取材レポート

東京都市大学付属小学校

日本文化を学び、海外の人を 「茶の湯でおもてなし」する特別授業

2020年、東京でオリンピック・パラリンピックが開催され、多くの外国人が来日します。このような機会を捉えて、日本の伝統文化を世界へ発信しようと、8月、羽田空港国際線旅客ターミナルでは、「2020羽田de日本文化プログラム」(主催:MOA美術館・MOA美術館東京都児童作品展連合会)が実施されます。この企画に東京都市大学付属小学校の児童も参加。海外から訪れた人たちを「茶の湯でおもてなし」するために、事前講習が開かれました。

日本文化と盆点前を学ぶ「日本文化教室」を開講

日本文化の考え方を学ぶ

羽田空港国際線旅客ターミナルに、黄金の茶室(MOA美術館所蔵)を展示し、世界各国から訪れた人たちを、子どもたちが茶の湯でおもてなしする。このようなプログラムが8月に実施され、同校の子どもたちも参加をする予定です。その事前学習として、日本文化や盆点前※1を学ぶ「日本文化教室」(月1回・計6回)が開講。その様子を取材しました。

12月某日の放課後、学校の体験教室には畳が敷かれ、お茶室がつくられていました。第1回目の「日本文化教室」に参加するために、1、2年生たちが集合しています。今回希望者を募ったところ、当初の予定よりも応募者が多く集まり、低学年と中学年の2つのグループに分かれて、講座が行われることになりました。講師を務めるのは、武者小路千家官休庵※の準教授、佐藤靖子先生です。

まずは日本文化について、お話がありました。テーマは、「日本人の自然に対する考え方」です。日本は四季の変化が大きく、自然豊かな国であること。そして日本人は、季節の変化を歌に詠んだり、絵に描いたりして、四季を楽しむ生活を送ってきたこと。そのような毎日の生活の積み重ねから、文化が生まれ、成熟していったことなどを、低学年の児童にもわかるように優しく語りかけます。

その後、佐藤先生が「お茶室には何がありますか?」と問いかけると、子どもたちは次々に手を挙げ、「障子があります」「お花が飾られています」「巻物みたいなものが掛けられています」と、元気よく答えます。「ここに掛けられているのは、お軸といいます。お茶の世界でも季節感を大事にしていて、季節に合った絵や花、書、道具などをお茶室に飾って楽しみます。この後いただくお菓子も、冬の季節を取り入れているんですよ」と説明がありました。

※1盆点前…お盆を使った簡略な点前(お茶をたてること)。お盆の上に道具を置いて運び出し、お盆の上だけで点前をするので、どこでも手軽にお茶を楽しむことができる。

※2武者小路千家官休庵…茶道流派の一つ。千利休によって大成された茶の湯(茶道)は、利休の子孫によって、三つの家元に分かれて受け継がれ、表千家、裏千家と併せて、三千家といわれる。また、武者小路千家は官休庵、表千家が不審庵、裏千家が今日庵と呼ばれている。

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相手を思いやりながらお茶を点てる

続いて佐藤先生は、軸に書かれている「恵」という字について話をします。「みなさんは毎日、野菜やお米など、おしいいものをいただいていますね。野菜たちは太陽や土など、自然の力を借りながら、がんばって大きくなり、また、農家の人たちも一生懸命に育ててくれています。みなさんは、そんな自然の恵みである野菜の命をいただいて、体が元気になったり、成長していることを覚えておいてくださいね」。

お話が終わると、いよいよ盆点前の実習です。まずは、スタッフがペアになってデモンストレーションを行いました。子どもたちは、一連の所作を食い入るように観察し、お菓子が出された時は、思わず「おいしそう」と言葉が漏れ、笑いが起こる一幕もありました。

その後、4~5人グループに分かれて、練習をします。みんなできちんと正座をして、あいさつをするところから、道具の扱い方、お茶のいただき方などを習い、一つひとつの動きを実践していきます。同時に、お茶を点てる時には、「相手に喜んでもらえるように心を込める」こと、お茶いただく時は、「点ててくれた人に感謝する」など、相手を思いやる気持ちが大事であることを教わりました。

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国際化の時代に日本のことを知る大切さ

日本文化教室には、同校の「親父(おやじ)の会」の会長である川合俊明さんも、立ち会いました。実は川合さんが、この企画を校長先生に提案したのだといいます。 「以前から校長先生は、子どもたちにおもてなしの心や、日本の良さを教えたいと話されていました。2020年は小学校で英語教育が必修化されるなど、世の中はますます国際化が進んでいきます。そんな時代だからこそ、自国のこと、日本人の価値観について知ることが大切であり、子どもたちに学んでほしいと思いました。それも、ただ知識を教わるのではなく、楽しさをもって体感するのがよいのではないかと…。今回の日本文化教室も、難しくないところから入り、お茶やお菓子、食も文化であることを、体験して学ぶことができます。また、盆点前であれば、家に帰って、慣れない手つきながらも家族に披露することができ、そのことで本人の自信がつきますし、親子の会話も生まれます。将来、海外留学でホームステイをする時なども、その経験を活かすことができるでしょう。ホストファミリーにお茶をふるまう際、両親にかけられた言葉も添えられると、なおいいですね。 本校は華道を課外授業に取り入れるなど、日本の伝統文化をとても大切にしています。日本文化には、いろいろなものが凝縮されていて、礼儀作法もその1つです。自分を律したり、相手のことを思いやるなど、子どもたちの心の教育にもつながっていますね」

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3年生の児童2人にインタビュー

日本文化教室に参加した児童は、どんな感想を抱いているのでしょうか。
2人の3年生に話を聞いてみました。

Q日本文化教室に応募した理由は?
Sさん
お母さんとおばあちゃんが茶道の経験があり、家でもお茶を点てています。私もお点前ができるようになりたいと思いました。
Oくん
幼稚園に通っていた時、全員参加でお茶をする機会があって、それが楽しかった。だから、もう一度やってみたいと応募しました。


Q茶の湯のどんなところに興味をもちましたか?
Sさん
お菓子がおいしいことです(笑)。お母さんやおばあちゃんがお茶を点てている姿が素敵だなと感じました。
Oくん
茶筅を素早く動かして、お茶を点てるところが、すごいなと思います。


Q海外の人たちをどのようにおもてなしをしたいですか?
Sさん
お点前がきちんとできるように、家でも練習して、本番は心を込めてお茶を点てたいです。海外のお客さんに喜んでもらえるような、おもてなしをしたいと思っています。
Oくん
笑顔であいさつをしたり、できるだけ気を遣って、お点前をしようと思っています。外国の人に「おいしい」と思ってもらえたらうれしいし、オリンピックの選手にも、ぼくの点てたお茶を楽しんでもらいたいです。

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世界の人に日本文化の良さを伝える

2回目以降の「日本文化教室」は、「生活の中に芸術を取り入れてきた日本人」、「おもてなしの文化」というテーマで日本文化を学び、実習では、盆手前の他に、お運びやあいさつの仕方、語学なども習います。 その集大成として8月に、羽田空港国際旅客ターミナルの5階「お祭り広場」で、海外から訪れた人たちに、お茶を点てて、おもてなしをします。この企画の主催者であるMOA美術館(岡田茂吉美術文化財団)インストラクターの三橋正晴さんは、「もしも必要なら、補講も行って、全員がお点前をできるようになってほしいですね。でも、万が一できない場合、お運びをするだけでもOKなんです。このプログラムの一番の目的は、子どもたちに日本文化を知ってもらい、実際に体験をして、それを継承してもらいたいということです。お点前の技術よりも、おもてなしをしようという気持ち、そういうお茶の心をつかんでほしいですね。その思いは海外に人にも伝わるでしょうし、日本の良さを伝えることにもなると期待しています」。 そして、日本文化教室に参加した児童は、武者小路千家の盆点前・初級実技課程の審査を校内で受験することができ、合格者には「修了証」が発行されます。このように東京都市大学付属小学校では、作法を身につけ、日本文化を発信する子どもたちが育っています。

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取材協力

東京都市大学付属小学校

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