取材レポート

智辯学園奈良カレッジ小学部

児童の「やってみたい」「知りたい」を大切にしながら、主体性と豊かな心を育む。

自然に触れながら自分たちで課題を見つけ、解決策を考える。静かな時間の中で自分自身を振り返る。本との出会いから新しい世界を知る。智辯学園奈良カレッジ小学部では、さまざまな体験を通して、児童が自ら考え、周囲と関わりながら成長していく学びを大切にしています。今回は、その教育を支える特徴的な環境と先生方の思いについて、入試広報部主任の神田賢宏先生、宗教科担当の塚原ちあき先生、国語科担当の乾朋子先生にお話を伺いました。

智辯学園奈良カレッジ小学部
入試広報部主任 神田賢宏先生、宗教科担当 塚原ちあき先生、国語科担当 乾朋子先生のお話
入試広報部主任 神田 賢宏先生

入試広報部主任 神田 賢宏先生

宗教科担当 塚原 ちあき先生

宗教科担当 塚原 ちあき先生

国語科担当 乾 朋子先生

国語科担当 乾 朋子先生

智辯学園奈良カレッジ小学部 入試広報部主任 神田賢宏先生、宗教科担当 塚原ちあき先生、国語科担当 乾朋子先生のお話

里山―「どうしたらいい?」から始まる、児童自身の学び

智辯学園奈良カレッジ小学部では、主体性・協働性・創造性といった非認知能力を育てることを大切にしています。その学びの中心となるのが、独自教科「College time」です。活動の多くは、校内の里山を活用して行われています。

里山で取り組むのは、問題解決型の学習「里山プロジェクト」です。児童たちは、栽培活動や生き物の環境を守る活動、里山の魅力を増やし、その魅力を学内だけでなく校外にも伝えていく活動などに取り組みます。その過程で、さまざまな疑問や課題が生まれます。そこで「どうしたらいい?」と考え、仲間と話し合い、試しながら解決していくのです。この学びで先生方が特に大切にしているのが、児童自身が活動の内容や進め方を考え、選択することです。

「College timeでは目標や具体的な方法を、教員が決めたり、教えたりはしていません。児童たちがあくまでも自分たちで決めて活動するようにしています。教員がやり方を教えているようでは、『主体的』とは言えません。」

と神田先生は話します。児童が試行錯誤する過程そのものを大切にしているのです。同じ目標を持つ児童たちが一緒に活動することで協働性が生まれ、互いの考えを認め合う中で、新しい見方や考え方が生まれていきます。こうした経験の積み重ねが、主体性・協働性・創造性を育む土台となっています。
4年生が育てているヒョウタン

4年生が育てているヒョウタン

自然が次々と「本物の問題」を生み出す。「動物に荒らされないために」1年生が考えた作戦!

その学びの舞台に「里山」を選んでいるのは、なぜなのでしょうか。

「この3つの能力を高めていくには、自然体験が効果的です。」

自然は、人間が問題を設定しなくても一瞬一瞬で変化し、次々と問題が起こります。「虫に食べられた」「畑が荒らされた」「育ちが悪い」といったことは栽培活動の中でよく起こる問題です。森を守る活動でも、「木を傷つけないようにしよう」と決めれば、今度は枝や葉が乱雑に生え、森に光が入らないという新たな問題が生まれます。

「児童は、そういった変化するものが大好きですし、問題が発生していることにもすぐ気づいてくれます。」

人が意図的につくった問題ではなく、目の前に本当の問題が現れる。それが児童の「やってみたい!」「どうしたらいい?」という気持ちを引き出します。そのことを象徴するのが、昨年の1年生が取り組んだサツマイモ栽培です。畑が動物に荒らされ、サツマイモが収穫できるかどうかという状況になった時、1年生たちは、「これ以上畑を動物に荒らされないようにしよう。」と話し合いました。まずは、サツマイモのところに網を張りました。さらに、サツマイモ畑自体も網で囲むという「二重の網」にしました。そこから発想はさらに広がります。
里山ビオトープ

里山ビオトープ

「人間は黄色や黒があると警戒する。動物ももしかしたらそうなんじゃないか。」と考え、黄色と黒の「トラロープ」を畑の周りに巡らせました。さらに、「獣は青い色が嫌い」ということを児童が調べてきたことから、みんなで青い色の怖い顔を描いて、ロープに吊るすことに。畑の周りは網とトラロープ、そして青い怖い顔でいっぱいになりました。

「とても1年生らしい発想だと感じました。」

と神田先生。工夫を重ねた結果、サツマイモは無事に収穫でき、サツマイモパーティーができたそうです。
里山での1年生の活動(サツマイモ栽培)

里山での1年生の活動(サツマイモ栽培)

6年生は、里山を「もっとよくする」ために

里山プロジェクトでは、児童が里山そのものをよりよい場所にしていく活動も行っています。去年の6年生は、学校見学に来る幼稚園児に向けて、里山で取れた材料を使ったワークショップを実施。「里山の中でも休憩できるようにしよう。」とベンチも作りました。今年の6年生は「里山で安全に過ごせるようにするにはどうしたらいいだろう。」と考え、転倒しやすい場所や、立ち入ってはいけない場所を、ほかの人にも分かりやすくする方法を話し合っています。神田先生は次のように話します。

「サツマイモ畑を守ろうとした1年生も、里山の魅力を外へ伝えようとする6年生も、教員がすべてを決めていたら、ここまで大きな活動にはならなかったかもしれません。活動の中身を児童に委ねているからこそ、主体的に、協働的に、創造的に活動してくれたんだと思います。」
今年のサツマイモ畑

今年のサツマイモ畑

講堂―言葉ではなく、空気を体感する。心を整え、自分を見つめる時間

校内にある講堂は、入学式や卒業式、始業式・終業式などの式典を行うほか、「徳育を育む場所、精神道場」として、祈りを捧げる場でもあります。式典では、合掌して礼を捧げ、読経をしてから式を始めます。

毎月行われる「感謝祭」では「四恩」を想い、読経とお話を通して感謝の心を育みます。父母や社会、生きとし生けるもの、仏とその教え、天地など、自分たちを支えるすべてのものに目を向ける時間です。

この講堂に入ると、普段の学校とは違った空気を感じます。塚原先生は、その感覚そのものを大切にしています。

「入る時に、よこしまな気持ちではいられない雰囲気が、伝わってきます。人が祈りを捧げる場所を冒してはならないといった感覚を肌で感じてもらえる場所だと思っています。」

何を大切にすべきかを言葉で教えるだけではなく、その場に身を置くことで感じてもらう。小さい頃からこうした空気の中で過ごすことで、言葉では説明しきれない「大切にすべきもの」を、少しずつ心の中に育ててほしい。それが宗教的情操教育の土台になると、塚原先生は考えています。

また、講堂で静かに過ごす時間は、自分の心と向き合う時間にもなっています。

「よこしまな気持ちがそぎ落とされて、静かに待つ間は、自分の気持ちと向き合ってくれたらいいなと思っています。目に見える大きな変化がすぐに表れるわけではありませんが、毎月の感謝祭を重ねる中で、児童たちの心の中に、何かしら綺麗なものが残っていくことを期待いています。」

こうした「自分を振り返る時間」は、毎週の宗教の授業にもあります。授業の始まりには必ず黙想を行います。

「本当に1分あるかないかの黙想の時間に、どれだけ自分のことを振り返られるかというのを大事にさせていただいています。」

1年生のうちは「今日の自分はどうだったか」「休み時間にどんな行動をしていたか」といった身近なことから振り返ります。学年が上がるにつれて、自分の心の状態や、この後の行動についても考えられるようになることを目指します。

「黙想を自分の気持ちを切り替えるスイッチにし、自身を振り返る時間にしてくれたらいいなと思っています。」

講堂で静かに過ごす時間と、毎週の短い黙想。そうした時間の積み重ねが、自分を大切にし、周囲の人も大切にできる心につながっていきます。
講堂

講堂

講堂での感謝祭

講堂での感謝祭

図書館―本との出会いが、児童の「もっと知りたい」を広げる

同校には、小学生が利用する図書室に加え、4年生以上が利用できる図書館があります。まるで大学の施設のような広さと雰囲気の中に、小学生には難しい本が数多く並び、中学生や高校生が学ぶ姿も身近に見ることができます。

国語科の乾先生は、

「ここに来たら、小学生が普段は手に取らないような本がたくさんあります。ぜひ利用してほしいです」と話します。

図書館は授業でも活用されており、プレゼンテーションエリアでは、児童が本の魅力を紹介する「ビブリオバトル」も実施しています。本を読むだけでなく、読んだことを自分の言葉で伝える経験にもつながっています。

また、「図書館を良くしたい」という思いを持った中学生・高校生の図書館サポーターズもいます。小学生に向けて図書館を紹介したり、自分たちが小学生の頃に読んでいた本を紹介したりすることもあります。
小学部図書室

小学部図書室

小学部図書室

小学部図書室

そんな図書館で過ごす児童の様子について、乾先生はこう話します。

「少し大人びたというか、お兄さんお姉さんの仲間入りをさせてもらっているような顔をしていますね。難しそうな本がたくさんある中で、こんな事があるんだと驚いたり、韓国語で書かれている漫画を見つけて『面白そう』と興味を持ってみたり。本だけじゃなくて雰囲気などあるもの全てに興味を持って、目を輝かせて一生懸命吸収している感じです。」

乾先生が願っているのは、児童が「これを読んでみたい」と思った、その気持ちを途切れさせないことです。

「こんな本を読んでみたいと児童が言った時に、司書の先生と協力して、手に入る環境づくりを心がけています。中学部に進学しても、『あの時読みたかった本がここにある』と興味が広がったり読めるようになった自分の成長を感じてもらえたら。小学生の時にここに来た時の感動や、芽生えた知的好奇心を大事に存分に探究してほしいと思っています」

小学生のうちに出会った一冊や、図書館で感じた「もっと知りたい」という気持ちが、学年が上がっても次の学びにつながっていく。同校では、学年や教科の枠を越えて学べる環境を生かし、児童の知的好奇心を次の学びへとつないでいます。
図書館

図書館

図書館で開催したビブリオバトル

図書館で開催したビブリオバトル

まとめ

今回の取材で特に印象に残ったのは、訪れるたびに里山が少しずつ変化していることでした。大人が「良い」と思うものを整えるのではなく、その年の児童が「これをしたい!」と考えたことに先生方が寄り添う。その姿勢が、里山の様子そのものからも感じられました。また、「今、自分はどんな気分なのか」「今日の自分はどうだったのか」と自分を見つめ直す時間を大切にしていることにも心を動かされました。大人である私自身も、日々の中で自分を振り返ることはなかなかできていないと気づかされ、少しドキッとしました。それを小学生のうちから習慣として身につけていくことは、これからの生涯を支える大切な心を育てる教育だと感じました。
4年生の田んぼ

4年生の田んぼ

取材協力

智辯学園奈良カレッジ小学部

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