取材レポート

明星小学校

算数で、個育て。

覚えることや正解することよりも、答えにたどり着くまでのプロセス、その中でも特に新しい問題を見つけるプロセスを大切に、「探究する心」を育てている明星小学校。この学びを実現するのが、明星の算数です。算数活動を通じて、個を育み、論理的思考力や表現力といったこれからに必要な能力を高め、協働できる人を育てます。明星小学校には、校長をはじめ、算数を専門的に研究する教員が多く在籍し、独自の教育プログラムが展開されています。プログラムの特徴について算数科教員の平井哲先生にお話を聞き、算数の授業を取材しました。

明星小学校 算数科教員 平井哲先生のお話
「遊び」の中で数や図形の感覚を豊かにするAA授業
子どもたちが中心となって進める授業
様々な形で35人全員が参加できる授業

岩崎佑亮先生による「算数」の授業(4年生)を取材
算数が大好きな児童2人にインタビュー

関連記事:誰が担任でも安心!“チーム明星”で高め合う「教師力」
算数科教員 平井哲先生

算数科教員 平井哲先生

明星小学校 算数科教員 平井哲先生のお話

「遊び」の中で数や図形の感覚を豊かにするAA授業

本校では、算数の授業を行う際には、毎回はじめの 5 分でゲームをします。AA授業 (アリスメティック アクティビティ)と呼んでいますが、大きく分けると「数」と「図形」に関するゲームやパズルです。三角形や平行四辺形など、6種類のブロックで構成された「パターンブロック」を使ったゲームでは、図形に対する豊かな感覚が育まれます。「勉強」としてやるのではなく、「遊び」の中でその感覚が養われることが私たちの狙いです。「数」に関しては2年生以降で、4つの数字を足したり引いたり、掛けたり割ったりして10を作る「メイク10」というゲームをします。将来、中学校では因数分解で足したり掛けたりすることになりますが、「メイク10」をやっていると因数分解も抵抗なく取り組んでいけるようです。

計算技能を養うために、計算ドリルを30分間、一言も話さずに取り組んでいた時代もあったと思います。それはそれで一つのやり方だとは思いますが、本校ではそのようなやり方を重視していません。ドリルなどに取り組む時間は極力短くして、算数に必要な力を「遊び」の中で身につけていきます。次の単元ですぐに役立つわけではありませんが、子どもたちの根底にあるものとして、図形感覚や数感覚を豊かにしていくという5分間です。今後もいろいろな教材を取り入れていきたいと思っています。

子どもたちが中心となって進める授業

授業の本題に入っても、教員が中心となって授業を進めていくのではなく、子どもたちの言葉で授業を進めようと考えています。教科書を開いて「今日は○ページの○番をやるよ」と言ってスタートする授業が一般的だと思いますが、本校では子どもたちが問題を見つけていくという点が大きな特色です。子どもが問題を見つけたら、その問題を「子どもたち」で解決していくために教員がサポートしていきます。子どもたちがやりとりをしながら進めていく際の交通整理をするイメージです。例えば、話が広がり過ぎてしまったら、軌道修正するために別の児童から意見を聞いたり、行き詰まってしまったらヒントを出したりして、子どもたち自身で動いていけるようにサポートします。

私たちが小学生の頃は、台形の面積を出すときに、「(上底+下底)×高さ÷2」という公式を5年生で習いました。しかし、なぜこの公式になるかということは、ほとんどの小学校ではやらなかったと思います。いろいろな台形の面積を計算して、台形の面積が求められるかどうかだけが問われていたのです。本校では、台形を見せて「面積はどうやって求めようか?」と子どもたちに問いかけます。すると、子どもたちは台形よりも前に、長方形や平行四辺形、三角形の面積を求めてきたので、その知識を使ってどうにか台形を三角形や平行四辺形に変えることができないか考えるのです。2個つなげたら平行四辺形になると考えたり、対角線で切ると三角形2つになるので、三角形の求め方で求めることができると考えたりします。それぞれ違う考え方に見えますが、実は式でまとめていくと全部結局、「(上底+下底)×高さ÷2」にまとまるのです。

つまり、私たちが小学生だった頃は、考えて、考えて、みんなで一つのところにたどり着くという工程の、最初と最後だけを教えられていたのです。公式だけを覚えるのではなく、このような解き方をしておくと、既習事項を使って新たな知を得る思考パターンが豊かになり、実社会での問題解決プロセスに役立つスキルが身に付きます。

様々な形で35人全員が参加できる授業

授業中、黙って静かに黒板に書いてあることをノートに写していれば、怒られることもなく、45分過ごすことができます。しかしそれでは、その児童にとっての授業にはなっていません。手を挙げて発言できる人だけでなく、手を挙げる自信はないけれど小さなきっかけをつかめている人にも参加してほしいのです。「とにかく話していい」という雰囲気を作っているので、教室は常に活気に溢れています。「授業に参加する」というのは、「発言する」だけではなく、「自分の意見をノートに書く」ということでもよいのです。クラスの10人ぐらいはノートでのやりとりをしていますが、そのノートを次の時間にほかの子どもたちに見せれば、書いたことが評価されます。参加の仕方は「発言」だけでなく、いろいろな形があるのです。

社会に出たら、ほとんどの業種は1から10まで全部一人でやる仕事というのはないと思います。何かのプロジェクトなら、チームのメンバーがいて、その中で合意形成をはかって、1つのものを作り上げていくというのが一般的なスタイルでしょう。ですから、将来仕事をするということを考えたら、1クラスの子どもたち35人が1つのプロジェクトを進める時に、それぞれが補完し合って行くようなチームであることが大切です。子どもたちがその問題を自分ごととして、「自分がこの問題に関わって解決したんだ」という感覚を得られるかということを大切にして授業を行っています。

岩崎佑亮先生による「算数」の授業(4年生)を取材

5分間のAA授業では、「パターンブロック」を使った「陣取りゲーム」を行いました。六角形の台紙にブロックを埋めていき、最後にブロックを置いた人が勝ちとなるゲームです。子どもたちは遊びながら、図形を構成したり,平面を分割したりする見通しを持つ感覚を養っていきます。「パターンブロック」は、先生が指示しなくても子どもたちが準備して、終わった後もきちんと自分たちで片付けていました。

その後、「伴って変わる2つの数量の関係(和が一定)」についての授業が始まりましたが、教科書は開かず、子どもたちに何の単元かも伝えていません。表を用いて2つの関係を捉えるのが一般的ですが、岩崎先生が黒板に書いたのは表ではなく「ふしぎな時計」という言葉です。岩崎先生が見せた時計は、表が12時のとき、裏は1時。表が1時のときは、裏が12時。では、表が6時のときに裏は何時になるか、子どもたちに考えさせます。子どもたちは、「わかった!」「5時」「7時だと思う」などと、活発に意見を出し合います。先生が「次は何時を調べたい?」と問いかけると、子どもたちは自由に「3時!」「2時!」などと答えます。そのような中で何人かの子どもたちは、「きまり(法則)」を見つけようとしていました。

早い段階で「きまり」に気づいた児童は、自分の予想をノートに書きます。そして、「表みたいにしてみたら?」と提案する児童がでてくると、先生は黒板に児童が思っている表を書かせます。児童が書いた表について説明するのは、その児童でも岩崎先生でもなく、別の児童です。そしてだんだんと、「時計の表と裏を足すと全部13になる」という「きまり」が見えてきました。先生は子どもたちの発言を拾い上げ、軌道修正しながら授業を進めていきます。子どもたちは先生に教えられるのではなく、自分たちで考えて、自由に発言しながら「きまり」を見つけていきました。

算数が大好きな児童2人にインタビュー

「小さい頃、お母さんがお風呂で遊べる数字のパズルを買ってきてくれたら、僕が興味津々だったそうです。それで算数が好きなのかなって思って、お母さんがドリルを買ってくれたら、その日のうちに3冊解いてしまって、また新しいドリルを買ったり、習い事に行ったりしてどんどん広がっていきました。この学校の算数はとても楽しくて、先生の授業は面白いです。計算するだけじゃなくて、やり方を教えてもらうだけでもなくて、ゲームをしたり、自分たちでゲームのルールを考えたりして、覚えるための工夫があります。分数の大きさを比べるときも、みんなでカードゲームをしながら楽しく覚えました。難しい問題をじっくり考えるのも好きです。2023年には、算数オリンピック(注1)のキッズBEE大会に出場して、金賞を受賞しました。海外からの参加者も含めて、2000人が参加したと聞いています。将来の夢は2段階あって、まず高校生クイズで優勝して、数学者になることです」(3年生)

「算数の授業は、掛け算でも答えの出し方が1つだけじゃなくて、3つとか4つとかあるので楽しいです。図を使っていろいろなやり方を考えたとき、答えが一緒でも他の人と考え方が違っていたりしました。自分と違う考え方が出てくると、そんな考え方もあるんだとわかって面白いです。1年生の頃に、お風呂で掛け算をやっていたら、二の段と九の段は2×9=18と9×9=81みたいに答えの数字が逆になっていることに気づきました。それでいろいろ調べて、それをノートに書いて校長先生に渡しました。校長先生は、算数が専門のすごい先生だと聞いていたからです。そうしたら返事をくれたので、他にも自分が考えたことを書いて校長室に持っていくようになりました。今は、不可能立体(注2)をやっていて、ペンローズ四角形(注3)に見える立体の展開図などを自分で考えて校長先生に見せています。将来は、宇宙飛行士か科学者か数学者になりたいです」(3年生)

(注1)算数オリンピックは、国境・言語・人種の壁を超えて、算数という万国共通の種目で思考力と独創性を競い合う大会。年齢ごとに参加できる大会が異なり、キッズBEE大会は小1~小3が対象。
(注2)立体のように見えるが、実際に立体として作ることができないように感じる「不可能図形」と呼ばれる絵がある。その中には、実現できるものもあり、不可能図形を実現した立体のことを不可能立体という。
(注3)「ペンローズの四角形」は、四角柱がねじれたようにつながっている不可能図形。

取材協力

明星小学校

〒183-8531 東京都府中市栄町1-1   地図

TEL:042-368-5119

FAX:-

URL:https://www.meisei.ac.jp/es/

明星小学校