取材レポート

トキワ松学園小学校

表現や発想、協働の力を育む!「演劇的手法」を用いた特別授業スタート

1クラス23人を基本としたクラス編成で、小規模での教育を行っているトキワ松学園小学校。2022年度まで教頭として子どもたちと過ごしてきた百合岡依子先生が、2023年度から校長に就任。今年度の目標や新たな取り組みについて、校長の百合岡依子先生と教頭の中山正秀先生にお話を聞きました。

トキワ松学園小学校 校長 百合岡依子先生のお話
学校目標「健康 感謝 親切 努力」の実現
一人ひとりの個性を大切にし、よさを伸ばす
互いに認め合い、高め合える集団づくり
視野を広げ、未来を切り拓く力をつける
今日からできて、ずっと続けてほしいこと

トキワ松学園小学校 教頭 中山正秀先生のお話
中・高とのつながりを活かしてさらに進化
美術を通した中・高・大学とのつながり

トキワ松学園小学校 校長 百合岡依子先生のお話

学校目標「健康 感謝 親切 努力」の実現

始業式の日に、今年度の目標として掲げた4つを子どもたちに伝えました。1つ目は、学校の教育目標である「健康 感謝 親切 努力」を常に意識することです。とてもシンプルで一見当たり前のことですが、その反対のことをしないと考えると、思った以上に厳しい目標でもあります。特に、「感謝」は気づくことが大事です。例えば、新年度が始まる前には、清掃担当の方が全学年の靴箱を何時間もかけて綺麗にしてくれています。子どもたちはその現場を見ていないので、そのことに気づく子はほとんどいないでしょう。こうしたことを伝えることで、他のことも誰かがやってくれているのだと気づき、感謝するとともに「自分にできることは何だろう?」と考えられるようになってほしいです。

学校目標のもとになっているのは、初代校長・丸山丈作先生の「モロモロノ恵ミヲワスレズツネニ善イコトヲスル。体ヲ強クスル。カシコクナル。ヨク働ク。ムダヲシナイ。」という言葉です。感謝が基点となっており、本校の教育の大切な支柱となっています。私たちはさまざまな恵みの中で生かされているのであり、その恵みに報いるためにどう生きるかを常に考えていかなければなりません。

一人ひとりの個性を大切にし、よさを伸ばす

子どもたちには2つ目の目標として、「いろいろなことに挑戦して、自分の力を伸ばしていきましょう」と伝えました。教員の視点では、一人ひとりの個性を大切にして、子どもたちのよさや頑張りを見逃さないようにすることです。本校は少人数制で発表の機会も多いですが、それ以外でも、どんな場面で一人ひとりのよさが出せるか考えていきます。教員と子ども、子ども同士のコミュニケーションを大切にして、よさを見逃さず、いいところがあったらその場で褒めることを心がけていきたいです。

本校では、5、6年生は全員、保健や放送、図書など、いずれかの委員会に所属して活動します。代表委員会の会長と副会長は、立候補者による立会演説会を行って、2年生以上の子どもたちが投票で決めます。4月の演説会では、それぞれ4人の候補者が、会長や副会長になったらどんな学校をつくっていきたいか、応援弁士と協力してスピーチをしました。今回は、「みんながわくわくする、より楽しい学校づくりを目指したい。全校児童で遊べる遊びを企画したいので、みんなから意見を募集したい。」とスピーチした子が当選。早速意見箱を設置して、他の委員たちも協力してアンケート用紙を各教室に配布しています。

立会演説会の前の朝礼で、「今回立候補した8人は素晴らしい挑戦をしましたね。」と話しました。各クラスの代表として立候補しても、会長や副会長になれるのは1人ずつなので、残りの6人はなれないのです。それでも、選挙のために準備をしてスピーチをするなど、行動を起こしました。目標に向かって行動した結果、達成できなかったとしても、挑戦したことには意味があり、価値のあることです。そして、それが成長につながります。会長や副会長への立候補でなくても、授業中に勇気を出して手を挙げることも挑戦です。みんなも日常の中で挑戦していこうと、子どもたちに話しました。

互いに認め合い、高め合える集団づくり

3つ目の目標として、子どもたちには「一人ひとりの力を集めて、よいクラス、よい学年、よい学校をつくりましょう」と伝えました。学校は集団で育つ場所なので、自分たちが所属するクラスや学校をよくしていこう、よい集団をつくろうという気持ちが大切です。教員の視点では、「互いに認め合い、高め合える集団づくり」を目指します。具体的な取り組みの一つとして、劇あそびの校長特別授業を行います。栗林前校長先生は俳句が専門だったため、特別授業に俳句を取り入れていました。私は自分の研究テーマである劇的表現活動(演劇教育)を、全クラスで、まずは学期に1回ずつ行っています。

日本ではまだ取り入れている小学校は少ないですが、イギリスやアメリカなどでは授業科目として「ドラマ」が時間割に入っています。与えられたテーマに添って、体の動きや声、表情で表現したり、仲間とコミュニケーションをとったりしながら、個々の発想を活かして一緒につくりあげていくのが劇遊びです。こうした活動を通して、一人ひとりが持っている個性や発想を生かせるだけでなく、自然に周りの子と協力できるようになります。自分の発想や表現が受容されることで自己肯定感が高まり、また、友達に対しても「そんな考えがあるんだ!」と気づくことで、発想や表現がさらに広がっていきます。俳優を育てるためではなく、子ども一人ひとりを伸ばすために行う教育の一環なので、子どもたちの日常の様子を知っている教員が行うことに意味があると考えています。ですから、授業には担任の先生方にも入ってもらうようにしています。

視野を広げ、未来を切り拓く力をつける

4つ目の目標は、「地球上のさまざまな問題に目を向け、自分にできることを考え、行動しましょう」です。本校は宿泊行事を中心とした校外学習を多く取り入れていますが、今年の3年生はSDGsを総合学習の年間のテーマとして、2泊3日の宿泊行事「海の教室」(南房総)では海洋ゴミをテーマに学びます。事前学習で海洋ゴミがどれくらいあるか調べて、実際に行ってみてどんなゴミがどれくらいあるか自分の目で確認します。また、多様な生き物についても、海に行って自分たちの目で観察します。その後、人間が環境を汚してしまっているという現実を踏まえて、自分たちに何ができるか考える学習につなげます。

「海の教室」ではこの他にも地引き網体験や漁港見学など、海にまつわる様々なことを見たり体験したりします。事後学習では、班ごとにまとめたものを保護者の前で発表する予定です。このように、地球上の問題を体験を通して自分ごととして捉えて、何ができるか考えることが大切です。他の学年でも、学年に応じてテーマを決めて学んでいきます。

校外学習のほかにも、いわゆる出前授業として保護者による特別授業を行っています。医師や弁護士、TVの番組制作者など、保護者の方々にご協力いただいて、その専門についての授業をしていただきます。友達のお父さん・お母さんということで子どもたちの興味・関心はより高まりますし、私たち教員にとっても大変勉強になります。

今日からできて、ずっと続けてほしいこと

子どもたちには、人の話を聞くことと挨拶の大切さについても日々伝えています。人の話を聞くことはコミュニケーションの基本ですが、意識しないと難しいものです。また、挨拶ができることも「生きる力」だと考えています。前校長から引き継ぎ、私も毎朝校門の前に立ち、子どもたちと目を合わせて挨拶するようにしています。いつも私が立っているとわかれば、今日は大きな声で挨拶できなくても、明日はできるかもしれません。すぐにできなくてもやってみようと思えること、そういった機会と安心の土台があってこそ、子どもたちは頑張れるのだと思います。

トキワ松学園小学校 教頭 中山正秀先生のお話

中・高とのつながりを活かしてさらに進化

これまでは、トキワ松学園中学校高等学校の教員として小学校を見てきましたが、中・高からは見えていない部分もありました。今年度から小学校の教頭に就任し、内側から小学校を見ると、その教育が中・高へとつながっていることが実感できています。例えば、6年生が全校児童の前で自分の特技や好きなことについて発表する「個人発表」です。これは、中・高で行っている探究の授業につながっています。このような体験学習がトキワ松学園小学校にはたくさんあります。また、今はどこの中学や高校に行っても探究の力は求められるので、男子の場合もつながっていきますし、社会に出てからも求められる力です。

小学生のうちから人に伝えようとすることや、チャレンジすることはとても大切です。自分で興味を持ったことを調べていくと、自然に覚えることができます。小さいうちから興味を持ったことを調べて、答えを突き詰めていく習慣をつくれるように、一緒に考えてあげることが子どもの将来につながっていくのです。高校生でも起業する子が出てきていますが、このような積み重ねから始まっているのだと思います。小学校でしっかりと土台が作られていることがわかったので、先を見据えてより進化させていきたいです。

美術を通した中・高・大学とのつながり

中・高だけでなく、系列校に横浜美術大学があるという環境も恵まれていると思います。だからといって、絵がうまくなければ本校に入れないということはありません。表現力を身につけたり、感性を高めるためにこの環境が活用できるのです。地下の売店前にある「ときカフェ」はギャラリーにもなっており、大学生の作品を身近に感じることができます。今展示してある作品は、トキワ松学園高校を卒業して横浜美術大学へ進学した学生が寄贈してくれた、卒業制作の作品「Bear」です。

年に1回程度、横浜美術大学の先生や学生による、小学生向けのワークショップも実施しています。昨年実施した「百鬼夜行なりきり体験」も、子どもたちは楽しみながら活き活きと取り組んでいました。トキワ松学園の学園会が主催するバザーに向けて、ポスターコンクールも小中高合同で行っています。応募作品は全て玄関に掲示するので、小学生が中高生の作品から刺激を受けるよい機会です。中高生とは力の差があることはわかっていても、チャレンジする子が毎年います。美術を通した中高生、大学生との交流は、今後も大切にしていきたいです。

取材協力

トキワ松学園小学校

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