取材レポート

さとえ学園小学校

CYODの導入によってICTの次なるステージへ。さとえがめざすICTとこれからの教育

「全学年1人1台iPad」の導入から4年、いち早くICTの取り組みを進めてきたさとえ学園小学校では、2021年度よりCYOD(Choose Your Own Device)を導入した新しい取り組みをスタートさせました。ICTを進めることによって子どもたちの学びはどのように変わるのか、CYOD導入のねらいとさとえがめざすICTとこれからの教育について校長の小野田正範先生とカリキュラムマネージャーの山中昭岳先生にお話を伺いました。

校長 小野田正範 先生

校長 小野田正範 先生

山中昭岳 先生

山中昭岳 先生

ICTの新しい取り組みとしてCYODをスタート

小野田校長:

本校では2016年度からICTの導入に向けた研究を進め本校の特色のひとつになっていますが、コロナの影響もあって積極的に活用した状況があるのでその強みを生かしていきたいと考えています。また学力を上げることも学校にとって大切な使命のひとつなので、そういった視点からICTに取り組んでいるのが現状です。

今年度の新しい取り組みとしてはCYODがあります。3年生以上は各ご家庭でiPadを用意していただいて、自分の持ち物として持ち帰りをするようになりました。2018年度に「全学年1人1台iPad」を導入してから4年目になり、新たな課題も見えて来たので今度は質的な向上を目指します。

山中先生:

3年間のBYODをめざした1人1台を経て、めざしていたBYOD(=Bring Your Own Device)を実施しようと思いましたが、デバイスの発展、授業実践の変革等、BYODになるためにまだ少し課題があるため、CYODという形でiPadと限定して保護者に準備していただく形をとりました。

ICTが授業や学習者への影響度を測る尺度としてRuben R. Puentedura(2010)のSAMRモデルがあります。このモデルに様々な人たちが事例等を埋め込んで説明をしているのですが、本校でも図のように表してみました。

簡単にご説明させていただくとICTが授業や学習者への影響度を測る尺度としてS(代替)、A(増強)、M(変容)、R(再定義)という4つの段階があって、今の日本の状況はSの代替レベルだと私は考えています。宿題やプリントなどこれまで紙だったものをデータにしたり、ドリルをデジタル化したりといった紙をデジタルに置き換えるレベル。また学校管理端末を使うことで学校や教師にとって子どもたちをコントロールしやすい道具にしているのが現状です。

私たちが目指しているのはR(再定義)のICTによって学びそのものが変わっていくというレベル。A(増強)からM(変容)になると学びの主体が学校や教師から子ども側になることも示されていますが、PBL(Project Based Learning)的にどんな状況においても課題を自ら設定することができ、ずっと学び続けて行けるような人に育てていくのが本校の構想であり今後の教育のあり方かなと思っています。

学びの再定義によって具体的にどういう状況になるのかについては私たちも見えていない部分はあるのですが、2年後のBYOD(=Bring Your Own Device)でその答えをみつけるためCYODをスタートさせたところです。

ICTの取り組みの実際が一冊の本にまとめられた「一人1台のルール」

小野田校長:

先の取材(※)でもお話した通り、子どもたちがiPadを使用するにあたってはスキルだけではなくモラルに関しても教えていく必要があります。本校ではレベルアップ型ルールを取り入れていますが、CYODによって保護者にもご協力をいただきながら、子どもたちが自らコントロールしてiPadを有効活用できるような仕組みづくりを進めています。

本校のレベルアップ型ルールについては新聞や各種メディアでも取り上げていただいて、問い合わせもかなりいただいておりますが、ICTの導入にあたってみなさん苦心しているのが管理の部分なんですね。

山中先生:

iPadは使い方によって子どもたちにとって最高の遊び道具になってしまいますし、2018年度のOECDの調査結果を見ても、日本の子どもたちにとってICTを活用している一番の目的はゲームとチャットなんですね。さらにもっとも活用できていないのが学習ということで、ICTイコール遊び道具という現状を変えていかない限り日本のICTは進化できないと思います。

小野田校長:

公立校の現状についても話を聞くことが多いのですが、デバイス自体を持ち帰らせるのに課題のある学校もありますし、なかなか進んでいないのが現状のようです。

山中先生:

公立校の現状を聞けば聞くほど何とかしたいと思いますし、もともと本校のICTは公立でも取り入れられるようなお金をかけない仕組みづくりを前提として研究を進めて来たもので、その取り組みが評価され「一人1台のルール」という一冊の本になって出版されたのは有り難いことです。

ICTを進めるにあたって私が注目しているのは現場の先生の対応力です。本の中でもアジャイル化という言葉が取り上げられていますが、完璧を求めるとなかなか前に進めないので、修正ありきでとりあえずやってみようという考え方が本校では浸透しています。

またより良いものを追求して行こうという考え方も共有しているので、新しいツールを導入してもさっと対応してくれます。若い先生も年配の先生も年齢に関係無く柔軟に対応いただける体制、そして何よりもICTの”光”の活用を実践していき、みんなで共有し広めていくことがICTを進めるうえでも重要だと感じています。

また管理職と現場の距離感についても現場に任せ、そして見守っていただける環境があるので、本校はいろんな意味で良い方向に進んでいるなと思っています。

※前回の取材レポートにリンクしています

ICTのノウハウをオープンソースとして一般公開。保護者向けの研修も。

山中先生:

2016年度に本校に着任してICT化に向けた取り組みを進めてきましたが、私がやったもっとも大きな仕事は校内でICTの推進チームを作ったことです。中心となる10名のメンバーがいてくれたからこそここまで来れた。一人ひとりがひとつの学校を動かせるくらいのノウハウを持つことができているので、公立校の先生たちが我々を利用してもらえればと願っています

ICTは本校の教育の特色であり強みの部分でもありますが、基本的な考え方としてはICTに関するノウハウはオープンソースにして一般公開することで、日本全体のICTのレベルアップに役立てたいという思いです。

小野田校長:

本校では定期的に保護者向けの研修も行なっていて、iPadの基本的な使い方から細かいところまで情報提供とともに保護者のレベルアップを図っているところです。保護者の方もみなさんが使い慣れているかというとそうではなくて、レベルの高い人もいれば、不安に思っておられる方も。

端末を持たせるのに不安な親御さんほど子どもたちの言いなりになってしまうところがあるので、子どもたちを教育するにはまずは大人が自信を持って使えるようになって欲しいというのがあります。

先日はSNSについての研修も取り入れましたが、CYODによって保護者にお任せするところも大きくなったので、子どもと一緒に大人も楽しみながらレベルアップをしてご家庭のICT教育力をアップさせようというのがねらいです。

山中先生:

ちなみに本校では保護者向けの「さとえChannel」「保護者ポータルサイト」という保護者に向けての動画や手紙などの情報の一括管理を試みています。「保護者ポータルサイト」の中には過去3年間の取り組みの中であった問い合わせを公開しFAQとしてまとめています。

また学習のためにどんなアプリを使っているのか学年ごとに一覧にしてまとめたページもあるので、基本的にはご家庭でスキルやモラルを管理していただけるようになっています。もちろん今回のCYODのことも載っていますし、スキルアップ型ルールの壁紙もここからダウンロードできるようになっています。

これまで「苦手なんです…」といった保護者の方ともやり取りしてきましたが、結果的にみなさんきちんと取り組んでくださっているので、自然と保護者の方のスキルも上がっているんじゃないかと思います。これがこれからの世の中で必須のスキルになるんだということを理解していただきながら、保護者の方も一緒になって取り組んでくださっていると思います。

さとえがめざすICTのこれからと学校教育のあり方

山中先生:

コロナ禍において、オンラインでの授業等を経験し、学校という場の存在価値を見出しました。

今はオンラインにおいて、時間、空間にとらわれず世界中の人たちとつながり、様々な学びを得ることができるようになっています。先程示したSAMRモデルのRに近づいていると感じています。

しかし同時に、だからこそリアルな場の重要性が明らかになってきています。 学びにはその原動力が必要であり、何もないところから生まれることは難しく、体全体、諸感覚を通した体験は、興味・関心、何よりも“はてな?”と感じる学びのタネをつくっていくことができます。オンラインでは当たり前ですが、これが難しいことがわかりました。諸感覚の大切さという点において、例として、オンライン飲み会が少し廃れてきたことがあります。それはオンラインとは視覚と聴覚でしかつながることができず、臭覚、触覚、味覚を共有することができないことによる物足りなさからだと思います。学びも同様で座って画面をみているだけの視覚、聴覚情報だけでは原動力は生まれてきません。 今回のコロナ禍は、オンラインの強み弱み、リアルの場の必要性を教えてくれるものとなりました。

そのため本校ではリアルでしかできない体験型の教育の充実を図り、また子どもたちがワクワクして集まって学べるラーニング・コモンズという場づくりに重きをおいています。ここでは、子どもたちが友だちと向き合いながら自由に自分たちの学びをデザインできるような環境を整えています。

学校は、人と人とが出会うことで学びが生み出される場としての価値をさらに見出し、ICTによってネットワークを駆使しながら時間や空間にとらわれずに学び続ける子どもたちを育成するために進化していかなくてはならないと思っています。

小野田校長:

小学校は学校教育の始まりの6年間なので、iPadを使って個別最適化された学習をするのも当然ですが、やはり友達と一緒に学ぶとか人との関わりを学ぶとか、トラブルを起こしながらもどうやって解決していくかという経験も必要なので、バランス良く育てていくのが大切かなと考えています。

去年はコロナ禍で見学のご希望などもなかなか受け入れられなかったのですが、来年度の入試に向けて徐々に説明会などの予定も組んでいます。また電話での問い合わせやZoomを使った個別の相談などは随時受け付けていますので、本校の取り組みに興味のある方はぜひお問い合わせください。

編集後記

ICTを進めるにあたって、学校・教員・保護者が連携して取り組むことの必要性がよく分かる取材でした。ICT化を推進する山中先生を中心に、全教員が一丸となって取り組んでいる学校の校風もよく伝わるお話でした。

取材協力

さとえ学園小学校

〒331-0802 埼玉県さいたま市北区本郷町1813   地図

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