取材レポート

洗足学園小学校

変化の時代に必要な力を育む専科の学び − 3年生社会科の「理想の商店街」

それぞれの教科を専門の教員が教える専科制を導入している洗足学園小学校では、 子どもたち一人ひとりの興味・関心を引き出し、知的好奇心を高める授業を大切にしています。教科の本質に触れる学びを通して、「なぜだろう」「もっと知りたい」という問いが生まれ、その問いをもとに自ら調べ、考え、仲間と協働しながら学びを深めていく――そんな探究的な学びが日々の授業の中で展開されています。 専門性の高い教員による教科の本質的な面白さとは。今回は3年生の社会科に注目し、「理想の商店街」というテーマで取り組んできた授業の発表を見学させていただくとともに、学習のねらいについて松島隆先生にお話を伺いました。

洗足学園小学校 松島 隆先生のお話
松島 隆先生

松島 隆先生

洗足学園小学校 松島 隆先生のお話

「体験」→「問い」→「探究」→「表現」 というプロセスを大切にした社会科の学習

3年生の社会科では、週4時間の授業時間を活かして「地理」と「くらし」の2つの視点から社会について学びます。本校ではそれぞれ「マップ社会」「ライフ社会」と呼んでいて、「ライフ社会」では、商業や農業など人々の身近な生活や社会のしくみについてじっくりと学びます。一方、「マップ社会」では、都道府県や地域の特色など、社会を理解するための基礎となる知識を身につけます。身近な暮らしへの理解と社会を見るための基礎的な視点の両方を育むことで、4年生以降の社会科の学習へとつなげていきます。

本日の授業「理想の商店街」は地域の人々の生活に関する「ライフ社会」の学習です。身近な地域の商店街を調べ、そこで働く人々の工夫や地域との関わりなど、学んできたことをもとに、「こんなお店があったら便利」「高齢の人も歩きやすい商店街」など、子どもたちは地域の課題を捉え、自分たちなりのよりよい社会を構想します。ここに「新しい価値の創造」という視点が入ります。チームごとにスライドにまとめたものを発表します。

身近な商店街を訪れる体験から問いが生まれ、その問いを調べ、仲間との対話を通して考えを深め、理想の商店街として表現する。こうした『体験→問い→探究→表現』のプロセスを大切にした社会科の学習です。 商店街について調べたことをまとめるだけの単なるまとめ学習ではなく、地域の課題や可能性について考え、地域の人々にとってよりよい商店街ってなんだろうと地域の課題解決を考える入口にもなる学習です。

「スーパーマーケット」との比較を通して学びを深める

「理想の商店街」について学習する前に、子どもたちは「スーパーマーケット」について学びます。「スーパーマーケット」も「商店街」もどちらも地域の人々の生活にとって大切ですが、比較をすることで「理想の商店街」についてより深く考えられるようになります。

例えば、商店街には八百屋、パン屋、薬局、文房具店、飲食店、美容室など様々なお店があり、子どもたちは商店街で働く人々を通して多様な仕事があることに気がつきます。また夏祭りやハロウィンイベント、地域清掃や防犯活動など商店街は地域コミュニティの一部であり地域の人々の生活とのつながりが見えやすい点があります。これは一企業が運営する「スーパーマーケット」だけでは見えにくい学びです。人々の暮らしと地域社会がどのような仕事によって支えられているのかを学ぶための教材としては商店街が最も適していると思います。

さらに学びを深めることによってそれまで〈買う人〉の立場からしか見ていなかった視点が、〈売る人〉の視点にも立つことができるようになり、〈売る人〉と〈買う人〉それぞれの立場から考えることができるようになります。すると「地域にどんなお店が必要か」「誰のための場所か」「どんなイベントをするか」「どんなまちにしたいか」…など発想も広がり、どんなまちが住みやすいかといったよりよい社会を構想する社会科らしい学習だと言えます。

約1ヶ月間をかけて取り組む「商店街しらべ」

本校でも15〜16年前までは地域の商店街に子どもたちを連れて見学に行っていましたが、ご存知のように年々お店が減ってしまいいわゆるシャッター商店街のような状況になってしまったため内容を切り替えた経緯があります。

現在は宿題という位置づけで保護者にご協力いただきながらご家庭ごとに身近な商店街を調べてもらうようにしています。そうすることによって通学エリアが様々な本校ならではの学びが生まれ、子どもたちは地域によって必要なお店が違うことに気づき比較ができるようになります。ここは公立小学校の商店街しらべと大きく異なる点でしょうか。

課題提出まで約1ヶ月間あるため複数の商店街を見てまわる子もいれば、どんなお店があるか写真を撮りながら詳しくまとめる子もいますし、なかにはお店の方にインタビューしてきたことをもとにチームの発表に生かす子もいます。

「思考力」「コミュニケーション力」「チームワーク力」「創造力」を育む授業

「理想の商店街」の発表をするにあたり4〜5人で1つのチームをつくります。それぞれ商店街を調べて得た知識や問いをもとに商店街のテーマや魅力についてアイデアを出し合います。また自分たちのチームが目指す理想像を共有しながら方向性を決め、分担してスライド制作などの作業を進めます。

さらにチームでまとめた内容をいかにわかりやすく魅力的に伝えるかを役割分担しつつ発表に向けて練習します。本日の授業ではチームで協働・制作したスライドをもとに発表を行います。また同時に他のチームの発表を聞いたらコメント表(評価シート)に感想と得点を記入してもらいます。

この評価活動によって「どんな工夫があったか」「なぜよいと思ったか」「自分たちとの違いは何か」など整理することができます。つまり聞いた内容を分析する活動となります。評価シートを書くことによって、受け身の聞き方ではなく目的をもって聞く姿勢も生まれます。これがとても重要です。

さらに評価シートを書くだけでは個人の中だけで学びが完結してしまうため、みんなで共有することによって「みんなはそこに注目したんだ」「そんな見方もあるのか」と気づくことができるようになります。発表したチームも「自分たちでは気づかなかった良さがあった」「もっと改善できるところがあった」と振り返ることもできます。つまり評価が学びになるのです

このように子どもたちがみずから問いを立て、思考・創造する力(思考力・創造力)を育むことや多様な価値観を持つ仲間と協働しながら課題に向き合う力(チームワーク力)、自分の考えを論理的に整理し、相手にとって分かりやすい言葉で伝える力(コミュニケーション力)を育むことを意識しながら授業を行なっています。

文具のひとつとしてiPadを使いこなすICTスキルの高さ

いよいよ「理想の商店街」についての発表が始まります。「いつものように4人あるいは5人で机を組んでください」「机の上には何も無いようにして、使うのはiPadだけにしてください」と松島先生から指示があると同時に発表に向けてチームごとに最終調整が始まりました。

いち早くiPadの導入を進めてきた同校ではiPadを文具のひとつと位置づけ日常的に使用しているため、共有するスライドを担当ごとに共同編集するのはもちろん、よりわかりやすくなるようApple Pencilで手書きのイラストを追加、ほかにも必要なイラストをAIで生成してスライドに追加するなど限られた時間内で作業を行うICTスキルの高さが伺える瞬間です。教室前方の大きなホワイトボードに2台のプロジェクタ―を使用してiPadの画面をミラーリング、チーム全員で教室の前に立って班ごとに発表を行います。

「理想の商店街」の発表をレポート

1班のテーマは「幸福商店街」で、お客さんがしあわせになって欲しいという思いから名づけたそうです。中央にひろばを配置した商店街のイメージで、四季によってイベントを行うほか、フードロスが少なく、またSDGsや環境にやさしい点にも配慮した「理想の商店街」を思い描きました。

続く2班のテーマは「みんな商店街」です。子どもから高齢者まで楽しめるような商店街についてアピールポイントがわかりやすくまとめられていました。10〜19時まで歩行者天国で安心して過ごせることや、お年寄りにも使いやすいエレベーター、子ども用のキッズスペースなど、年齢を問わず楽しく過ごせる商店街の魅力について発表を行いました。

松島先生によると今回の発表ではAIを活用したスライドや高齢者にとって利用しやすい商店街について言及したチームが複数あったそうです。

3班の「未来活躍商店街」にはお手伝いをしてくれるAIロボットがいるというアイデアが盛り込まれていました。また2班と同じく高齢者にやさしいことや子どもから大人までどんな年齢の人でも楽しめることに触れていました。松島先生からは「まとめがうまいですね」とコメントがあり、発表を聞いている子どもたちからも同じような感想の声が上がっていました。

4班の「たおすか未来商店街」は、他の班とは異なるアプローチのネーミングで「たのしい」「おもしろい」「すばらしい」「かっこいい」の頭文字をとって「たすおか」と名づけたそうです。お店によって大人用、子供用とエリアを分けることや、お茶屋さんの茶道体験や食堂のお料理体験など、職業体験施設のような要素が盛り込まれているユニークな発表でした。

続く5班も生き物とのふれあいをテーマにした「ふれあい商店街」というユニークなアイデアです。看板犬のお出迎えやマスコットキャラクターと記念写真が撮れることなど、テーマが明確でわかりやすい発表内容になっていました。授業を通して商店街で働く人が少なくなっていることを知り、生き物と触れ合うことで人を呼ぶというアイデアを見出したようです。

6班は「安くて高級商店街」という相反する言葉を使った興味を引くネーミングです。高級ホテルやレストランがあるほか、日本文化に触れられるステージや外国人観光客向けにお花見ができることなど、昨今のまちづくりにおいて語られる多様な視点が盛り込まれていました。3班と同じくAIロボットによる案内がアピールポイントのひとつにあったのも時代を感じる内容です。

続く7班は「虹色郡山明元(にじいろこおりやまあかげん)商店街」という具体的な地名を入れた「理想の商店街」です。虹色のように明るく元気な商店街をイメージしたようで、AIで生成した商店街のイメージ画像ともぴったり重なります。商店街マップには赤べこのお店もあり福島にこだわった発表となりました。

最後に8班が「理想の商店街」として発表したのは「子供商店街」です。子どもが楽しく遊べるような商店街にはかならず大人も一緒に訪れると考えたようです。商店街のなかに遊園地があったり子どもが好きなクレープやからあげのお店があったりと、子ども目線のお店がたくさん並んでいます。なかでも興味深かったのは、お店の人がやさしいという点に言及したことです。「スーパーマーケット」との比較から生まれた発想のようで、お店の方との会話を商店街の魅力として感じたことが伺えます。

社会科は普段の生活そのものとリンクした学問

社会科の専科教員として授業を日々研究する松島先生に社会科の楽しさまた魅力についてお話いただきました。

「社会科は普段の生活そのものとリンクしているので、学んだことがそのまま実生活に反映されやすいリアルな学問だと思います。テレビのニュースで見たことや、普段の暮らしや買い物をしているなかでも結びつくことがあるのは面白いですね。発表のスライドをご覧いただいてもお分かりになると思いますが、視点が現代っぽいと言いますか、教えている私自身も子どもたちと一緒に学んでいるなかで発展させてもらっています。

過去の発表でも高齢者を意識して「商店街の道がすべてベルトコンベアになっている」とか「ベンチに座るとそのまま動いてくれる」といったアイデアがありました。高齢社会については本格的に学んでいない学年ですが、今の日本が直面する課題をリアルに感じている子どもたちがいるんだなと気づかされます。

またAIやロボットによる案内など非現実的に思えることも10年先、20年先にどうなっているかわからないこの世の中ですから、みずから学んだことや経験したことと照らし合わせながら発想したことを大切にして欲しいと思います。地域の課題を見つけ、よりよい社会を考え、多様な人と協働しながら形にしていく経験は、本校が掲げる「社会におけるリーダーの礎を築く」教育にもつながっています。社会科は知識を学ぶ教科ではなく、未来の社会をよりよくするために考え、行動する力を育む教科でもあるのです。

取材協力

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