなりました。

この日、取材チームが学校に到着し、校庭を歩いていた時、一人の児童が足を止め「こんにちは」と気持ちよくあいさつをしてくれました。初めて会う大人にもきちんとあいさつができることに驚きましたし、その話を校長先生にお届けすると以下のようにこたえられました。

「本校は朝のあいさつをとても大切にしています。制帽を校門で脱いで、笑顔で大きな声ではっきりと。私は毎朝、校門で子供達を出迎えますが、お手本のようなあいさつをしてくれる子供たちがいて、すばらしいなと感心しています。今日、そのようにお客様にあいさつをしてくれた児童がいたことは喜ばしいこと。大人でも日によって、気分が違えば、あいさつや態度が変わるというのに、子供達から学ばせてもらえることも多いです」

後生畏るべし

「これは論語ですが『後に生まれた子は可能性にあふれ、どこまで伸びるかわからないから、敬って育てないといけない』という教えです。近小の児童はきっと私たちを軽く超えていくだろうと思っています。彼らを大切にし、未来を託したいという姿勢で学校を運営しています」と締めくくられました。森田校長先生も竹下教務部長も、情熱的に愛情深く近小について話をしてくださった姿が印象的なインタビューとなりました。

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