取材レポート

日本女子大学附属豊明小学校

音楽を通して人間力を育む伝統行事「豊明 春の音楽会」

様々な音楽に触れ、楽器の演奏を通して学び合う姿勢や協調性を育んでいる日本女子大学附属豊明小学校。マリンバ、グロッケン、バスマスター、アコーディオン、ティンパニなど、所有している楽器数は私学の中でもトップクラスです。毎年1月に行われている「豊明 春の音楽会」では、1年生から6年生までが発達段階に応じた合唱や合唱奏、器楽合奏を披露しています。音楽会本番に向けた合同練習の様子を取材し、音楽科の國枝直子先生にお話を聞きました。

日本女子大学附属豊明小学校 音楽科 國枝直子先生のお話
1年間の集大成「豊明 春の音楽会」
一人ひとりに合わせた楽器選び 
音楽を通して生まれる「教え合い」
合奏の中で育まれる「協調性」
卒業して何年経っても記憶に残る体験
上級生を通して見えてくる「将来像」

6年生の児童3人にインタビュー
「豊明 春の音楽会」本番を迎えて(仮)
音楽科 國枝直子先生

音楽科 國枝直子先生

日本女子大学附属豊明小学校 音楽科 國枝直子先生のお話

1年間の集大成「豊明 春の音楽会」

音楽の授業は専任の専科教員2人で1~6年生までを3学年ずつ担当しています。1年間の集大成となるのが1月の音楽会です。高学年は、1学期から音楽会を意識しながら合唱の題材を扱うと同時に、器楽合奏の基礎を固めていきます。音楽会を見据えた練習を始めるのは、9月末の運動会が終わる頃です。1月に入ると本格的に音楽会の練習が始まり、心を合わせて1つの音楽を作り上げる作業に入ります。日を追うごとに音楽に色がついていく、とても充実した時間です。音楽会本番は、各学年の発表を鑑賞することで、子どもたちは数年後の自分の姿を思い描きます。そして、そこに近づく努力を積み重ねたり、過去の自分と重ねて自分の成長を実感したりすることで、感性や共感力などの人間力を育む機会にもなるのです。6年生は、全校合唱奏で1年生から5年生を引っ張っていく役割に責任感を持って取り組みます。それは、5年生までの間に6年生がそのようにしてきた姿を見てきた経験があるからです。これが、伝統を続けていくことの醍醐味であるとも考えています。発達段階に応じた楽曲・楽器を扱うことだけでなく、そういったことも意識して毎年開催しています。

一人ひとりに合わせた楽器選び

音楽会では、低学年は合唱、4年生からは合唱と器楽合奏を披露します。音楽がもともと得意な児童もいれば、そうではない児童もいるので、それぞれの力を見極めながら教員が一人ひとりに合った楽器を選び、様々なレベルの楽譜を準備します。コロナの影響で、音楽の授業でもタブレットを活用するようになり、楽器演奏の宿題は子どもたちが動画を撮影して提出できるようになりました。提出された動画で個々のレベルを確認したり、楽譜をどれくらい読めるかアンケートを取ったり、難易度の異なる楽譜を何種類か用意して演奏させるなどして、担当する楽器を決めています。

音楽が得意な子が必ずしもリズム感がいいわけではないので、打楽器の担当を決めるのはとても難しいです。叩くだけだから簡単と思われがちですが、叩くタイミングが重要なので、ある程度度胸もないとできません。ですから、技術だけではなく、度胸や人間性の見極めも必要になります。決めた楽器にうまくはまるときもありますが、もうひと頑張り必要なこともあります。そのようなときは、「成長のチャンス」であることを伝えて、「これを頑張れれば、いろんなことにチャレンジできる自分になれるんだよ」と励ましながら練習していきます。

音楽を通して生まれる「教え合い」

音楽会に向けて楽器の練習をしていると、子ども同士で教え合う姿がたくさん見られるようになります。例えば4年生では、教員に「わかりません」と言い出しにくい子もいます。そのような場合は、音楽に精通している児童を「ミニ先生」として何人か選ぶと、その子の周りに苦手な子たちが集まっていきます。「ミニ先生」は得意なことが活かせた喜びを感じ、二人三脚で上達していくのでお互い嬉しいようです。「この間はここまでしかできなかったのに、こんなにできるようになったよ!」と嬉しそうに報告に来てくれる子もいました。5・6年生は、「ヘルプしてほしい人」と「助けに行ける人」に手を挙げてもらって、「1人で出来るようになったら教えてね」と言っておきます。すると、自然に子ども同士で教え合い、私が教えなくてもだんだんできるようになっていくので、毎年その様子を見るのが嬉しいです。普段仲がいい子たちだけでなく、同じ楽器を演奏するからこそ関われる友達ができたりして、普段とは違うつながりが持てる場にもなっています。

楽器によっては、1人とか2人しかいないパートもあります。そのような場合は、教員が直接指導したり、最初は楽譜の音を削って、弾けるようになったら戻すなどして、少しずつステップアップしていきます。音楽会で演奏する曲は教員が選び、教員が編曲しています。38年間演奏を続けているベートーベンの「よろこびの歌」は、オーケストラの楽譜から小学生用に音を抜いて編曲したものです。私はマリンバ専攻だったので、どうやったら弾きやすいか、実際に自分で弾きながら編曲しています。難しいことをできる子用の楽譜も用意しますし、苦手な子には拒否反応が起きないように、音数が少なく、繰り返しが多い楽譜を用意するなど、レベルに合わせた工夫が必要です。それほど複雑な動きではないけれど、音が重なったときに複雑なことをやっているように聞こえる編曲のスキルなど、子どもたちが楽しく取り組めるように日々勉強しています。

合奏の中で育まれる「協調性」

子どもたちは合奏を通して、「人と合わせる」経験をします。自分がメロディを演奏しているときは主役になり、そうではないところは1歩引いてメロディを目立たせるという音楽の構造は、人間関係の構造と似ています。集団の中では、常に自分を前に出すのではなく、主張するところや協調するところのバランスを考えることが大切です。合奏する場面では、今はメロディなのかそうでないのか子どもたちに聞いて、目立った方がいいのか引いた方がいいのか考えさせます。すると、次第に自分たちで考えられるようになり、「先生、私たちは今の部分、もっと弱く弾いた方がいいですよね?」と気づく子もでてきます。子どもたちがどこまで意識しているかはわかりませんが、そのような習慣づけは音楽以外の場面にもつながっていくでしょう。音楽には、感情に訴えかけたり、みんなで1つのことをするという、ほかの教科にはないものがあるので、音楽でしかできない部分を大事にしたいと思っています。

卒業して何年経っても記憶に残る体験

子どもたちは担任の先生に週1回日記を提出していますが、そこに、音楽の授業について書いてくれることもあります。上手くできなくて苦戦していた子ができるようになった喜びを書いていたり、私の何気ない一言でやる気が出たと書いていた子がいました。そのような日記を見ると、専科の教員であっても思っている以上に子どもにとって影響力が大きいのだと感じます。逆に私の一言で傷ついてしまうこともあるかもしれないので、声のかけ方にも気を配らなければと改めて思いました。

人数の多い吹奏楽部に入るようなことがなければ、小学校を卒業してからこの人数で合奏する機会はないでしょう。この経験は音楽に限らず、何らかの形で将来の道につながる「種」だと考えています。例えば、音楽会での演奏がきっかけとなり、プロのマリンバ奏者になった卒業生もいますし、音楽の先生になるために音大に通っている卒業生もいます。実は私も本校の卒業生なのですが、音楽会での演奏が楽しかったから中高の吹奏楽部で打楽器を担当し、大学ではマリンバを専攻し、最終的に音楽教師として母校に戻ってきました。もちろん、音楽の道に進む子はごく一部ですが、卒業生が遊びにくると木琴を弾き始めることがよくあります。メロディではないのに、自分がやったパートは何年経っても覚えているのです。私自身も、何年生で何の楽器をやったか、楽譜まで覚えています。みんなで歌ったり演奏した曲は何年経っても記憶に残っているので、音楽の力はすごいなと思います。

上級生を通して見えてくる「将来像」

1986年から演奏し続けている「よろこびの歌」は、全学年による合唱奏です。6年生の器楽合奏に合わせて、1年生から5年生が合唱します。2020年に再編曲して新バージョンになったのですが、コロナの影響で2021年以降は歌うことができませんでした。今年度は通常開催となり、4年ぶりに全校合唱奏ができるので子どもたちも楽しみにしています。「よろこびの歌」以外は、毎年違う曲を選んでいます。器楽合奏用の曲は、4年生は明るいラテン音楽やジャズ、マーチ、5年生は映画音楽、6年生はクラシックを選ぶことが多いです。今回、5年生は映画「タイタニック」で使われた曲を演奏します。映画を見た世代ではないので、まずはアイリッシュダンスを踊るシーンで使われたアイルランドの伝統音楽に触れたり、映画の映像を少し見せるなどして関心を持たせるところから始めました。

全校合唱奏を体験したことがあるのは5年生と6年生だけなので、初めての学年はその迫力や一体感に驚くでしょう。全校合唱奏では、全員がステージに上がることはできないので、1年生から4年生は客席で、5年生と6年生がステージで演奏します。5年生は、目の前で6年生が演奏する姿を見ながら歌うので、翌年の自分たちを思い描くことができます。低学年も最初は、「お姉様たち、すごい!」と思うぐらいですが、だんだんスキルがついてくると、近い将来像を具体的にイメージできるようになっていきます。保護者の皆様にとっては、演奏を通して子どもたちが成長していく姿を見ていただける機会です。1年生が初舞台に立った姿を見ただけで涙ぐむ方もいますし、6年生の成長ぶりにも感慨深いものがあります。各学年の発表を見ながら、「こんな風に成長してほしい」という思いを持っていただけると思います。

6年生の児童3人にインタビュー

「マリンバは難しいところもありますが、練習を積み重ねていくうちにみんな上手くなっているなと感じます。久しぶりに全校生徒がそろって合唱奏ができるので楽しみです」(6年生)

「私が担当しているグロッケンは、音がとても高い鉄琴みたいな楽器です。音が目立って難しいパートもあるので最初は大変でしたが、だんだん慣れてきてみんなと音が合うようになってきて、今は練習が楽しいと思えるようになりました。1年生と2年生のときに全校合唱奏を見てすごいなと思っていたので、卒業前に全校合唱奏ができて嬉しいです。全学年で合わせるのは4年ぶりなので少し不安もありますが、楽しみにしています」(6年生)

「アコーディオンは左手を動かすのに力がいるので難しいですが、頑張って練習しています。今年は全校合唱奏ができるので、今までで一番張り切っています」(6年生)

子どもたちの成長と「音楽の力」の素晴らしさ

2023年度の「豊明 春の音楽会」は、1月27日(土)に西生田成瀬講堂で行われました。今年もそれぞれの学年が練習を積み重ね、学年ごとの演奏や全校合唱奏で心を合わせて精一杯力を発揮することができました。

最初に演奏した全校合唱の「あした笑顔になあれ」は、心がひとつになった瞬間を子どもたち自身も感じることができたでしょう。1年生、2年生のかわいらしい歌声は、聴いているだけで会場全体に春が訪れたような温かい雰囲気になります。3年生の合唱奏は、少しお姉さんらしくなった歌声と、クラスごとに演奏するリコーダーが会場に優雅な音色を響かせました。4年生、5年生、6年生は、それぞれ合唱と器楽合奏の発表があり、様々なジャンルの楽曲に挑戦。最後には、再び全校児童による80周年より続く「よろこびの歌」が演奏され、6年生は最上級生として下級生を立派に引っ張ってくれました。一人ひとりが一生懸命に取り組む姿に胸を打たれ、「音楽の力」の素晴らしさを感じる一日となりました。

取材協力

日本女子大学附属豊明小学校

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