取材レポート

横須賀学院小学校

異文化理解にも重点を置いた横須賀学院小学校オリジナルの「オンライン英会話」

小中高12年間にわたって多彩なプログラムを実践している横須賀学院の外国語教育。小学1年生から毎日英語に触れる機会を設け、3年生になるとぬいぐるみ留学生を交換留学させるTravel Teddy Projectや、高学年では海外でのホームステイプログラムといった国際交流活動も始まります。外国語を使うことの楽しさを感じられるようなプログラムで、生涯にわたって学び続けたいと思えるような言語習得の土台づくりが行われています。
今回は2023年度から新たに取り組みを始めた「オンライン英会話」を取材させていただくとともに、授業を担当する英語科の阿部志乃先生と小出啓介校長先生にもお話を伺い、「オンライン英会話」を導入した背景やねらいについても教えていただきました。

横須賀学院小学校 英語科 阿部志乃先生のお話
5、6年生を対象に月1回の「オンライン英会話」を実施
1人1台のiPadを使ってフィリピンの先生とZoomで英会話
国や地域、文化についても触れられるオリジナルのレッスン内容
横須賀学院小学校の目指す異文化理解に重点を置いた「オンライン英会話」

横須賀学院小学校 校長 小出啓介先生のお話
面白がって英語を使う気持ちを手がかりに楽しく英語を学べる小学校の良さ
小学校の時に経験した楽しいという気持ちが伸びしろになる
英語科 阿部志乃先生

英語科 阿部志乃先生

校長 小出啓介先生

校長 小出啓介先生

横須賀学院小学校 英語科 阿部志乃先生のお話

5、6年生を対象に月1回の「オンライン英会話」を実施

阿部先生:

2023年4月から5、6年生を対象に月1回の「オンライン英会話」を実施しています。昨年の秋頃から試験的にいくつかのオンライン英会話を体験して、最終的にCurious World Academyにお願いすることにしました。Curious World Academyはフィリピンのセブ島に拠点のある会社で、オンライン英会話の他にも現地で語学学校を運営しています。

「オンライン英会話」を導入した背景としては大きく2つ。ひとつは中学校での勉強を見据えた準備段階として考えています。中学校に進学すると4技能をバランス良く伸ばすための取り組みのひとつとして英語の授業とは別に週1回のオンライン英会話があります。小学校ではどちらかと言うと聞く、読むことが中心なので、話すことも取り入れてみようと思いました。

もうひとつはコロナ禍の影響で対話を含んだ国際交流活動が難しくなってしまったことが挙げられます。外国の方と直接やりとりする機会が無くなってしまったので、ICTを活用して「オンライン英会話」を導入することにしました。

1人1台のiPadを使ってフィリピンの先生とZoomで英会話

今日ご覧いただいたのは5年生のクラスで、それぞれ自分のiPadを使ってフィリピンにいる先生とZoomで繋がります。フィリピンとの時差は1時間なので、現地は朝の8時頃でしたね。

今回のレッスン内容はお店で注文する方法と現地の通貨について。フィリピンで最も人気のあるお店として知られるジョリビー(Jollibee)を題材にしてもらって、実際のメニューを見ながら自分の好きなものを注文する練習をしました。

「I’d like to have a Cheesy Yumburger and drink. How much is it ?」

4月は先生方の自己紹介と挨拶から始まって、フィリピンの国とタガログ語の挨拶について、2回目は月と曜日を復習しながら誕生日をテーマにした内容で、フィリピンではどのように誕生日をお祝いするのか、誕生日にはどんな食事やケーキを食べるのか英語で紹介してもらいました。

そして3回目はフィリピンの学校について取り上げました。実際の時間割を見せてもらいながら1日のスケジュールや教科について英語でやりとりしました。フィリピンの学校にはスナックタイムという時間があって、どんなおやつを食べているのか、フィリピンのお菓子も実際に見せてもらいました。1日に2回もスナックタイムがあるそうで、「7時間目まであるのは大変だけど、スナックタイムが2回あるのは魅力的だよね」などと、自分たちの生活と比較しながら興味をもって話を聞いていました。

国や地域、文化についても触れられるオリジナルのレッスン内容

「オンライン英会話」を導入するにあたって最も大切にしたのは、先生方が住んでいる国や地域、文化について積極的に題材として取り上げていただき、「フィリピンの先生だからできる(フィリピンの先生しかできない)レッスン」をしていただくようお願いしたことです。「オンライン英会話」をいくつか体験してみて、先生方の国籍や住んでいる国や地域によって授業料が異なることに気がつきました。それが子どもたちの「アジア観(アジアの人を見る目)」「欧米観(欧米の人を見る目)」につながり、偏見や先入観を生むことになるのかもしれません。それは絶対に避けたいと思いました。

子どもにとっては、どこの国の人であっても「外国にいる先生」です。子どもは言語よりも、講師自身やその国の生活や文化に興味を持ちます。子どもはレッスンを通じてそれらを感じ、初めて外国語に興味を持つ。興味を持つから語学を学習したくなるわけで、それが生涯続く外国語学習につながると考えています。

むしろ、せっかくフィリピンの先生に習うのですからフィリピンの国や文化を存分に紹介してもらい、画面越しではありますが実際に体験して、フィリピンに行って先生たちと直接会って話したいという気持ちになるのが理想です。相手の国や文化に興味を持つと言葉をもっと正確に聞きたいとか伝えたいといった語学態度スキル向上への意識にもつながると考えました。

横須賀学院小学校の目指す異文化理解に重点を置いた「オンライン英会話」

もうひとつフィリピンの先生の良いところは第2外国語の経験者だという点です。フィリピンでは公用語のタガログ語と英語以外にも地域ごとに異なる言語が使われているため、多言語習得の経験者です。英語を外国語として学んだ経験があると、「ここがわかりにくいかな?」とか「ここでつまずいているのかな?」と学習者の視点に立って指導がしやすくなると思います。

さらにCurious World Academyの先生方は、回を重ねるごとに内容やレベルを子どもたちに合わせてくれています。この子はリピートしていれば分かるとか、この子はゆっくり喋ってあげた方が良いなとか、子どもたちの様子を見ながらアレンジしているのを感じます。おそらくチームを組んで情報を共有しながらレッスンをしてくださっているのだろうと思います。スタッフの方や先生方の努力も感じ、安心感があります。

また、レッスン内容をこちらの希望に合わせてアレンジしてくださるのもありがたいです。今日のレッスンはもともとレストランで注文するという教科書によくある内容でしたが、「フィリピンってジョリビーありましたよね?」と雑談的にお話したのがきっかけで、ジョリビーの実際のメニューを使うことになりました。現地のメニューを見て、子どもたちは日本のファーストフード店との内容や値段の違いに気がつき、「実際に行って食べてみたい!」と口々に言っていました。またお金も現地の通貨ペソでとお願いしたら、旧紙幣と新紙幣をそれぞれ教材として準備して実物を見せてくれました。

あと本校はキリスト教の学校なので、クリスマスやイースターと行ったキリスト教の行事についてもフィリピンの先生方に伝えていただきたい事がたくさんあります。今後は教会の紹介やクリスマスに向けてのお話なども盛り込んでいただけたらなと思っています。どんなレッスンになるか楽しみです。

このように本校の「オンライン英会話」は異文化理解にも重点を置いているのが特徴です。相手が話す言語や文化に興味を示し学ぼうとする態度は、相手に対する最高のリスペクトだと考えています。フィリピンの先生とのやりとりをきっかけに、将来、外国に行ってみたいという気持ちが芽生えたり、英語に限らず別の言語を学んだりするきっかけにつながるといいなと思っています。

横須賀学院小学校 校長 小出啓介先生のお話

面白がって英語を使う気持ちを手がかりに楽しく英語を学べる小学校の良さ

続いて横須賀学院小学校が実践する外国語教育について小出校長先生にお話を伺いました。

小出校長先生:

本校の英語科はいつも“マスターキー”という言葉を使っています。そこで、いろんな国のいろんな人たちとコミュニケーションをとるときのベースになるのが英語だと考え、小学校の段階からいろいろなプログラムに取り組んでいます。

子どもたちたちが将来、どんな国でどんな言語を使って生活するかは分からないんですけど、小学校の時にああやって英語を身につけたなという記憶があれば、韓国語、中国語、ドイツ語、イタリア語…どんな言語であっても身につけられるようになると思うんです。また英語である程度コミュニケーションがとれれば、外国でのチャレンジもハードルが下がると思いますし、小学校の段階から英語に触れる機会をたっぷりとって、ベースになる言語習得の仕方を身につけておくことが大切だと考えています。

しかも勉強というかたちではなくて、あくまでコミュニケーションツールとして触れることができれば良いなと思っています。おそらくそれができるのが小学校の良さかなと。中学、高校になるとどうしても試験のために勉強するという側面が強くなってしまうので、その前に面白がって英語を使う、その気持ちを手がかりに学んでいくことができれば、楽しく英語を身につけられるかなと思います。

小学校の時に経験した楽しいという気持ちが伸びしろになる

以前、中学校の学年主任をやっていた時のことをあらためて思い起こすと、小学校から上がって来た子どもたちは伸びしろがすごくあったように感じます。中学入試と付属の小学校からの進学にはそれぞれメリットとデメリットがあって、中入生は入試に向けて本気で努力してきた経験とその蓄積がメリットになり、小学校で自分の興味や関心をもとに楽しみながら学んできた子たちには、その後も自分で「学び」を進めていくことができるメリットがあると感じました。

例えば、小学校のときにホームステイプログラムに参加した子は、英語に対するモチベーションも高く、中学、高校になってもいろんなプログラムに積極的に参加してどんどん英会話が上達するとか、そういった伸びしろがすごくあるなと感じました。中学生、高校生になってから初めてホームステイプログラムに参加するよう勧めても、「他人の家はちょっと…」と抵抗感が出てしまうんですよね。

それが小学生の時に「面白かった」とか「ホストファミリーにお世話になった」って良い経験をしていると、中学、高校とその先につながっていくはずです。これは中学校のホームステイを引率した時の話ですが、ある生徒からこんな話を聞きました。「ホームステイはものすごく楽しくて、ホストファミリーにもすごくお世話になったのにサンキューとしか言えない自分が情けない」って。「だから英語を勉強してまた来たい」と。

こういった経験を小学生のうちにたくさんしてもらいたいと思います。2023年夏、いよいよニュージーランドへのホームステイプログラム実施に向けて動き始めています。12月には台湾でのホームステイも動いているところで、いろんな経験をして「楽しかった」って帰って来てくれると良いなと思っています。

編集後記

子どもたちの楽しい、面白いという気持ちを第一に考えている先生方の眼差しに感銘を受けました。「オンライン英会話」も2人1組でレッスンを受けられるような工夫もあり、友だち同士で相談しながら先生の質問に答えたり、英語の得意な子はもう1人の子をサポートしながらレッスンを受けたり、英会話だけではない多くの学びがある取り組みだと感じました。

取材協力

横須賀学院小学校

〒238-8511 神奈川県横須賀市稲岡町82   地図

TEL:046-825-1920

FAX:046-825-1925

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