取材レポート

トキワ松学園小学校

一人ひとりを大切に育てる、1クラス23人のクラス編成

開校以来、小規模での教育を行っているトキワ松学園小学校。1クラス23人を基本としたクラス編成による学習や学校生活について、校長の栗林明弘先生と教頭の百合岡依子先生にお話を聞きました。

トキワ松学園小学校 校長 栗林明弘先生のお話

トキワ松学園小学校 教頭 百合岡依子先生

トキワ松学園小学校 校長 栗林明弘先生のお話

お互いを認め合える家族のような雰囲気

本校では開校以来、小規模での教育を行っています。2000年に1学年が2クラスになりましたが、それまでは1学年1クラスという環境で、家庭的な雰囲気がつくられてきました。現在は1クラス23人を基本として、各学年2クラス、全学年でも280人程度です。1クラスが23人であることの最もよい点は、教員が児童一人ひとりにたっぷりと愛情を注げることだと思います。全てにおいてそれがベースとなっているので、子どもたちが安心して学習したり、学校生活を送ることができるのです。授業は、大きな教室をパーテーションで区切って半分にしたスペースで行っています。ですから、物理的にも教員との距離が近いので、一人ひとりに目が届きやすいです。

意図的に少人数にすることで、多くの場面で子どもたちをアプローズ(拍手喝采)の中心に置くことができます。子どもたちにとって、褒められたり、みんなから祝福される場面はとても大切です。例えば、日直や帰りの会で今日のMVPを発表する場面など、家族のような雰囲気の中で、お互いを認め合おう、称え合おうとする空気がつくられます。引っ込み思案の子や恥ずかしがり屋の子も、23人だと発表しやすいでしょう。6年生が全校の前で行う「個人発表」も、アプローズの中心となる機会の1つです。自分の特技や好きなことについて発表するのですが、好きなアニメやラグビーの話、楽器の演奏、ダンスなど、いろいろな発表を見たり聞いたりすることができます。1回に発表するのは3人ぐらいですが、全員にその機会が保証されていることが重要です。

小規模校は教員にとっても恵まれた環境

1クラスが23人だと、教員たちにとってもクラス運営がしやすいというメリットがあります。例えば、1回の授業で全員に音読の機会を作ることができます。1人1文ずつ読む「まる読み」も、23人なら全員にまわすことができますし、スラスラ読めない子がいても、待ってあげることができるのです。漢字の練習帳なども、1つ1つ丁寧にチェックできます。子どもたちはすぐに返してほしいと思っているので、その気持ちが温かいうちに返すことができます。空き時間に丸付けをして、コメントも書いてその日のうちに返すことも可能です。40人もいたらコメントなども雑になりがちですし、返すのも遅くなるでしょう。子どもたちは返ってくるのを楽しみにしているので、翌週になってしまうと、「いつ返ってくるの?」などと言われてしまいます。頑張ろうという気持ちにすぐに対応できることは、子どもたちにとってもよいことですし、教員たちにとっても非常に恵まれた環境だと思います。

本校ではどの教員も、「23人だと、一人ひとりを丁寧に見られる」と言っています。人数が多いと、何かをやってあげたいと思っても限界があるのです。1人にしてあげたら、全員に同じようにしてあげなければなりません。例えば本校では、誕生日には一人ひとりにメッセージを書いて、心のこもった誕生日カードを贈っている先生もいます。もし40人もいたら同じようにすることは難しいので、誕生日カードは作らないかもしれません。教員が児童にやってあげたいと思ったことを、実現しやすいのも小規模校のよさだと思います。

保護者に支えられてきた歴史

開校以来、保護者の方々には様々な面でご協力いただいています。「後援会」という<卒業生の保護者>の会があるのも、保護者とのつながりが深いことの象徴です。本学園は1916年に渋谷の地で開校しましたが、その校舎は戦争により焼失してしまいました。一時は廃校の危機もありましたが、存続への強い思いを持つ保護者の方々からの協力があり、この碑文谷に移転することができたのです。小規模で、一人ひとりの顔が見えるからこそ、後援会のような会も作られたのでしょう。学校行事などにも、皆さん協力的です。例えば「読書週間」には、保護者が絵本を選んで読み聞かせをしてくれます。1クラスが23人だと保護者にとってもハードルが低いこともあり、児童との交流を楽しんでくださっています。

トキワ松学園小学校 教頭 百合岡依子先生のお話

学校生活の中で自然に異学年が交流

1クラスが23人でも、5クラスぐらいあると全体の規模が大きくなります。本校は、1学年でも46人、2学年でも100人を超えません。全体としても280人程度の学校だからこそ、家庭的な雰囲気をつくることができるのです。クラスの中だけでなく、学年を越えた交流の機会も自然にできています。休み時間にドッジボールで遊んでいたら、小さい子が「入れて!」と入ってくることもあります。そのような場面では、上の学年はちゃんと下の子に、ハンデをつけて入れてあげているのです。運動会では「全校リレー」という競技もあり、1年生から6年生までを4色に分けて、全員がリレーに出ます。1年生から6年生へみんなでバトンをつなぐ、とても盛り上がる競技です。

秋には、全校遠足があります。例えば、多摩動物園に行くときは縦割で班を作って、園内はグループ行動です。1・3・6年生と2・4・5年生各2人ずつ、6人ぐらいのグループで、6年生や5年生がしっかりと下級生を見守って、家族のように園内を歩きます。低学年の子は、お兄さんやお姉さんへの憧れの気持ちを抱いたり、何かしてもらって嬉しかった気持ちを自分が上級生になったときに、下級生に返すことにもつながります。高学年はプレッシャーもありますが、お兄さん、お姉さんと慕われれば嬉しいですし、気配りやリーダーシップを発揮するよい機会です。このような行事が全校一斉にできるのも、小規模校ならではだと思います。卒業生からは、卒業後にも異学年の交流があるという話も聞いています。

5年生からは2クラス合同の活動もプラス

低学年のうちは、先生との距離が近い方が安心できると思いますが、高学年になると、それぞれ自立心も芽生えてきます。子どもたちを見ていると、小さい集団だけでいるより、集団を広げた方が居心地のよさや自分の居場所を見つけられる子もいると感じます。特に高学年になると、ずっと23人でいると息苦しさを感じる子もいるでしょう。ですから5年生からは、朝の会、昼食、帰りの会は、2クラスを合わせて1つの集団として活動しています。授業も、体育や総合、特活、家庭科などは2クラス合同です。中学・高校へ進むと1クラスが30人、40人になりますが、2クラス合同の場面も経験しているので、抵抗なく馴染んでいけます。

小規模校だからこそ感じられる「つながりの深さ」

理科の実験などは2~3人で行うので、見ているだけの子がいません。男女も仲がよく、幼なじみのような関係です。私学に通っていると近所に友達を作るのが難しい面もありますが、本校の子どもたちは卒業後もよく会っているようですし、高校生や大学生になってから一緒に遊びに来てくれる子たちもいます。人数が多いと、「集団での活動」と「個々を見る」ことの両立は難しいでしょう。少人数だからこそ、「僕を見て!」「私を見て!」というサインに気づくことができるので、一人一人の話を聞いたり、それぞれの個性を認めたりすることができます。また、子ども同士の小さなケンカは日常的にありますが、事態が大きくなる前に予兆に気づいて対応することができます。保護者の方々もクラスや学校にあたたかく関わって下さるので、6年間、そして卒業後も続く深いつながりが形成されていくのだと思います。

今、5年生の教室の前に、全教員分の紹介ポスターが掲示されています。国語の学習〈働く人へのインタビュー〉で、5年生の児童が先生たちにインタビューをして、その内容を似顔絵とともにポスターに仕上げたものです。質問の内容は、「なぜ先生になったのですか?」「トキワ松の好きなところはどこですか?」というものから、「好きな虫は何ですか?」「好きなポケモンは何ですか?」といったものまでバラエティに富んだものでした。子どもたちは担任以外の教員とも行事などさまざまな場面で接するため、こうしたことで教員の人柄を知ることができると、より親しみを持てるでしょう。ちなみに、この授業を行った教員は、「トキワ松の先生になることが夢だった」という本校の卒業生です。このような取り組みも、本校の家庭的 な雰囲気から生まれてくるものだと思います。

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