取材レポート

明星小学校

誰が担任でも安心!“チーム明星”で高め合う「教師力」

建学の精神「和の精神のもと、世界に貢献する人を育成する」を受け継ぎながら、「賢さ」と「豊かさ」を兼ね備えた、輝きをもった子どもの育成を目指している明星小学校。公立、国立小学校で教鞭をとり、2018年度から同校の校長に就任した細水保宏先生に同校の教育ビジョン、中林一紀先生と末續夏生先生に研修システムについてお話を聞きました。

明星小学校 校長 細水保宏先生のお話
これからの社会で必要とされる「3つの力」
「教師力」の柱となる4つの力
「教える」のではなく子どもたちから「引き出す」授業
教員の能力向上に向けた独自の研修システム
2023年度からスタートした「算数キャンプ」

明星小学校 担任 中林一紀先生のお話
授業について深く語り合える“チーム明星”

明星小学校 担任 末續夏生先生のお話
様々な「気づき」の場となる「校内授業研究」

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校長 細水保宏先生

校長 細水保宏先生

明星小学校 校長 細水保宏先生のお話

これからの社会で必要とされる「3つの力」

2018年に校長として就任した際に、最初の3年間は「理数教育」「英語教育」「プログラミング教育」の強化という3つの柱を打ち立てました。3年経ってある程度成果が見えてきたところで、次の3年間に向けて4つ目の柱として取り入れたのが、子どもたちが自ら課題を発見して解決方法を考える「探究学習」です。私は学習指導要領の作成を担当した経験もあるので究、これからの子どもたちにとって必要な力は「問題発見力」「問題解決力」、そして「問題追究力」の3つだと思っています。これまでの教育は、教科書の問題を解く力を育てることに力を入れてきました。しかし、ITやAIを活用する時代には、「問題を解く力」だけでなく、「問題を見つける力」や、うまくいかなかったらどこに原因があるのか「追究する力」など、先へ進む力も必要になってくるからです。これからは、「教えて育つ」のではなく「自分で学んで育つ」ように、総合的な学習の時間だけでなく、どの教科でも「探究学習」に取り組もうというのが本校のビジョンです。

さらに、5つ目の柱として「教師力と授業力」を掲げて、教師力を向上させるための校内授業研究にも力を入れています。本校の教育目標は、『「賢さ」と「豊かさ」を兼ね備えた、輝きをもった人の育成』ですが、「賢さ」とはテストでよい点数を取ることではありません。その場に応じて臨機応変に対応できる力、別の言葉で言えば「知恵」を持っている人ということです。「知識」ではなく、「知恵」を持っている人になってほしいと考えています。「豊かさ」とは、思いやりや幅広い心など、外に向けて広い目や深い心を持った人になってほしいという想いです。自分と違うタイプの人と出会って、自分にないものを吸収できたらば豊かになっていくと思っています。私たち教員が、池に小石を投げ込むような感じで面白いことを投げかければ、水面に波紋が広がるように子どもたちの関心が広がっていくでしょう。私たちは教科書そのものを教えたいのではなく、教科書を通して、知的好奇心や粘り強さ、思考力、判断力、表現力といった力を伸ばしたいと考えています。

「教師力」の柱となる4つの力

保護者は学校を選ぶことはできますが、担任を選ぶことはできません。ですから本校では、「誰が担任になっても6年間幸せにできます」と言えるようにしたいと考えました。そのために、「授業観」「教材研究力」「学習指導力」「豊かな人間性」の4つを大切にしています。

先生方には、まず、「どのような子どもに育てたいか」という想いを持ってほしいと考えています。それが「授業観」です。例えば、「ゴミが落ちていたら黙ってゴミを拾う子になってほしい」と思ったら、ゴミを拾った子どもに対して「すごいね。素敵だね」と褒めて価値づけていってほしいのです。そうすれば、子どもたちは教員が育ってほしいと思う方向に動くようになっていきます。一方、授業の中でどんな力を育てたいか、そのためにどうしたらよいか考えるのが「教材研究力」です。子どもは一人ひとり、みんな違っているので、それぞれの児童について何ができていて、何ができていないかを見極めて、手立てを打つ力が「学習指導力」です。そして、そばにいる先生の人間性が一番子どもたちに影響するので、「豊かな人間性」を持った先生になってほしいのです。別の言い方をすれば、「感動する人」になってほしいと思っています。本を読んだり、映画を観たり、スポーツ観戦したり、先生自身が感動する経験を積み重ねていけば、子どもたちと一緒に感動したり喜んだりできる人になれるでしょう。

「教える」のではなく子どもたちから「引き出す」授業

本校では、教員が「教える」のではなく、教員が教えたいことを子どもたちから「引き出す」授業を行っています。例えば、「三角形の内角の和は180度」と教えたかったら、教員はそれを言いません。子どもたちが「先生、どんな三角形も内角の和は180度になっているよ!」と言ってくるように導きます。そして子どもがそう言ってきたら、教員は「すごい!大発見したね。大切だから書いておこう」と言うのです。今までの教育では教える側がヒーローやヒロインになっていましたが、本校ではヒーロー、ヒロインは子どもたちなのです。

子どもたちから引き出すことは、簡単ではありません。まずは、自分が言いたいことを「子どもたちから引き出そう」と教員が意識することが必要です。そして、「先を読む」機会を積み重ねていきます。例えば算数の授業なら、毎回「次は何をやると思う?」と問いかけるのです。「三角形の次は四角形だったから、次は・・・・・・」と、子どもたちも先を読めるようになっていきます。教員がそのような場を作っていかなければ、子どもたちも先を読むようになりません。ですから、それが教員の指導力にもつながります。しかしそれ以前に、「どんな子どもに育てたいか」という想いがなければ、そのような場すら作れないので、まずは「どのような子どもに育てたいか」という想いを持つことが大切です。

教員の能力向上に向けた独自の研修システム

本校独自の研修として、教員同士で教材や言葉かけなどについて意見交換しながら研鑽を深める「校内授業研究」(月1回)、学外の先生方に研究授業を参観していただく「研究発表会」(年1回)、そして、教員自身が算数の楽しさを味わい授業力を向上させるために、他校の先生方にも参観していただく「明星算数講座」(年3回)を実施しています。同じ物を見た時に、いろいろな見方があるということが感じられる場にしたいと考えて始めました。教員は「自分が一番いい」と思って授業をしていますが、果たしてそれが本当によいのか誰も教えてくれません。独りよがりになる可能性もあるので、学校の中で意見交換ができる機会はとても大切なのです。ほかの先生の教室掲示を見る機会にもなり、黒板の使い方や子どもとの接し方なども、違いを知ることができます。日本中で先生方の力を伸ばすにはどうしたらいいですかと聞かれたら、私はまず校内授業研究を勧めたいですが、私学でこれを行っている学校は少ないです。

視野を広げるために外部の目も入れたいと考え、年3回行っている「明星算数講座」は、本校の教員が授業をして他校の先生に見てもらったり、他校の先生の授業を見たりします。授業力というのは、どの教科にも通じるものです。算数の授業研究で得たことは他の教科にも活かせるので、今のところは算数を中心に進めています。学校にとって、先生方の力は宝です。ですから、先生方の力をいかに伸ばすかということが校長の役目だと思っています。熱心な先生ほど時間をかけたいと思ってしまうので、年間のスケジュールの中で働くことが難しくなってしまいます。ですから、先生方がより働きやすい環境を整えていきたいです。「教員の仕事は楽しい」と思ってほしいですし、楽しいと思っている先生は自然と笑顔になり、子どもにもよい影響を与えるでしょう。

若い先生とベテランの先生では経験に差がありますが、若い先生でもベテランの先生に負けないものを持っています。例えば、「情熱や子どもたちを思いやる心は負けません!」などと、自信を持って言ってほしいです。若い先生も「どんな子どもに育てたいか」という授業観をしっかりと持ち、一歩ずつ進んでいけるチームにしたいと思っています。保護者の皆さんに「この学校に入れてよかった。素敵な先生に出会えたから」と言っていただけるように、“チーム明星”で切磋琢磨しながら高め合っていきたいです。

2023年度からスタートした「算数キャンプ」

算数は世の中をよくするために生まれてきたのですが、多くの人は身のまわりにたくさんある算数に気付かないで過ごしています。ですから、そのことに気づけるようになれば、「算数って便利だな」とか「算数って面白いな」と思ってもらえるはずです。例えば、24という数は温かいと感じます。約数が多いので、24個のものは2人でも3人でも4人でも6人でも、分けやすいです。10個のものは、2人や5人なら分けられますが、3人や4人だと分けられません。こういった観点を話していくことが、「算数って、何か面白い!」という気持ちにつながるのです。

今年度から、夏休みに希望制で「算数キャンプ」を函館で実施することにしました。現地集合・現地解散で保護者も参加していただき、2泊3日の間、算数だけを楽しむキャンプです。本校の教員だけでなく、函館ラ・サール学園の先生にも協力していただき、学校ではやらないような算数を体験します。初開催となった今年度は、16組の親子が参加されました。子どもたちが算数に取り組んでいる間、保護者の方たちは見学していてもよいですし、観光に出かけてもよいのです。保護者の皆さんからは、「ホテルに戻ったら、わが子が目に見えて算数が好きになっていました」という嬉しい感想をいただきました。来年も実施する予定ですが、参加した子どもたちだけを伸ばしたいのではありません。子どもというのは、周りから刺激を受けて頑張るようになるものです。「算数キャンプ」に参加した子どもたちが戻ってきたときに、「こんなことをやったんだよ」「算数って楽しいよ」とみんなに伝えてくれたらいいなと思っています。

明星小学校 担任 中林一紀先生のお話

授業について深く語り合える“チーム明星”

今年度は10月に、「明星算数講座」で発表者として授業をさせていただきました。私は昨年度まで公立の小学校で教えていましたが、授業研究の機会は一般的な私学よりは多かったと思います。しかし公立学校では、同じ自治体の先生方に授業を見ていただいて、協議会で指導に関してのアドバイスをいただくということが多かったですが、明星では、関東圏の自治体からも先生がいらしてくださって、それぞれの地域の教え方や子どもの様子の違いなどを知ることができました。公立の授業研究では、学校やチームとしての成果を発表する場合などは、個人として考えた授業ができるというわけではありません。一方、「明星算数講座」の場合は、テーマを自分なりに咀嚼して、このように子どもたちに伝えたいから、この単元でこのような授業を実践しましたという感じで、個人の授業研究として発表できる点が大きく違っています。

「校内授業研究」の一環として、若手教員で頻繁に"授業研究をしましょう"という会があり、そういった会を開けるだけ若手が充実しているというのは、公立ではなかったことです。明星では20代だけでも7人いるので、若手同士で気兼ねなく意見交換できるという、かなり魅力的な研修システムだと思います。みんなで食事に行って、「もっとこうして行きたい」とか、授業について深い根本の部分まで語り合うことも多いです。授業のことを深く語り合える学校は少ないので、教員同士が高め合えるよい環境だと思います。
中林一紀先生

中林一紀先生

明星小学校 担任 末續夏生先生のお話

様々な「気づき」の場となる「校内授業研究」

私は教員になって2年目ですが、「校内授業研究」で自分が授業を行ったときは先輩方からたくさんアドバイスをいただけますし、先輩が授業を行ったときには意見を言わせていただいています。その授業に関しての意見交換なので、気づいたことがあれば、後輩からも意見を言いやすい雰囲気です。私学ではあまりやらないようですが、他の先生に見ていただくからこそ意見交換ができるので、とても勉強になります。指導案で決めた目的があったのに、授業を進める中でそこからずれてしまったことに、意見交換の際に気づいたこともありました。自分だけで授業をしていると、視野が狭くなって気づけないまま進んでしまいますが、授業研究があると一度立ち返ることができます。授業中に子どもたちが考えていたことや、発問で拾い切れない部分があったことなども、気づくことができました。

授業研究は、それぞれの価値観や、こんな考え方もあるのだという意見交換ができる場です。「このような声掛けをしたら、子どもたちがこんな風に動いた」などと、先輩方の経験談や失敗談なども聞くことができます。授業のやり方に正解・不正解があるわけではないので、教わるというより、ヒントをたくさんいただいたり、自分の疑問を相談したりできる機会だと思っています。今後も先輩方の授業を見たり、意見交換をしながら、私なりの授業スタイルを確立させていきたいです。
末續夏生先生

末續夏生先生

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明星小学校

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