取材レポート

洗足学園小学校

授業も大きく変化! iPad導入後3年で見えてきた成果

洗足学園小学校では、2018年度の3年生からiPadを1人に1台導入しました。翌2019年にはAppleの先進的教育機関「Apple Distinguished School(ADS)」に認定され、様々な形でiPadを活用しています。今年6月には、Apple認定校の教育関係者向けイベント「Open Day」をオンラインで開催。6年生が企画、準備、司会進行のすべてを自分たちで行い、iPadとともに学んできた3年間を振り返りました。「Open Day」を通して見えてきたiPad活用による子どもたちの変化や成果などについて、6年生担任の宮田好展先生(社会科・ICT担当)と野口紗百合先生(国語科・英語科)にお話を聞きました。

6年生がiPad活用について語った「Open Day」

洗足学園小学校 宮田好展先生と野口紗百合先生のお話

6年生がiPad活用について語った「Open Day」

6月にオンラインで開催された「Open Day」には、全国から80名以上の教育関係者が参加しました。これまで、同校の教員が外部に向けて発信する機会はありましたが、子どもたちが主体となり、学びの成果を外部に発信するのは初めての試みです。教員が話すより、子どもたちがカメラの前で話した方が、どのように成長しているかわかりやすいと考えて、今回は子ども目線での「Open Day」が開催されました。

テーマ設定からプレゼン資料の作成まで、6年生が自分たちでつくり上げ、6チームに分けて発表。iPadを導入した頃からの成長を作品によって比べる「3年間の成長チーム」、iPadを使っている児童が本音を語る「こんなこと思っていますチーム」、iPadを使っている児童がほしい機能を紹介する「提案チーム」など、子どもの目線でiPadの魅力や活用方法が語られました。

今回、中心になったプロジェクトメンバーには23人が立候補しましたが、6年生全員が何かの形で参加しています。当日の進行や、カメラの前に出てプレゼンをするだけでなく、スライドを作成したり、プレゼンをする子の代わりにスライドをめくるなど、役割分担も子どもたちが行いました。

「Open Day」から見えてきた子どもたちの成長

「各チーム、最低1人か2人は前に立って話してほしいと思っていたのですが、ほぼ全員が話したいと言って、積極的に取り組んでくれました。参加した教育関係者にアンケートをとったところ、『子どもたち目線の発表は聞いたことがなかったので勉強になった』などの感想をいただき、子どもたちにとっても大きな自信になったと思います。子どもたち自身の満足度も高く、学期の振り返りでもこのイベントを一番の思い出と書いた子どもが多かったです。今後、またこのような機会があったら、プレゼンをしたいと言っています。6年生はプレゼンが好きな子が比較的多く、日本全国からいろいろな人に見てもらい、評価してもらえたことが嬉しかったようです」(野口先生)

「6年生の85%が、『もしこのような機会があったら、またやりたい』と答えていました。プレゼンが好きかというアンケートには、『好きではない』と答えた子も何人かはいます。それでも、6年生の段階でこれだけプレゼンが好きな児童が多いのは、3年生からプレゼンを積み重ねてきた成果だと思います。iPadを活用する前は、学年が上がるにつれて、発表する機会が少なくなっていました。今は、講義形式の授業よりも、答えのない課題に取り組む時間が多いです。例えば社会科では、環境問題とSDGsを絡めて、どう解決するか考えて動画を作らせています。子どもたちは45分間もくもくと取り組んでいて、教員はサポートする程度です」(宮田先生)

iPadの活用により育まれた力

「iPadを活用する以前の授業では、全員の意見を吸い上げるには限界がありました。挙手をして意見を言うとなると、挙手する人も限られますし、紹介できる意見も限られます。一方、iPadを使えば、意見を入力して提出するだけで瞬時に共有できるのです。積極的に挙手をしない子に関しても、こんな意見を持っているのかという発見があります。以前は、挙手することが、大きな壁になっていた子もいました。iPadだと挙手をしなくても意見を発信できるので、以前なら気づかなかった仲間の良いところなども、子ども同士でどんどん気づけるようになっています」(野口先生)

「名前が表示されないで共有できるアプリもあるので、道徳など、匿名で意見を共有したいときには、そのようなアプリも活用します。子どもたちに、iPadを活用していく中でどんな力が身についたと思うかというアンケートをとったら、チームワーク力やコミュニケーション能力などを挙げる子が多かったです。個人で使う授業もありますが、グループワークも多いので、子どもたちなりにそういった力がついていると感じているのでしょう。課題を投げかければ、男女関係なく、自然にみんなでやろうとします。それはグループワークを積み重ねてきた結果だと思いますし、資料作りや発表などを通して創造力や表現力もついてきました」(宮田先生)

iPadを活用した子ども同士の教え合い

「いろいろな教科で、子ども同士の教え合いが見られています。例えば、文学史の授業でクイズを作ったときは、そのクイズを使って交互に先生役をしたり、英語の授業でも問題ができた子は先に提出して、先生役として教室を歩き回ってまだできていない子に教えたりしていました。紙に書いていたときより倍ぐらい速く問題を解き終わるので、他の子に教える時間の余裕ができたのだと思います」(野口先生)

「算数の授業では、教員が難しい問題の解説動画を作っていたのですが、やっていくうちに、子どもが解説した方がわかりやすいのではないかと思うようになりました。授業の前半は子どもたちが自由に話し合って解き方を考えて、後半にその結果を発表するという形で授業を進めることもあります。できる子は人に教えることで理解が深まり、理解できていない子は自分のペースに合わせて教えてもらえるので、双方にとってプラスになります。このような授業は、iPadを使う以前はありませんでした」(宮田先生)

教員たちのスキルアップと授業の変化

「iPadを導入した当初は、40台ぐらいの貸し出しからスタートしました。最初のうちは予約も取りやすかったのですが、半年ぐらいたったらなかなか予約が取れなくなったのです。授業でiPadを使いたい教員が増えるにつれて、『10台だけでも貸してほしい』などと交渉し合うようになりました。教員たちの『使いたい』という気持ちが、予約状況に顕著に表れて、あっという間に浸透していったことが印象に残っています」(野口先生)

「教員たちの研修は、放課後20分くらいで気軽に参加できるものをこまめに行っています。研修で得たことが記憶の片隅に残っている程度であっても、取り入れたいと思ったときに詳しい教員に聞けば親切に教えてくれます。それを聞いていた他の教員も、自分も取り入れようと思うなど、実践に移しやすい環境です。教員は授業の準備に時間をかけるようになりましたが、授業内で教員が説明する時間は減り、子どもたちが主体的に活動する時間が増えました。iPadで作業している間は、技術的な質問があれば対応します。それ以外は、子どもたちのモチベーションなどを評価する時間ができました。Apple Classroomというアプリを使えば、子どもたちの作業が教員のタブレット上で一覧表示されます。バッテリーが足りなくなってきた子や作業が止まっている子もわかるので、自分の目と画面の両方で確認することができるようになりました」(宮田先生)

中学受験やその先を見据えた活用

「最近の受験問題は、自分の考えを書くものも増えています。iPadを活用するようになって、自分の意見を発信する力がついてきているので、中学受験にも活かされると思います。一方で、中学受験対策として必要と考えた、紙と鉛筆で問題を解く時間はそのまま残しました。6年生は、演習国語の授業が週2時間ありますが、その時間は従来通り紙のテキストと鉛筆を使って取り組んでいます」(野口先生)

「本校は、『社会のリーダー』になるための礎を作ることが目標です。職場でもタブレットやパソコンを使いこなす時代なので、社会に出てからのことを考えて、iPadを活用しています。使うアプリなども、学年が上がるにつれて大人が使うものに近づけていきます。子どもたちはApple Pencilも上手に活用していますが、ローマ字を勉強するとキーボードを購入する子も増えました。大人顔負けに打ち込んでいる子もいますし、マルチタスク機能「Split View」で画面を2つにしてインターネットで調べながら原稿を作成する子もいます。ですから『Open Day』でも、『Split Viewで3つ以上のアプリを使いたい』などの意見も出ていました」(宮田先生)

来年度以降に向けた新たな取り組み

「教員同士では、先進的な教育を行っている学校と学び合いや研修を行っています。今後は子どもたちも、他校との学び合いのネットワークを広げていきたいです。また、iPadによって学び方が変わってきたので、評価の仕方も変えていく必要があります。学習の達成度を測る、ルーブリック評価の勉強会を夏休みに行いました。子どもたちの成果物をどう評価するか実験的に取り入れていますが、来年度中に形にしたいと考えています」(宮田先生)

「今の6年生が3年生のときにiPadを使い始めて、教員は自分が担当している学年の授業について活用方法を考えてきました。今後は、3年生から6年生まで系統立ててプレゼンの力をつけるなど、学年を超えたカリキュラムなども作っていきたいと思っています。iPadがあるからできることに、学年を超えた連携で取り組んでいきたいです」(野口先生)

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