東京女学館小学校
女学館流ICTの活用で「学校でなければできない学び」を実現
東京女学館小学校では、2020年度から全学年で全員にiPadを導入し、プログラミングをはじめとする様々な授業で活用しています。学習ソフト任せにしない女学館流のICTを活用した授業について、田中均校長先生にお話を聞きました。
東京女学館小学校 校長 田中均先生のお話

東京女学館小学校 校長 田中均先生のお話
3台のカメラで運動会をライブ配信
本校では、昨年度の臨時休校をきっかけに、本格的にICTの活用を始めました。オンライン授業を行う際に大切にしていたことは、「手作り感を守り抜く」ことです。通信講座用のアプリなどを使わずに、すべて教員が自分たちで授業を行いました。2020年度の2学期からは、全学年で全員にiPadを導入し、様々な教科で新たな授業展開が実現しています。休校をきっかけに、若い教員が大きく成長し、ICTの活用を牽引する存在となりました。そして40代、50代の教員たちも若手に刺激を受け、教員全体のICT活用スキルも上がっています。
5月に開催した運動会は緊急事態宣言下での実施となったので、保護者の皆さんに来ていただけなかったことが残念です。せめてZoomで見ていただけるように、3台のWebカメラを使って3か所から撮影しました。6年生にとっては最後の運動会なので、保護者の皆さんもぜひ見たいという思いが強かったと思います。そこで、もう1台別のカメラを用意して、朝から6年生に密着し、係活動から競技まで、すべてを追いかけました。このような場面でも、若手の教員が力を発揮しています。教員たちのアイデアとスキルによって、定点カメラでは伝わらない子どもたちの表情を伝えることができました。人手の必要な撮影です。教員ばかりではなく、用務職員の方や給食調理のスタッフの皆さんが、児童の誘導や競技のサポートなど、快くさまざまな分担に取り組んでくれました。「やるときめたことはやりきる」、それも東京女学館小学校に流れる気風です。だからこそ、緊急の時にも柔軟な対応ができる、それが本校のすばらしさです。


学校でしかできないプログラミングの授業
昨年の9月に1人1台iPadを導入し、プログラミングの授業も始めました。今は私学であればタブレット端末を持つのは当たり前の時代です。それをどう使っているか、に学校の教育に対する考え方が表れます。タブレット端末任せ、学習ソフト任せの授業では、学校で行う意味がありません。人を介して、人とともに学ぶ、そのプロセスこそ大切にしたいと思います。
プログラミングの授業は「つばさ」で行っていますが、各教科でも様々な形で取り入れています。たとえば、理科の授業では、mBot(エムボット)*を使ったプログラミングの授業を取り入れました。児童は2人組みになり、1人はプログラミングの担当、もう1人はロイロノートで先生からの課題を受け取ったり、ほかの児童の情報を得る担当です。課題を受け取り、それをクリアするためのプログラムを組んでみて、できなかったらロイロノートでほかの児童から情報を得て、再びチャレンジする、というサイクルをペアで行います。1人でプログラミングをするだけなら、プログラミング教室でもできます。そうではなく、ペアでトライアンドエラーを重ねていくことに意味があるのです。クリアできたペアはロイロノートで発信して、まだできていない子に教えることもできます。これは、学校に来ないとできない授業です。「学校はまちがえるところ、まちがえたら直すところ」は本校の大切なポリシーです。何度でもトライアンドエラーを繰り返す、それが一つの授業の間に何回でも行うことができるのがプログラミングの優れた点です。まさしく本校が大切にしてきたものが今ここでさらに飛躍するチャンスとなっています。やった結果がすぐに出て、すぐに修正して試せるので、子どもたちは夢中で取り組んでいます。
*mBot(エムボット)は、アメリカのマサチューセッツ工科大学が開発した、スクラッチに基づいて作られたプログラムです。

様々な教科の中でのプログラミング
子どもたちにとって、プログラミングほど手応えのあるものはなかなかないと思います。クラブ活動にも、プログラミングクラブを加えました。算数の授業では、図形を描くときにプログラミングを使っています。例えば、正六角形を定規で描こうとするとずれることがありますが、プログラミングでやると正確に描けます。しかし、指示を間違えると、正しい形になりません。描けない子は角度が間違っていることが多いので、教員は正しい角度について体の動きを使って説明しています。学習ソフトに任せてやるのではなく、ソフトに教員が関わる中で理解を深めていることが重要です。プログラミングを取り入れた授業の導入にあたり、情報教育を学んでいる大学院生にも非常勤で来てもらっています。まずは教員が自分たちで咀嚼して吸収した上で体現し、子どもたちの理解を深めるツールとして使っているので、そのような授業ができるのです。
教員研修で、ロイロノートを使った授業について事例紹介を行ったところ、座学はもちろん、音楽や体育など、多くの教科で使いこなし始めていることがわかりました。どの授業も、子どもたちが楽しく学べる内容です。ロイロノートは、教員が子どものノートを見るためだけのソフトではありません。子どもたち自身が情報を発信して、ほかの子どもたちから情報が返ってくることで、知を更新させることができるツールです。この1年で、新しい力強いツールを手に入れることができました。このツールを使いこなし、これからの世の中で必要になる学びを展開させていきます。

行事の様子は動画で限定公開
コロナ禍では、感染対策として密を避けるために、授業参観ができなくなりました。授業参観をやらずに、子どもたちの様子を伝えるにはどうすればよいか考え、昨年10月から、子どもたちの様子を撮影した動画を保護者向けに限定公開しています。ドッジボール大会や落ち葉拾いなど、子どもたちは本当にいい表情をしています。
コロナ禍では様々な制限があり、通常通りにはできない行事もあります。しかし、どんな状況でも、目の前の時間、目の前の日々を一生懸命に生きることで、意味のある時間になっていくのです。1日は24時間しかありませんが、一生懸命に取り組んで30時間分生きることはできます。そしてそれが、未来を切り拓く力になっていくのです。6年生は、下級生の世話や宿題、習い事、行事の係などがあり、ものすごく忙しいでしょう。そのような、1日を30時間分生きるぐらい忙しくてたまらない経験が、将来を生きていく力になると確信しています。


女子のための学校としてのミッション
これからの時代を生きていくためには、やわらかな頭と開かれた心を持ち、精神的に開放されていることが必要です。卒業生の生き方を見ていると、しがらみに捕らわれず、言うべきことは言い、柔軟に生きている人が多いと感じます。自分の人生をチェンジするモードをうまく切り替えて、カラフルに生きています。男性がそのようであってもいいと思いますし、これからはそのようになってくるでしょう。これからは、女性が一歩先を行く社会になると思います。
「本物」とは何かを考えるためには、シンプルに考えることが大切です。本校は女子のための学校であり、女子の学校に必要なことは「女性の幸せ」を考えることだと思います。「女性の幸せ」を考えることと、これから「生きていくための力」を身につける場であることが、本校のミッションです。

