取材レポート

雲雀丘学園小学校

知識の量ではなく「自走できる土台」を見る新入試を導入

2022年度入試からペーパーテストを廃止し、話題を呼んできた雲雀丘学園小学校。2026年度から、入試形態がさらに進化します。今回の変更は「いかに勉強がよくできるかではなく、主体性や自制心、協調性を持って、集団生活を過ごしていけるかを見たい」という、先生方の強い願いが形になったものです。

具体的な変更点とそのねらい、「自走力」をテーマに掲げる教育について、2026年度から校長を務める今井徹先生と広報部長の小田剛士先生に詳しく伺いました。

雲雀丘学園小学校 校長 今井徹先生、広報部長 小田剛士先生のお話
校長 今井徹先生

校長 今井徹先生

広報部長 小田剛士先生

広報部長 小田剛士先生

適性検査を3領域に集約

親子面接と適性検査(個人試問・集団試問)からなる雲雀丘学園小学校の入学試験。これまで個人試問では、「ことば・環境自然・数量図形・健康・絵画」の5領域を設けていましたが、2026年度からは「ことば・環境・面接」の3領域に集約されます。

「数量図形や環境自然といった知識的要素は『環境』にまとめます。単なる暗記や、訓練してきたから解けるという要素を減らしたいと考えたからです。その一方で『ことば』はすべての学びの基礎になるため、そのまま残しました」と小田先生は説明します。

さらに、理由を問う姿勢を今後も残して大切にしていきたいと言います。

「『環境』やその他の試問の中でも、『どうしてそう思ったの?』という問いを通して、自分の言葉で伝えられる表現力を大切に見ていきたいと考えています」(小田先生)

また、これまで実施していた縄跳び、箸使い、絵画などの項目は適性検査から外れます。 代わって強化されるのが「集団試問」です。従来の「人間関係」を「行動観察①・②」へと拡充します。

行動観察①では「お友達とルールを守って楽しく遊べるか(対人関係)」、行動観察②では「授業に近い環境で、オンとオフを切り替えて取り組めるか(学習姿勢)」をそれぞれ確認します。

同校では、これまでも主体性や好奇心、協調性といった非認知能力の測定に重きを置いてきました。今回の変更は、その姿勢をより鮮明に打ち出したものといえます。

小田先生は、新入試で「集団生活できちんと育っていけるかをしっかり見させていただきたい」と語ります。

「小学校生活は、幼稚園や保育園とは大きく異なります。楽しい時間もあれば、ピシッと切り替えて集中しなければならない時間もある。その切り替えができるかどうかを、より実際の学校生活に近いスタイルで見極めたいと考えています」

なお、同校の伝統である「瞑想」は、入学後の日常に欠かせないものとして、新入試においても変わらず継続されます。

親子面接での作文を廃止し、対話を重視した形式へ

もう一つの大きな変更が、保護者による当日作文の廃止です。今後は、より対話を重視した形式へと変わります。

「7分という限られた時間でテーマを与えて書いてもらうよりも、直接お話しする中で、本校の教育方針をどれだけご理解いただいているか、また、どのような教育を本校にお求めなのかを丁寧にお聞きしたいと考えました」と今井校長は語ります。

面接では、親子でゲームをする場面も設けられます。

「ゲームを通じて、保護者がお子さんにどう接しているか。例えば、ルールを守るよう促すのか、それとも自主性に任せるのか。そうした飾らない日常の親子関係や、お子様の自己肯定感の育ちを拝見したいと思っています。あくまで、お子さんを真ん中に据えて、学校と家庭が手を取り合い、共に教育していこうという姿勢を確認させていただく場です。決して身構える必要はありませんので、ぜひ自然体で臨んでいただければと思います」(今井校長)

入試はゴールではなくスタート。準備ブックと登校日の導入

今回、最も画期的な変更と言えるのが、合格発表から入学までの半年間にわたる手厚いフォローアップ体制の整備です。 入試項目から外れた「縄跳び・箸使い・ひらがな・数字・鉛筆の持ち方」などを網羅した、同校オリジナルの『1年生準備ブック』が導入されます。

「本校の入試は9月で、入学まで半年間の期間があります。入試のために知識を詰め込むのではなく、その半年間を使って、ぜひご家庭での学習習慣を育んでほしいと考えました」と今井校長は語ります。

小田先生も、入学までの家庭での過ごし方の大切さを次のように補足します。

「準備ブックの導入で、毎日親子で机に向かう日もあれば、一緒に縄跳びをする日も出てくるでしょう。大切なのは、毎日そうした時間を家庭で作ることです。小さいうちに『これが当たり前なんだよ』と伝えてしまえば、子どもたちは自然と受け入れ、スムーズな学習習慣の定着につながります。入学後には宿題も始まりますから、そこへ向けた良い橋渡しになれば嬉しいですね」

さらに、合格した年長児を対象とした「登校日」の実施も検討されています。

「強制ではなく、親子で学校に来て先生と触れ合ったり、保護者同士の不安を解消する相談会を開いたりしたいと構想中です。『入試で選抜して終わり』ではなく、「雲雀丘で過ごす6年間をより充実したものにするために一緒に準備を始めましょう。」という手厚いスタンスへの転換です」と今井校長は力強く語ります。

「自走力」をテーマに、自ら学び、自ら育つ力を育む

変化の激しい現代において、誰かに言われて動くのではなく、自ら考え、判断し、行動できる力が求められています。同校ではこうした力を育むため、2026年度より教育の大きな柱として「自走力」という言葉を掲げました。
低学年:自走のための「根っこ」を育てる

「自走」といっても、最初から子どもたちにすべてを任せるわけではありません。今井校長は、成長のプロセスをステージに分けて考えていると話します。

「1・2・3年生の低学年は、いわばアナログな力を徹底的に鍛える時期です。まずは学習の基礎・基本の型を身につけることが大切。自分から動くための根っこを、この時期にしっかりと育てたいと考えています」

小田先生も、低学年における自走の準備についてこう補足します。

「低学年は、勉強の取り組み方を学ぶ段階です。例えば、文字を丁寧に書くといった基本を、まずは徹底していきます。また、子どもへの指導だけでなく、保護者にも子どもへのサポートのあり方をしっかりお伝えしていきたいと考えています」

高学年:ICTを駆使し、自ら計画を立てる

4年生以上の高学年になると、学びのスタイルはより自律的なものへとシフトします。その象徴的な取り組みが、4〜6年生に導入されたカレンダー付き連絡帳です。

「大人が使うスケジュール帳のように、テストの日程から逆算して、いつ、何を勉強するかを自分で書き込んでもらいます。全員が同じことを書くのではなく、『自分はこうしよう』とそれぞれが計画を立てる。昨日も4年生の教室を覗いたら、皆しっかりと自分なりに計画を立てていました。こうした小さな判断の積み重ねが、自走力を養うのです」(小田先生)

同校では、毎日朝と昼に、計算・漢字・英語などに取り組む「ひばりタイム」を設けています。6年生ではこの時間の内容を自分たちで考える試みもスタートしました。

「自分でこうした方がいいと思うことを考えて実行する。結局、それができる子がどの時代でも伸びていきます。自分で決めて取り組む場面を、より増やしていきたいと考えています」と今井校長は述べます。

また、高学年ではICTの活用も本格化します。12歳以下が利用可能なAIを相談相手として活用し、総合学習のテーマを決めたり、発表の構成を練ったりする試みも始まっています。

「AIを善か悪かで議論するのではなく、自走するためのツールとしてどう使いこなすか。子どもたちが自分で判断するシーンを、授業の中に意図的に作っています」(今井校長)

こういった自走力を育む取り組みを実施するうえで、学園が最も大切にしているのが「やってみなはれの精神」です。

「自分で決めて動けば、当然失敗もします。でも、それでいいんです。やってみないと何も始まらない。私たちは子どもたちの『伸びる力』を信じています。本校では5年生以上で希望制のニュージーランド研修を設けています。この研修中は、自分のことは自分でしなければいけません。自ら考えて行動する10日間を過ごして帰ってきた子たちが、見違えるようにたくましくなり、自分から前に出られるようになる姿を何度も見てきました」(今井校長)

先生も、保護者も。学園全体が「自走」する

このテーマは、子どもたちだけに向けられたものではありません。「教員も自走力がテーマです」と今井校長は力を込めます。

「先生たちも、従来のやり方を踏襲するだけでなく、自らスキルアップを目指し、クリエイティブな授業を考えていくことに力を入れています。そうした先生の姿を見て、子どもたちも育つので、よい影響が出てくるのではないかと期待しています」(今井校長)

さらに、今後は保護者を対象とした子育て講演会や、悩みをお互いに共有できるような場も増やしていきたいと今井校長は考えているそうです。

学校と家庭が手を取り合い、信頼関係の中で一緒に子どもたちを育てていく。同校のめざすその教育は、子どもたちの未来を大きく変えていくに違いありません。

5年全員が英検3級相当以上!「見える化」された確かな英語力。

同校の英語教育が、目覚ましい成果を上げています。その実力が客観的な数値として表れたエピソードを、小田先生が明かしてくれました。

「2025年度、5年生全員が『TOEFLPrimary®』を受験したのですが、驚くべきことに、全員が英検3級相当以上のスコア(CEFR A1レベル以上)をクリアしました。特別な対策ではなく、日々の学校の授業だけでこのレベルに到達している。これには我々も大きな手応えを感じています」

このスコアは、他の私立中学校が実施する英語入試や、入試加点の対象としても十分に活用できる水準です。

入学して初めて本格的に英語に触れる児童も多い中、なぜこれほどまでの力が身につくのでしょうか。今井校長はその秘訣を、「継続的な積み上げ」と「発信力」にあると分析します。

同校では1年生から週2.5時間の英語授業を行い、日本人教員とネイティブ教員によるティーム・ティーチング(TT)体制を徹底しています。

「低学年ではフォニックス(綴りと発音の規則性)を徹底し、英語の正しい音を体に染み込ませます。指導メンバーが大きく変わらないため、学年を超えた縦の連携がスムーズで、無理なくステップアップできる環境が整っています」(今井校長)

また、同校の英語教育の最大の特徴は、単なる知識の習得にとどまらず「プレゼンテーション」に重きを置いていることです。人前で英語を使って自分の意見を伝える機会を、低学年から数多く設けています。

「その結果、子どもたちは英語で話すことへの抵抗感が全くありません。内部進学した中学生たちが、英語スピーチコンテストなどで次々と優勝しているのは、小学校時代に培ったこの『度胸』と『発信力』があるからこそだと思います」(今井校長)

英語が好きで得意な児童はさらに上のランクを目指し、そうでない児童も授業を通じて自然と高い水準に達する。同校の英語教育は、まさに「自走」して世界へ飛び出すための翼を授けているといえるでしょう。

学園の総力を結集。中井中高校長が「総合校長」に就任

2026年度、雲雀丘学園は新たな運営体制へと舵を切りました。中高の校長を務める中井啓之学校長が総合校長を兼任し、小学校・中学校・高校の全校を一貫して統括する体制がスタートしたのです。

これまでも中高一貫の強みを活かしてきた同校ですが、今後は小と中高の連携のメリットについても、より明確な形を模索しています。

今井校長は、中高が持つ「探究学習」や「グローバル教育」のノウハウ、さらにはサントリーをはじめとする多様な企業とのネットワークを、小学校教育にも融合させたいと考えています。

「中高では、企業と連携した探究プログラムなど、外部との繋がりを活かした学びが盛んです。総合校長というポジションができたことで、こうした中高のリソースを小学校でも活用できるプログラムが構築しやすくなります。これは他の小学校には真似できない、本校ならではの大きな強みになるはずです」

中高との連携を深めることで、小学校で培った『自走力』が、中学・高校の『探究』へとシームレスに繋がっていく。学園全体が一つのチームとなり、共通の志を持って進む新体制に期待が高まります。

取材を終えて

今回の取材中、今井校長が「これ、見てください」と笑顔でパソコンの画面を差し出してくださいました。画面に映っていたのは、リニューアルされたホームページに新しく導入された「えあわせゲーム(神経衰弱)」です。

カードをめくると、「親孝行の日、感謝しよう」といった学園にゆかりのある温かいメッセージが飛び出します。

「ホームページの中に、子どもたちが遊べる場所があったらいいよね」という小田先生のアイデアから生まれたこのゲームには、入試のテクニックやひらがなの先取りを求める意図は一切ありません。そこにあるのはただ純粋に、「学校のことを楽しく知ってほしい」という、先生方の優しい眼差しです。

入試の形式を変え、合格後の『準備ブック』を作り、自走力を育むための仕掛けを次々と生み出す。その根底にあるのは、常に「子どもたちにとって何が最善か」を問い続ける真摯な姿勢です。

雲雀丘学園小学校は、親子で安心して学びの第一歩を託せる、どこまでも温かい場所である。そんな確信を抱かせてくれる取材でした。

取材協力

雲雀丘学園小学校

〒665-0805 兵庫県宝塚市雲雀丘4-2-1   地図

TEL:072-759-3080

FAX:072-759-4427

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