取材レポート

関西大学初等部

充実したICT環境が育む「考える力」と「コミュニケーション力」

「思考力育成」を教育の柱として掲げ、最先端のICTを取り入れて、児童の学びへの積極的な関わりを高める、革新的で魅力的な学習環境を整備している関西大学初等部。充実したICT環境をどのように「考える力」や「世界とつながる力」の育成に活かしているのか、お話を伺った。

関西大学初等部 校長 田中 達也 先生のお話

関西大学初等部 校長 田中 達也 先生のお話

6つの思考スキルとシンキングツールで「考える技」を習得

頭の使い方を学ぶ「ミューズ学習」は、2010年度の開校以来、関西大学初等部が一貫して研究を進め、独自に構築してきた学びである。全国各地の教育関係者からも注目を集めているこの思考力育成への取り組みは、今どのように実践されているのだろうか。また、各教科の中ではどのように活用されているのだろうか。

開校当時から積み重ねてきた「比較する」「分類する」「つなげる」「評価する」「構造化する」「多面的に見る」という6つの思考スキル習得について、昨年度は改めて具体的な内容を再考することをねらいとして研究を進めてきました。大きなフレームとしては変わりないのですが、6つの思考スキルの中でも捉え方が複雑な「構造化する」「多面的に見る」といった部分で再定義を行い、考えるための手がかりとなる「シンキングツール」についても、どのように、どんな視点で自分なりの主張をまとめていくのか、といったところに焦点を当てて、指導ルールの改善を図ってきました。そのうえで、どのような提示の仕方をするのか、どんな仕掛けがいるのかの研究をより深めています。

例えば、ピラミッドチャートを使って自分なりの意見を組み立てていく際には、一番下の段にはまず事実を書き出し、次の段にはどんな視点で整理するのかをまとめていきます。学年によって違いがあるのですが、この視点をどう持っていくかを重視して、気づきを与えていくようにしています。なかなか難しい課題であり、事実をまとめる際に自分の思いが混ざってしまうこともあるけれど、子どもたちは一生懸命考えることに取り組んでくれています。

比較的シンキングツールを使いやすいのは社会科です。例えば、社会科の学習で、社会見学に行くことがありますが、事実を体験したのちに学んだことをまとめる際、子どもたちにはそれぞれの視点があります。人の動きに着目した場合、システムに着目した場合、環境に着目した場合で、最終的に導き出される主張は違ってきますが、使い方は同じです。シンキングツールは使うことが目的ではなく、必要に応じて使えるようになることが大切であり、自分なりに情報を噛み砕く点で使いやすいツールをきちんと選択し、最終的な考えをしっかりと自分でまとめられるようになることが重要なのです。

算数の授業では、直接シンキングツールを使うことは比較的少ないですが、ただ問題を解くだけでなく、この問いはなんだろう?と改めて考えてみて、自分なりに出た考えを式や図に変換してみるという風に、思考スキルを使っ ていると言えます。 国語の場合は、本の中に出てくるある場面とその後の場面を比較して、主人公の心情に対するイメージを膨らませ、イメージマップやコンセプトマップに落とし込みながら自分の言葉に変換してみよう、といった使い方もしています。シンキングツールは単に情報整理だけに活用するのではなく、発想力を展開していく際にも使っています。

直接シンキングツールを使わない場合でも、比較する、分類する等の思考スキルは無意識のうちに子どもたちが使っているでしょうし、例えば算数の問題を解く際に、自分なりの問いを見いだしたり、考えを式や図に変換してみたり、一般化したりするときに、それぞれがその場に応じた思考スキルを活用していると考えています。

教科等や学年によって切り口は違いますが、最初の問題提示の時に「はい、すぐに解きなさい」というような授業の進め方はせず、改めて問を見出す、見通しを立てる、といった部分になるべく時間をかけています。教師は子どもたちから出た答えに対して揺らしをかけてもう一度問いかけをしたり、考えるきっかけを与え、子どもたちの発想力を引き出していきます。また、ペアやグループによる学び合いも取り入れ、仲間と一緒に考えながら、互いの考えの交流を図り学習を進めています。

このように、あらゆる場面で何度も繰り返し6つの思考スキルや教科に応じた思考スキルを活用していくことで、高学年になると問題に取り組む際には、無意識に何かしらのツールを使っているというように、「考え方の技」が自然と身に付いていきます。3月に卒業した4期生たちは、「6年間で学んだ思考力をこれから先の学習でも活かしていきたい」「ミューズ学習が6年間の学校生活すべてにおいて役立った」という言葉を残してくれ、私たち教師もさらなる研究を重ね、学びを深めていきたいと意気込んでいます。

ICTの活用で思考力・発想力・創造力・表現力を引き出す

関西大学初等部ではICT環境の整備に力を入れており、普通教室に電子黒板を設置し、動画も含めた教材を大きく映し出して学べるようになっている。また、普通教室のあるフロアには、自由に使えるiPadやノートパソコンを用意しており、校内の無線LANを利用していつでも情報収集などに活用できるほか、iMacを備えたマルチメディアルームを設けて多様な授業で活用している。このように大規模なMac導入で先進的な学習に取り組んできた結果、2016年12月にはApple社からApple Distinguished Programの認定を受けた。Apple Distinguished Programとはイノベーション、リーダーシップ、最善の教育に関する条件を満たし、Appleの模範的な学習環境のビジョンを体現する学校を米国Apple社が選定するプログラムだ。24時間365日、1人1台のApple社製のノートブックまたはiOS製品、あるいはノートブックとiOS製品を利用できる“実践されている教育プログラム”を対象とした認定プログラムである。

ICT機器は、低学年から学年に応じて活用しています。一人ひとりがIDとパスワードを持ち、情報を管理しています。1~2年生のフロアには40台のiPadを、3~4年生と5~6年生のフロアにはそれぞれ40台の自由に使えるノートパソコンを設けています。また、5~6年生は、iPadを個人購入し学習に活用しています。自分専用なので、自宅にも自由に持ち帰り、学外での学びに活かしています。

iPadの活用は考える力を育てるツールとして非常に有効であり、タイムリーで効率的な学びを実現できる点での良さを強く感じています。iPadを使うことで、考えの全体共有が簡単になり、学び合いを深めることにつながります。また、新聞やレポート、プレゼンテーション資料を作る際にも、ICTを活用すればより伝えやすいものに仕上げることができます。デジタルネイティブ世代である今の子どもたちは、ICT機器を使いながら覚えていく感覚に優れています。使いながら新しい発見をし、多様なアプリケーションを駆使して、自在にインプット、アウトプットに活用しています。

PCやiPadの活用は情報検索にも便利なものではあるのですが、検索して出てきたものをそのまま自分の学習の成果にしてしまうのでは意味がありませんので、その点には気をつけています。調べること自体が目的ではないことを理解させ、情報検索後の到達目標を明確にすることで、学習が深まるように導いています。また、情報収集や表現の方法を学ぶだけでなく、情報通信社会に必要とされるルールやマナーもしっかりと学んでいます。

ICTの活用は教師にとっても非常にメリットが多く、自由検索をさせたり、あらかじめセレクトしたものを用意して活用させることもできます。思考力の育成を推進していくうえで、思考を可視化するツールとしてタブレット端末は様々な可能性があると考えています。子どもたちの学びを支え、思考力、発想力、創造力、表現力を引き出すためにも、役立っていると実感しています。

また、iPad活用のメリットは自分の学びを残していけることでしょう。もちろん、ノートをつけることでも振り返りはできますが、6年間の学びをデジタルデータとして記録、保存できるのは便利だと思います。
今回、Apple Distinguished Programの認定校となったことを機に、Apple社の協力のもとiBooksやiTunesといったアプリケーションを活用して、今まで以上に豊富なコンテンツを集めていくようにしたいと思っています。具体的にどんな風に学習を進めていくかはこれから取り組んでいくことになりますが、「考え方を考える」学習の可能性がますます広がっていくことでしょう。ICT活用範囲の拡大、多様化を図り、iPadを利用した授業の進化につなげていきたいです。

また、プログラミング教育は今後、文部科学省の支援体制も確立されていき、これから話題になっていくと思いますが、関西大学初等部としては単にプログラミング言語を学んだり、ソフトを使ってみるといったことだけでなく、関西大学初等部独自の思考力育成の取り組みとリンクさせた教育を展開したいと思っています。情報を集め、整理・分析し自分なりの考えを発信していくという学びは、本校が大切にしてきたものですが、プログラミングはまさにこうゆう流れと密接に関連していると考えています。今後、初等部ならではのプログラミング教育について具体的な検討を進めていきます。

「人とつながる力」を重視した英語教育・国際理解教育

世界に羽ばたく「関大っ子」を育てるために、関西大学初等部では英語と総合学習の時間を利用した国際理解学習に力を注いでいる。「人とつながること」はさまざまなことを生み出すことにつながっていく。さまざまな文化背景を持つ世界の人と協働するためには、広い視野で物事を捉える力とコミュニケーション力がなければいけない。そんな考えから、関西大学初等部では、英語教育とともに異文化コミュニケーション体験を重ねているそうだ。

英語教育の目標は、読む、聞く、書く、話す力をバランス良く身につけることです。1~2年生は毎朝15分間のモジュール学習で英語に親しみが持てるような楽しい学びを実践。3~4年生は週3回の45分授業で、「聞く」「話す」に加えて、「読む」「書く」ことにチャレンジ。5~6年生は週4回の45分授業でより高度で本格的な英語学習を行っています。1年生から英語学習をスタートさせ、卒業時までに英検4級の取得を目指していますが、これが最終ゴールではありません。英語教育で大切なのは、いかにコミュニケーションを図れるようになるか、だと考えています。英語に関わらず、人との関わり合いは大切ですが、これからの時代でグローバルに活躍する人材を育成するためにも、広い視野とコミュニケーション力、異文化理解力など「世界とつながる力」を培うことは必要不可欠なことです。そのため、英語教育は、英語の授業のほか総合学習の時間と関連づけながら、学習を深めています。

6年生で5泊7日のオーストラリア海外研修旅行を実施しています。現地の小学校では日本文化を伝える交流活動をするのですが、プレゼンテーション資料や現地でペアを組む児童への自己紹介ツールの作成など、ここでもICT環境が大きな役割を担っています。また、現地では英語を使ったコミュニケーションを図れるよう、英語学習における実践を通して繰り返し体験し、力を伸ばしています。ホームステイ先では、どんな形であれ、自分の想いを伝えられる力を持っていないといけません。実際には、片言の英会話スキルであっても、ボディランゲージレベルであっても、伝える力があればなんとかなるものです。思いが伝わったという経験は、それだけで自信につながりますし、もっとうまく伝えられるようになりたいという気持ちにもさせてくれます。研修旅行の後は「もっと英語を勉強して話せるようになりたい」「もっといろんなことを聞きたかったし、話したかった」という思いを口にしてくれます。その気持ちを大切に、先の英語学習に取り組んでくれればいいと思っています。

国際交流は、絵や手紙等のやりとりだけでなく、テレビ会議システムを活用した直接交流も行っています。アジアの国を中心に、学年に応じた内容で子どもたちが異文化に関心を持ち、互いに理解し合うことで国際人としての基礎を養いたいと考えています。昨年度の6年生は国際貢献をテーマに据え、インドやフィリピンの小学生と交流を通して、自分たちとは違う環境の国であることを知り、貢献するとは何か、自分たちに何ができるのか、を中心に考えを深めました。安易な考えでの寄付やバザーの実施ではなく、もっと深い意味での学習ができたことは、子どもたちにとっても大変良い経験になったようで、卒業の際には「国際貢献について学んだことは、忘れない経験になった」「この先も活かせる体験ができた」「国際的に活躍できる仕事ができるようになりたい」などといった思い出を語ってくれました。すべての人が将来、海外に出て行く必要はないと思うのですが、異文化を知ることで自国の文化に気づくこともあると思います。何かしらの気づきを持って、この先に役立ててくれることを願い、これからも「人とつながること」を重視した英語学習及び国際理解教育を進めていきます。

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